インド映画夜話

ジャパン・ロボット (Android Kunjappan Version 5.25) 2019年 160分
主演 スラージ・ヴェニャーラムード & サウビン・シャーヒル & ソーラジ・テラカッド
監督/脚本 ラティーシュ・バーラクリシュナン・ポドゥヴァール
"頑固老人のもとにやって来たのは"
"日本製のお手伝いロボットだったー"




 最新介護ロボットの導入は、しかし人の生活を豊かにできるのであろうか…
 「クソッ! いっそ殺せ!!」

 ケーララ州北部パィヤンヌルに暮らす屁理屈ばかりの皮肉屋親父VK・バースカラン・ポドゥヴァルは、機械嫌いで他人に口は出すけれど口を出されるのは大嫌い。今日も行方不明になった友人クンニャッパンの葬式の最中に諍いを起こして、喪主であるクンニャッパンの息子バーブの怒りを買っていた。
 バースカランの息子スブラマニアン(愛称チュッバン)は34才。エンジニアの職探し中ながら、父親の介護もあって家を離れられず何度も仕事を辞める羽目になっている。今度こそ希望通りの仕事を見つけて来たと言っても、ロシアまで引っ越さないといけないために再び父親と大喧嘩し、ついに怒りに任せて父を置いて出奔することに…。

 ロシアで、日本企業の介護ロボット開発に携わるスブラマニアンは、故郷の父を心配しながらも同僚の印日ハーフでロシア育ちの女性ヒトミと知り合う。次第に愛し合う2人だったが、そこに「ヘルパーを追い返した親父さんの体調が悪化した」と連絡を受けた彼は、ヒトミと相談して会社で作っていた介護ロボットと一緒に一時帰国する。
 「ほら、新しいヘルパーだよ」
 「そんなガラクタいらん! 持って帰れ!!」
 「人だと思って話しかけてみなよ」
 「いらんわ、そんな女…男? でもな」


挿入歌 Ormappoove Poru (思い出の花束よ)


 本作が監督デビュー作となる、ラテーシュ・バラクリシュナン・ポドゥヴァル監督のマラヤーラム語(*1)SFコメディ映画。

 そのプロットは、2012年のハリウッド映画「素敵な相棒 フランクおじさんとロボットヘルパー(Robot & Frank)」から着想を得ているそう。大ヒットによって、続編タイトル「Alien Aliyan」も発表。それとは別に、タミル語(*2)リメイク作「Koogle Kuttapa」も製作されている。
 インド公開の後、アラブ、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、オーストラリア、カナダ、英国、アイルランド、米国、オーストリアでも公開されているよう。日本では、2020年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)にて上映。翌21年にはIMO(インディアン・ムービー・オンライン)にてDVDも発売。23年のIMWでも上映。24年のシネ・リーブル池袋のゴールデンウィークインド映画祭、大阪の第七藝術劇場と扇町キネマ開催のゴールデンウィークインド映画祭でも上映されている。

 冒頭から、白黒画面の中コーヒー作りながら音楽にノッて"楽しんでいる"介護ロボットが可愛い。
 映画の主要テーマは老人介護問題と家族の離散ながら、そこにSF的なロボットの存在が入って来ることで、インド映画で重要視される家族制や宗教観に揺らぎが与えられる様を、ゆるゆるとしたコメディで描いていく可笑しさがなんとも楽しい映画。
 基本的にはヒンドゥー教徒ばかりが住んでいる村を舞台に、暇つぶしに飲食店や公園で集まる時でも特にカーストとか気にせずに議論しあい、冗談を飛ばし合い、皮肉を言い合う。共産党員(*3)も混じって政治への皮肉をズケズケ言ってたりするそんな村人たちの和やかさも、妙に理想的な田舎像を見せて来るよう。
 そこに現れた最新鋭(?)の介護ロボット クンニャッパン(*4)が常にピカピカな姿でアナクロなケーララの家・台所・街路に現れる画面的なアンビバレンツも微笑ましか。
 日本製なのにロシアで作ってる(*5)のは、共産党が強いケーララのロシア愛(ソ連愛?)の強さ故でござろうか…。印日ハーフの美女とすぐに仲良くなるご都合展開は置いといて、特にロシア要素のないクンニャッパンは、カースト色の薄いケーララの村との対比でありましょか(そんなわけあるかい)

 クンニャッパンといえば、でかい目と口で表情を作り出す顔のデザインの可愛さが秀逸。特に喜怒哀楽を目で表現してるのは、絵文字で目の表情に注目する日本らしさを継承しているのか、ケーララ人も「目は口ほどに物を言う」側の感情表現が好まれる文化なのか(*6)。外出中に病院に担ぎ込まれたバスカランの役に立たなかったと落ち込むクンニャッパンの顔、やたら可愛い。タミルリメイク作の縦長顔のデザインより、こっちの方が断然魅力的ですゼ!!

