インド映画夜話

Alibaba and 40 Thieves 1966年 154分
主演 サンジーヴ・クマール & L・ヴィジャヤラクシュミー
監督/製作/特殊効果監修 ホーミ・ワディア
"アリババ、貴方は私の心からの願いを、1度だけ叶えると約束したのよ"




 その夜、大盗賊団の襲撃によって城を落とされた王女マルジーナは、両親の死を前にして復讐を誓いながら、臣下アフラトーンに無理に連れられて落ち延びていく…。

 その頃、街の大商人アリ・ババは、兄ミラ・カシムの婚礼のため大忙し。
 貧者に富を分け与え、婚礼儀式を取り仕切り、新婦の様子をうかがいながら兄を祝福する。しかし、そんなアリを誘惑する新婦ベーガムは、アリに拒否された腹いせに夫カシムに「アリに乱暴された」と虚偽報告し、アリを姉ラズィーヤ、従者グルバダンと共に家から追放してしまう!
 失意の中、しがないロバ飼いになったアリは、市場近くでカシム配下の護衛隊に追われる大道芸人と踊り子を助けるのだが、その二人こそ誰あろう、城を落ち延び大道芸人に扮していたマルジーナとアフラトーン! 調子のいい2人を新居で保護することになったアリだったが、アフラトーンと共に柴刈りに出かける中で、「フルジャ・サムサム(開けゴマ)!!」の叫び声と共に洞窟の岩戸が開くのを目撃する…。


挿入歌 Mai Masum Dil Masum (私は純粋、心も潔白 [目と目が合う時には、どうなるの?])


 同じホーミ監督による、1954年の同名白黒映画(マヒパール&シャキーラ主演作)のフルカラー・リメイク作。
 「千一夜物語(*1)」を代表する一編(*2)「アリババと40人の盗賊」を映像化したヒンディー語(*3)+ウルドゥー語(*4)映画。

 基本的には、原作「アリババと40人の盗賊」そのままに話は進むけれど、冒頭でヒロイン マルジーナ(*5)が元王女だったと言う描写などの脚色要素も入ってくる。この辺は、叙事詩ラーマーヤナとかのインドの古典文学要素を取り入れてたりする…のかどうなのか。

 まあ、元王女のわりに踊り子として馴染みまくってるマルジーナの下町気質的な気っ風の良さなんか「あんたホントに元王族?」と疑いたくなるようなノリの軽さで、映画全編もそんなおおらかな雰囲気で作られたファミリー向け安心設計。盗賊の頭に会うまで復讐の誓いなんか忘れてでもいるようにアリババを追っかけるマルジーナといい、誤解から兄カシムに勘当されて家を出て来たはずなのにわりと下町暮らしにすぐ馴染んでしまうアリババといい、"悩まない登場人物"の軽快さは、日本も色々学ぶべき要素、かもしれなくもないかもしれない。うん(*6)。

 ビックリなのが、原作では魔法として描かれていた盗賊の隠れ家の洞窟の岩戸が、奴隷(小人?)たちによる人力の機械構造として描かれる点。
 この辺は、ヒンディー的リアリズム感覚なのか、魔法と言う要素を完全に排除したものになっていて、「じゃあ、盗賊団とは別人が呪文となえたら、反応しなけりゃいいのに」とかツッコみたくはなるけども…ウーム(*7)。

 主演アリババ役には、1938年ボンベイのグジャラート人家庭に生まれたサンジーヴ・クマール(生誕名ハリハール・ジェタラール・ジャリワーラー)。
 幼少期はスーラト(*8)で育ち、ボンベイの映画学校で演技を学ぶ。舞台演劇で頭角を現し国立劇場で活躍。1960年のヒンディー語映画「Hum Hindustani(我らインド人)」の端役で映画デビューし、65年の「Nishan」で主演デビュー。翌66年には、本作を含む6本の映画に出演し、68年の「Shikar」でフィルムフェア助演男優賞を初獲得。70年の「Dastak(ノック)」、73年の「Koshish(奮闘)」でナショナル・フィルム・アワード主演男優賞も受賞し、75年の「Aandhi(嵐)」、76年の「Arjun Pandit」で2年連続フィルムフェア主演男優賞を獲得している。ヒンディー語映画の他、タミル語、マラーティー語、パンジャーブ語、テルグ語、シンド語、グジャラート語各映画作品でも活躍。日本でも映画祭上映された「炎(Sholay)」のタークル役は、その印象的な存在感もあって彼の代表作とされる。
 生まれながらに遺伝的な先天性心臓疾患を抱え、生涯独身を通したまま(*9)1985年に心臓発作のため物故される。享年47歳。

