インド映画夜話

1983 2014年 168分
主演 ニーヴィン・パウリィ
監督/脚本/原案 アブリド・シャイン
"いつも夢を追いかけよう…しかし、近道などないことも肝に命じよう ーサチン・テンドールカル"




 インドを代表するクリケット選手、サチン・テンドールカルの勝利スピーチに人々が歓喜するただ中、24年前を想起する男がいた。
 24年前…1983年のクリケットW杯史上初のインド優勝の夜、サチンと共に彼…ラメーシャンもまた10才の少年だった。あの喧噪は、昨日の出来事のようにラメーシャンの脳裏に焼き付いている…。

 ケーララ州のブラフママンガラム村で育ったラメーシャンの少年時代は、小学校の勉強と修理工の父親からのエンジニア技術の特訓、同級生マンジュラーとの恋、友達とのクリケット試合に明け暮れていた。TVで見たインドのクリケットW杯優勝に影響されて、友人たちとクリケットチーム"フレンド11"を結成したラメーシャンは、地元トーナメントでも名を馳せる選手に成長するも、学業不振から親の不興を買って進学も出来ず、マンジュラーとの仲も破局し、友人の勧めとは言え英雄サチンが誰かも知らない村娘スシーラーと結婚することになる。いつしか彼は、クリケットとは縁のない修理工生活で日々を暮らすようになっていた。
 そんなある日、彼の息子カンナンがクリケットバットで遊んでいるのを目撃したラメーシャンは…


挿入歌 Thalavettam Kanumba (仲間がそろえば [ゲームは始まる])


 史上初めてインドが優勝した1983年のクリケット・ワールド・カップに影響を受けた、クリケット狂の親子2代の奮闘を描く、マラヤーラム語(*1)映画。
 本作は、ファッションカメラマン出身のアブリド・シャインの映画監督デビュー作となる。

 冒頭、インド・スポーツの英雄サチン・テンドールカルのスピーチに続いて描かれる1983年の史上初クリケットW杯インド優勝の熱狂ぶりで、そのW杯優勝の舞台裏映画が始まるのかと思ったらさにあらず。
 物語は、このW杯優勝に影響されてクリケットで青春時代を過ごした男たちのノスタルジックな友情劇を描く前半、そこから現実生活の中でクリケットを捨てて大人になっていく主人公が、息子にかつての自分を重ねた所から始まる次世代のための家族奮闘劇を描く後半で構成されて、基本的には80年代〜現代までを生きる主人公世代の、クリケットで振り返る郷愁的な青春劇になっている。

 主役ラメーシャンを演じたニーヴィン・パウリィは、1984年ケーララ州エルナクラム県アルバのシロ=マラバル典礼カトリック(*2)の家生まれ。父親はスイスで働いていたメカニックで、母親もスイスの病院に勤めていた看護士だったそう。
 FISAT(連邦科学技術院)で電子通信エンジニアリングの学位を取得。在学中の03年、ローカルアルバム「Olive」製作に参加していたそう。卒業後、一時ベンガルールでソフトウェアエンジニアとして働いていたものの、父親の死去にともない08年に辞職し実家に戻った後、10年公開のマラヤーラム語映画「Malarvaadi Arts Club」のオーディションに参加。1度は落選したものの再オーディションで主役級に選抜されて映画デビューしてヴァニータ・フィルム・アワードのデビュー賞を獲得。同年にFISATの同級生と結婚する。その後もマラヤーラム語映画界で活躍し続け、12年の主演作「Thattathin Marayathu(ヴェールの影の下)」が年間最大ヒットを飛ばしてトップスターの仲間入り。翌13年にはマラヤーラム語+タミル語映画「Neram(時)」に主演してタミル語映画界にもデビューし、フィルムフェア・サウスの男優デビュー賞などを獲得。さらに本作の後、15年の主演作「Premam(恋)」の大ヒットによって名実ともにマラヤーラム語映画界のスーパースターとなっているそうな。