 その着ぐるみ然としたロボット クンニャッパンを演じていたのは、1995年ケーララ州マラップラム県テラッカド生まれのソーラジ・テラカッド。父親は銀行の集金代行業者だそう。
 子供の頃からものまね芸で活躍し、商学士を取得しつつTVと舞台でスタンダップ・コメディアンとして人気を博す。15年の「チャーリー(Charlie)」で映画デビューして、マラヤーラム語映画界とTV界双方で活躍中。

 頑固親父バスカランを演じたのは、1976年ケーララ州トリヴァンドラム県(現ティルヴァナンタプラム県)ヴェンジャラモードゥ生まれのスラージ・ヴェニャーラムード(*7)。父親は退役軍人とか。
 当初は父や兄と一緒の軍人を志望するも、自転車転落事故による骨折で断念。そのまま工学系の公立大学で工学を修了しながら、卒業後にものまね芸人としてTV界で活躍。01年の「Ladies & Gentleman」「Sukhamo Sukam」に映画出演後、翌02年の「Jagapoga」でクレジットデビュー(?)。以降、マラヤーラム語映画界で活躍していって、09年の「Duplicate(替え玉)」で主演デビューする。15年の「Perariyathavar(名無し)」でナショナル・フィルムアワード主演男優賞を獲得。以後も数々の映画賞を獲得する人気男優となっている。

 気になる印日ハーフでロシア育ちのヒロイン ヒトミを演じた女優は、1994年アルナーチャル・プラデーシュ州バサルに生まれたケネディ・ジルド。
 警察官の父と児童福祉事務員の母の間に生まれ、姉たちも母と同じ事務員とか。母親の反対をおして女優になるため単身ハイデラバードに移って舞台演劇で活躍。本作で映画デビューとなって、全く知らなかったマラヤーラム語に四苦八苦しながらの演技となったと言う(*8)。
 劇中、そのモンゴロイド顔に日本人と言われてもそんなに違和感はないけれど(*9)、多少感情表現が大げさかつ唐突なのは、映画デビュー作故か演出側との意思疎通がうまくいかなかった故か…。

 しかし、この映画の秀逸な所は老人とロボットの和気藹々ぶりだけでなく、後半に牙をむく「人の認識の揺らぎとその誤解具合」。
 バスカランがクンニャッパンに息子の影を投影していくが如く、村人はクンニャッパンに人の姿を投影していき、バスカランと言葉の行き違いで対立するバーブはその都度誤解を拡大させてバスカランと父の名で呼ばれるクンニャッパンへの怒りをつのらせていく。ロシアの会社が言う介護ロボットのバグもまた、持ち主の認識の齟齬から来る不幸な事故である事がそこはかとなく描かれ、「お前はヒンドゥー教徒か?」と寺院入場を咎める司祭の前でクンニャッパンの胸ウインドウからラーマとシータの図像が現れれば「ヒンドゥーという事でいいだろう」と人々は納得する。この、人間が持つ曖昧な認識域と相互誤解は、YES/NOだけのプログラムであるはずのロボットにはないものでありながら、クンニャッパンはバスカランとの生活の中で、そう行った人間らしい曖昧な感情らしきものを見せ始める…。
 それこそ「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」ならぬ「アンドロイドは神の夢を見るか」と言う人間側の疑問であり、つまる所「アンドロイドは神の夢を見る、と周りが勝手に思う」事で扱いが変わる現象を生んでいく。ロボットに息子の姿を重ねるのも、ロボットに親が盗られると思うのも、ロボットに父の死体が隠されていると怪しむのも、人が人であるがために起こりうる心理現象。「曖昧な誤解」こそ、「神」なるものの正体なのではないか…。
 最後にバスカランに「私は人間ではありません」と諭すクンニャッパンに、感情があったのか、バスカランの息子としての自覚が芽生えていたのか、クンニャッパン本人にしかわからぬ問いではあっても、そう感じたいと欲する周りの人間の願望であるかもしれない問いであっても、「神」はそこにいたと思わずにはいられない。それこそが人を人たらしめる情の在り方かもしれない。映画は、「ロボットの中に神を見る」を通して「ロボットの中に神を見たと感じる、その感じ方こそが人である」と冷徹に語っていく。思い出を「忘れる」ことができるのもまた人にしかできない事でもあり…。

 では、冒頭シーンでのコーヒーを入れる時に同時に音楽を"楽しんでいた"同型ロボットに、「神」は宿っていたのかどうか…? その問いもまた、堂々巡りを繰り返す。「私を見つけられるとはとても思えない」と語るバスカランの片思い相手サウダミニとのすれ違いの様子に、その答えが見つけられるかも…しれなくもないかも。うん。

挿入歌 Shilayude Maatile (石でできた心から [流れ出るもの])


受賞歴
2019 Keraka State Film Awards 主演男優賞(スーラジ)・監督デビュー賞・美術監督賞(ジョシフ・シャンカル)
Indian Recording Arts Academy Awards 音響デザイン(映画)賞(ジャヤデーヴァン・チャッカダト)


「ジャパン・ロボット」を一言で斬る!
・クンニャッパンの姿が村人に公開されて噂が広まっていく中で、井戸端会議で「バスカランがロボットを雇った」と言ったおばあちゃんに、相手のおばあちゃんが「ホンマカーナ?(本当?)」って言ってるように聞こえるとですよ

2021.10.8.
2023.6.17.追記
2024.4.13.追記

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*1 南インド ケーララ州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 宗教否定の共産主義者でっせ!
*4 近所の故人の名前を継承している設定だけど、名前に"JAPPAN"が入っている!
*5 しかも社内は基本英語で会話している。
*6 欧米の顔文字は、口に注目するじゃん?
*7 本作封切り時にはなんと43才! そうは見えないのが凄い!!
*8 以上、ネット記事からの要約ですが、その記事群では本作の役名を共通して「ヒトリ」って書いてました。ああ信用度が…。
*9 やたら出演シーンにかかる中華風BGMが気になるっちゃ気になりますが。