 ヒロイン マルジーナを演じたのは、女優L・ヴィジャヤラクシュミー。
 47年の「Shanti」で映画デビューした人らしいけども、詳しいデータが出てこない...。同じ名前の女優と混同し合ってるデータがあってよくわからず。ムゥ。

 監督を務めるホーミ・ワディアは、1911年英領インドのスーラトに生まれた映画監督兼脚本家兼プロデューサー。
 パールシー(=ゾロアスター)教徒のワディア家(*10)に生まれて、ボンベイで育つ。16才の時に学校を辞めて兄JBH・ワディア(*11)の助手として映画界入り。33年の「Lal-e-Yaman」で撮影監督に就任しつつ、JBH他と共に実家造船会社敷地内に映画会社ワディア・ムービートーンを設立。兄と共に映画製作を進めながら、同年に自身のプロダクション バサント・ピクチャーズも設立させている。
 35年の「Hunterwali(女狩人)」で脚本&監督デビューして大きな評判を呼び、この映画で初主演したスタント女優フェアレス・ナディア(*12)を一躍トップスターに育て上げる。
 後に労働争議に参加するも、81年の会社との争議決裂によって映画界を去る。04年にムンバイにて物故されている。

 原作の物語が、後半はアリババではなくヒロインの奴隷モルジアナが大活躍する話になっているのを反映して、映画中盤〜後半はヴィジャヤラクシュミー演じるマルジーナの見せ場が次々と出てくるのが楽しいものの、映画全体がわりと強引なアクションとコメディで構成されている上に、ラスト部分は取ってつけたような盗賊の頭とアリババとの一騎打ちになっていて「まあ、映画にはラス立ちが大事だけどねえ…」って感じ。
 強欲かつわがままなミラ・カシムなんかは、原作そのままな描かれ方をするんだけど、初対面の新婦には「うわ」って感じに容姿を嫌がられ、盗賊団に捕まった時には足蹴にされて40人に執拗に小突かれつつ笑われるなんて絵面は、やっぱり可哀想に見えてしまいますわ…演じる側も結構苦痛だったんじゃないかと同情しちゃうけど、あんだけ完璧な小悪党っぷりは役者冥利に尽きるってもんかね。
 あとこの映画で注目すべきは、黄金(ソーナ)だの宝石(ジャワラー)だの真珠(モーティ)だの言う宝飾関係のヒンディー単語がバシバシ出てくる所だゼ、フルジャ・サムサム!!

挿入歌 Mere Solve Saal Ka (私の魔法は16年もの)



「A40T」を一言で斬る!
・岩戸の扉を開けて中に入っていくアリババ、思い切り敷居は踏んでいくんですネ。

2019.6.28.

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*1 または千夜一夜物語、アラビアン・ナイトとも。
*2 ただし、元のアラビア語原典には存在しない、フランス語版から追加された外典的な話である。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 パキスタンの国語で、インドではジャンムー・カシミール州の公用語。主にイスラーム教徒の間で使われる言語。
*5 一般的日本語表記では、モルジアナまたはマルジャーナ。"小さな真珠"とか"珊瑚の枝"とかの意…つまりは商取引の物品名由来…らしい。原作ではアリババに仕える聡明な女奴隷。
*6 結局、マルジーナの国がどうなったのか、舞台となってるのがその国内なのか、よくわかんないしぃ…。
*7 しかも、最後まで解放されてるような描写がない!
*8 現グジャラート州内の都市。
*9 恋人はいたそう。
*10 スーラトを起源とする、造船業を生業とする家系。英領インド時代に、ボンベイにて英米向けの軍艦を多数造り上げて業界大手に君臨する。
*11 ジェイムス・ボーマン・ホーミ・ワディア。本作で原案&脚本も担当している。
*12 本名メアリー・エヴァンズ。オーストラリア人女優。後の61年にホーミ・ワディアと結婚。