 本作が監督デビューとなるアブリド・シャインは、ケーララ州コッタヤム県ベロア出身のカメラマン。
 主にファッション誌のカメラマンとして働きつつ、09年のオムニバス・マラヤーラム語映画「Kerala Cafe(ケーララ・カフェ)」の1編「Puram Kazchakal」を監督したラル・ジョセの手伝いで映画界入り。日本公開作「チャーリー(Charlie)」でもスペシャル・サンクスでクレジットされている。
 サチン・テンドールカルに敬意を表する本作で監督デビューし、ケーララ州映画賞の監督デビュー賞を獲得。この映画で、主人公の息子カンナンを演じたバーガト・アブリドは、アブリド監督の実の息子なんだそうな(*3)。
 その後、16年に同じニーヴィン・パウリィ主演で「Action Hero Biju(アクションヒーロー・ビジュー)」の原案・監督を務め、その後3本目の監督作「Poomaram」がひかえているとか。

 インド人の、国をあげてのクリケット愛を描きつつ、全体としては祖父・父親・息子の3代の親子愛・家族愛を描くインド映画の得意とする家族もの映画で、貧しい村人たちが物のない中でクリケットに熱狂する前半はノスタルジーの匂いの強い古き良き青春映画のよう。主人公の小学生時代に出てくる子役たちのマセた恋愛劇も嫌みに見えない可愛さなのが憎らしい。
 クリケットに興じる男たちの友情具合もいい感じで、スポ根と言うより友情根的な熱さ(*4)が支配する牧歌的なシーンの多さも魅力。まあ、チームメンバーの設定年齢が何才くらいなのかが気になったりならなかったりだけど…(*5)。リーダー的な友人キャラが、家庭の事情でクウェートに出稼ぎに行ってしまって湾岸戦争に巻き込まれるなんて展開は、ヒンディー語映画「エアリフト(Airlift)」を見た後だと色々考えてしまうゼ。
 そこから、それぞれに大人になってクリケットだけに熱狂する生活を捨てていく中盤から、「フェラーリの運ぶ夢(Ferrari Ki Sawaari)」のような父子による家族再生劇が中心になっていき、そこにクリケットを愛する数々の人々の協力・支援が主人公たちの持つクリケット愛や人生の再生劇に昇華していく。まあ、こっちも基本男の友情劇で、奥さんを初め周りの女性たちはほぼ置いてけぼり状態なのが家庭の平和のためにはいいもんなんだろか、と思わんでもないけども(*6)。

 まあ、日本人のこちら側がクリケットと言うスポーツへの理解が薄いため、わりと長い試合シーンやクリケットをめぐる色んな要素をちゃんと読み込めない自分を自覚してしまうのが悔し。
 インドと言う国を代表するスポーツを通して、親子や村、友達、男女が一帯となって歓喜するさまの美しさ、前半と後半の時代感覚が醸し出すノスタルジーや親近感(そのつど街角に貼ってある映画ポスターが画面に入り込んでくるのが微笑ましい)、有名選手の活躍の裏でさまざまに展開する人生模様の悲喜こもごもと、インド的共感覚のつまった映画なんだろうなあと思える佳作、でしょか。

挿入歌 Olakkam Choodumaayi (さあ、暖かい所にいらっしゃい)


受賞歴
2014 Kerala State Film Awards 主演男優賞(ニーヴィン)・助演男優賞(アノープ・メノン)・監督デビュー賞
2014 Filmfare Awards 女優デビュー賞(ニッキー・ガルラーニー)・作詞賞(B・K・ハリナラヤン)・批評家選出主演男優賞(ニーヴィン)
2015 National Film Awards 音楽監督賞(ゴーピー・スンデル)


「1983」を一言で斬る!
・いまいちルールのよくわからないクリケットの試合が、それでもなお熱い! にしても、冒頭のサチンの感動的スピーチは、一体いつのなんに関するスピーチなのぉぉぉぉぉ!!

2018.1.19.

戻る

*1 南インド ケーララ州の公用語。
*2 別名シリア=マラバル、ナスラーニーとも。インドで発達したキリスト教東方教会。
*3 だから、他の子役にくらべて特に目立たないのに出番が多いのか?w)
*4 とアホカワイさ。
*5 主人公は落第を続けているとは言えまだ学生だったみたいだけど。
*6 主人公の妻スシーラーはなんだかんだ言って協力的だけど、それも"よくわかってないから"って感じに描かれてるのがなんとも。
*7 多少メルヘン的なニュアンスも匂う?