インド映画夜話

2 States 2014年 149分
主演 アルジュン・カプール & アーリア・バット
監督/脚色 アビシェーク・ヴァルマン
"南インド人とタミル人って、なにか違うの?"
"大違いよ。タミルのブラーミンは菜食主義で肉を食べないの。貴方は?"
"パンジャーブ人だよ。俺たちも、アルコールなしに肉は食べないんだ"




 デリー出身のパンジャーブ人クリシュ・マルホートラはその日、カウンセラーにこれまでの経緯を説明していた。「助けて下さい。このままじゃ、僕は自殺してしまう…」

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 始まりは、西北インド グジャラート州のIIM-A(インド・アフマダーバード経営大学)から。
 当時大学生だったクリシュは、食堂のサンバル(南インドの香辛料入り野菜スープ)をめぐって喧嘩し続けるタミル人新入生アナーニヤー・スワミーナータンと炊事係の間に入った事から、アナーニヤーと急接近。思った事はズバズバ口に出しては男子学生をやりこめる彼女は、その性格故に大学でも浮いた存在。性格も生活文化も違う者同士ながら、2人は勉強の事・過去の事・家族の事・将来の事を語り合い、様々な出来事を越えて次第に愛し合うようになって、卒業後に結婚しようと誓い合う。
 しかし、卒業式に初顔合わせとなった両者の親は、お互いの異文化を乗り越えられず、話も合わないまま喧嘩別れしてしまう…!!「野蛮なマドラス人が!!」「無教養なパンジャーブ人め!!」


挿入歌 Iski Uski ([それがマイウェイかハイウェイか。その2つがどう違う?] なにがどうして誰が誰? [そう、ウィスキー仲間だけが真実さ!])

*パンジャーブ人の結婚式の中、皆が着る礼服が同系色(もしくはワンポイント高彩度色)でまとめられてるのに対し、高彩度色をふんだんに配色したサリーを纏うアナーニヤーと言う所にも、南北インドの色彩感覚の差が見えるようですネ!


 「きっと、うまくいく(3 Idiots)」の原作者チェータン・バガットの同名小説の、ヒンディー語(*1)映画化。ボリウッドからの、南北インド(タミルとパンジャーブ)の違いとつながりをテーマにした作品。ポスター等には「2 States one love...」とも表記されている。
 08年の「Jodhaa Akbar(ジョダーとアクバル)」の助監督として映画界に入ったアビシェーク・ヴァルマンの、初監督作となる映画であり(*2)、プロデューサーには、アビシェーク監督が助監督時代に参加していた映画の監督を務め、アーリア・バットの映画デビュー作「スチューデント・オブ・ザ・イヤー(Student of the Year)」を手掛けたカラン・ジョハール、本作と同じくアーリア・バット主演作「Highway(ハイウェイ)」他でプロデューサーを務めていたサジード・ナディアードワーラーがついている。

 ロマンス映画である本作の恋人同士が、宗教、社会的地位、財産、階級に阻まれる事もなく平等な恋愛関係を進展していきながら、いざ結婚となった時に襲いかかる巨大な壁、南北で大きく違う"インド文化の多様性"を、カリカチュア的に、時にコミカルに、時にシリアスに描き出していく。
 外国人には同じインド人でありインド(ヒンドゥー)文化にしか見えなくとも、デリー周辺とタミルでは、言葉も違う(*3)、衣食住が違う(*4)、家族の結びつきやコミュニケーション時のフィーリングも違えば、冠婚葬祭のありかた(*5)、その生活上の礼儀作法(*6)までも違う。
 パンジャーブ人にはタミルは"南インド"で十把一絡げかつ旧来的なド田舎としか思えず、タミル人から見たパンジャーブ人は自己中心的で金勘定しか知らないロボットにしか見えない。インド人自身もよく、北と南では「同じ国とは思えない」って言うからねえ…。東京と大阪の、さらに何十倍かぐらいの地域差と思えばイイでしょか。まあ、本作の物語をこじらせてる大半は、両家の親たちの子煩悩さとか家族間ディスコミュニケーション具合によるような気もしないでは…ないけど。

 主役クリシュを演じたのは、ボリウッド最大の映画一族カプール家出身のアルジュン・カプール。
 父親は名プロデューサーのボニー・カプールで、母親もプロデューサーでフューチャー・スタジオCEOを務めた故モナ・ショーリエー・カプール。妹にグーグル・インディアで働くアンシュラー・カプールがいる。96年の両親の離婚後、父親ボニーと結婚したシュリーデーヴィーが継母になる。
 1985年ムンバイ生まれで、02年の「Shakthi: The Power(シャクティ・ザ・パワー)」の助監督として映画界入り。07年に助監督で参加していた「Salaam-e-Ishq: A Tribute To Love(愛よ、こんにちは)」でカットされたシーンに出演した後、12年「愛の申し子(Ishaqzaade)」で役者&主演デビューを果たして、スターダスト・アワードのスーパースター男優賞とズィー・シャイン・アワードの男優デビュー賞、BIGスター・エンターテインメントの娯楽映画男優デビュー賞を獲得する。翌13年「Aurangzeb」の出演を経て、本作公開の14年には「ならず者たち(Gunday)」「ファニーを探して(Finding Fanny)」にも出演している。
 なんでも、子供時代には体重140sの肥満児だったとか、学業不信や両親の離婚などで鬱屈した時期もあったそうな。

 ヒロインのアナーニヤーを演じたのは、やはり映画一族出身の女優兼歌手アーリア・バット。
 1993年ムンバイにて、映画監督兼プロデューサー兼脚本家のマヘーシュ・バットと女優ソニー・ラズダーンの間に生まれ、99年の「Sangharsh(あがき)」で子役出演した後、12年にカラン・ジョハール監督作「スチューデント・オブ・ザ・イヤー(Student of the Year)」で本格的に映画&主演デビュー。14年には、本作の他「Highway(ハイウェイ)」、歌も担当した「Humpty Sharma Ki Dulhania(ハンプティ・シャルマーの花嫁)」、短編映画「Going Home」、カメオで「Ugly」にも出演と言う活躍っぷり。

 クリシュの母親カヴィタを演じるのは、「ラジュー出世する(Raju Ban Gaya Gentleman)」でセカンドヒロインを演じていたアムリター・シン。「ラジュー」の頃からすると隔世の感のある本作での恋愛模様を、メチャクチャにかき回しまくる気っ風のいいおかんをこれでもかと演じてくれていて、本作でフィルムフェア助演女優賞ノミネートしている。
 クリシュと対立する父親ヴィクラム役には、「スチューデント・オブ・ザ・イヤー(Student of the Year)」にも出演しているローヒト・ローイ。結婚の最大の障壁となる父親像を演じきってやはりフィルムフェア助演男優賞ノミネート。なんでも、ローヒト・ローイ自身も学生時代には、本作前半の舞台となるグジャラート州アフマダーバードで生活していたんだそうな。
 一方、アナーニヤーの母親ラーダー役には、ケーララ州コーチ出身の女優兼映画監督兼社会活動家レーヴァティ(本名アーシャ・クッティ)。主にタミル語、マラヤーラム語映画で活躍している人で、カンナダ語、テルグ語、ヒンディー語映画でもたくさんの出演歴を持つ。02年に初監督作の英語映画「Mitr, My Friend」でナショナル・フィルム・アワードの英語映画注目賞を受賞している映画監督でもあり、日本公開作では「マルガリータで乾杯を!」で主要キャラ出演してるので、要チェック!
 アナーニヤーの父親シヴ役を演じたのは、役者兼脚本家としてヒンディー語映画で活躍するシヴ・クマール・スブラマニアム。90年のヒンディー語映画「Parinda(鳥)」でフィルムフェア脚本賞を、06年の「Hazaaron Khwaishein Ais」で原案賞を獲得している人とのこと。

 原作者が実際にIIM-Aに通っていた事もあるとかで、そうした体験に基づく大学描写を反映してか、ロケも本物のIIM-A校内で進められた他、デリー、チェンナイ、ムンバイでも撮影されているそうな。朝のチェンナイが朝霞なのかスモッグなのか、ものスゴい霞んでるカットがいくつかあったけど、あれは実際のチェンナイなのか、デリーやムンバイで撮影されたものなのか?
 IIM-Aのリアルさは当然ではあるけど、タミルの描写に関してはタミル人から見ると「?」となる部分もあるようで、生粋のタミル人設定のはずのアナーニヤーのしゃべるタミル語にも、ツッコミが入ったとかなんとか。

 そのタミルのスワミーナータン家は、主人公クリシュにとっては完全な異郷であるものの、一度その輪に入れば人情を大事にする強い結びつきでまとまった、理想的家庭として描かれている(*7)のに対して、映画後半のテーマでもあるデリーのマルホートラ家の家族再生を詳細に描くのは、ヒンディー圏の人に向けてより分かりやすくするためか。
 それぞれの家族が個別に問題を抱える中、その家族や親族のありようが、似ているようで違う、違うようで似ているシンクロ具合、どちらにしろ子供のため・家族のために奔走する親や子供たちの似た者同士具合が微笑ましい一本。
 あとはとにかく、シャンカル=イーサン=ロイによる音楽が、どれもこれもスンバラし!

挿入歌 Locha-E Ulfat (僕は愛の謎かけに答えられない)

*周りも変な眼で見てるようだけど、IIM-Aって女子が男子寮に、男子が女子寮に簡単に入ってけるもんなの?


受賞歴
2014 Star Box Office India Awards ボックス・オフィス・マジック(驚異的大ヒット)賞
2014 BIG Star Entertainment Awards 最優秀カップル賞(アルジュン&アーリア)・ロマンス映画主演女優賞

2015 Screen Awards マーケティング賞
2015 Filmfare Awards 音楽監督賞(シャンカル=イーサン=ロイ)・監督デビュー賞
2015 Bollywood Hungama Surfers' Choice Music Awards 次席作詞賞(アミターブ・バッタチャルジー/Masy Magan)
2015 IIFAインド国際映画批評家協会賞 音楽監督賞(シャンカル=イーサン=ロイ)・撮影賞(ビノード・プラダーン)


「2 States」を一言で斬る!
・1つ気になることと言えば、ひょっとしてムンバイ人って『南北インドをつなげてるのはオレたち!』とかって思ってたりしない……よねえ?

2016.5.20.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 だから、劇中のミュージカル"Iski Uski"冒頭で、新郎新婦の「Jodhaa Akbar」コスプレな肖像画が出てくるのネ!
*3 ヒンディー語は印欧諸語に属し、格変化あり。対しタミル語はドラヴィタ系に属する日本語に近い文法構造の言語。特にタミルは、国の「ヒンディー語を唯一の国語にする」と言う方針に猛烈に反発している地域とも言われてたりするし。
*4 食だけでも小麦中心か米中心か、菜食か肉食か、アルコールを飲むかどうかも地域やコミュニティごとに大きく異なってくる。
*5 結婚時のダウリー始め結納品の有無とか。
*6 屋内で靴を脱ぐのか脱がないのか等。
*7 多少メルヘン的なニュアンスも匂う?