インド映画夜話

Ala Modalaindi 2011年 135分
主演 ナーニ & ニティヤー・メーノーン
監督/脚本/原案/出演 B・V・ナンディニ・レッディ
"それは、おかしな可笑しなラブストーリー"




 男が追われていた。
 その男を捕まえた誘拐請負業者ジョン・エイブラハムは「仕事は済んだ。これで、そっちの結婚式は予定通り進められる。こいつは俺が運んでおくぞ…生死に関わらずな」と電話連絡しながら、捕まえた男を車に乗せて走り出す。車中にて「お前、話はできるか? なにか話を聞かせろよ。…そう、どうしてお前が結婚式に行かなきゃならんか聞かせろ。いいか? これは命令だぞ」と彼に銃を突きつけられた男は、渋々口を開き語り出すのだった…

 …僕の名前はガウタム。
 片思いしていたシムランに告白しようとしたその時、交通事故に遭って入院している間に、彼女は僕の担当医と恋仲になって3ヶ月後に結婚式を挙げた。その式場で、同じように恋人アーナンドをシムランに奪われたと嘆く女性ニティヤーと出会って意気投合した僕たちは、式の終わりに「また、同じように会えるかもね。今度は医者の代わりに俳優かエンジニアを用意するよ」「じゃあ私は、シムランの代わりにもっといい人を連れてくるわ」と言って笑って別れていったんだけど…


挿入歌 Edo Anukunte (なにかを期待した [のに、別のことが起こった])


 タイトルは、テルグ語(*1)で「こんな風に始まった」。副題は「A Crazy Love Story」。
 B・V・ナンディニ・レッディの初監督作となる、ロングランヒットのラブコメ映画。

 後にマラヤーラム語(*2)吹替版「Angane Thudangi」が公開。さらに14年には、バングラデシュ映画リメイク作「Olpo Olpo Premer Golpo」が、タミル語(*3)リメイク作「Yennamo Yedho」が、16年にはカンナダ語(*4)リメイク作「Bhale Jodi」も公開。ヒンディー語(*5)リメイクの予定もありとか。

 新人監督&若手有望株キャストによる、トボけた味わいが可愛らしいラブコメの傑作。
 すれ違い続ける男女の進展を主軸に、何者かの指示で誘拐される主人公のサスペンスも物語を盛り上げ、かつ全体として爽やかな青春劇になっている。基本を抑えたラブコメ劇も、少し語り口を変えればここまで面白くなるって意味では、映画を勉強する人には要チェックな映画でありまっせ!

 とにもかくにも、主役ガウタム&ニティヤー演じるナーニとニティヤー(*6)の魅力全開。なにやっててもカッコ可愛いのがスンバラし。
 最初のガウタムの交通事故から、両者の知らない所でニティヤーとの関わりが始まっていたとする「運命の糸はすでに決まっていた」カップルが、そこから徹底的にすれ違いっていく様子をずっと見ていたくなるんだから、そのテンポも語り口も小粋なセリフの応酬も、飽きさせない工夫満載でウマい! そして、それを受けて立つ役者たちのキッチリした演技力も良きかな。最後のオチも含めて楽しい楽しい日常青春劇でありますよ。

 主役ガウタム演じるナーニ(生誕名ガンタ・ナーヴィン・バーブ)は、1984年アーンドラ・プラデーシュ州ハイデラバード(*7)生まれ。通称"ナチュラル・スター"。
 大学時代にマニ・ラトナム監督を目指して映画監督を志し、映画プロデューサー アニルを介して助監督として映画界入り。脚本やラジオ用の台本制作を通して"ノンストップ・ナーニ"と呼ばれる評判を受け、俳優業の誘いを受けて08年のテルグ語映画「Ashta Chamma(盤上ゲーム)」で主演デビュー。自分と監督の体験談をアイディアに織り込んだ本作の大ヒットによって「自然体の俳優」として大絶賛される。
 本作と同年公開のタミル語映画デビュー作「Veppam(心)」でヴィジャイ・アワード主演男優賞を獲得。翌12年のテルグ語映画「マッキー(Eega)」でカナダのトロント・アフターダーク映画祭ヒーロー賞と南インド国際映画賞の新人ヒーロー賞を受賞。同年公開作「Yeto Vellipoyindhi Manasu(僕の心は、どこかへ行ってしまった)」ではナンディ・アワード主演男優賞を受賞と、以降も次々と映画賞を獲得する注目俳優となっていく。
 13年には、ナレーション出演している「D for Dopidi」でプロデューサーデビューもしている。

 ヒロイン ニティヤーを演じるのは、1988年カルナータカ州バンガロール(現ベンガルール)生まれのニティヤー・メーノーン。
 大学でジャーナリズムを専攻しながらも、途中で映画制作に方向転換してプネーのFTII(インド映画&TV研究所)の撮影コースに入学。そこで出会ったB・V・ナンディニ・レッディ(*8)に勧められて俳優業を始めるようになる。
 05年のカンナダ語映画「Seven O' Clock(午前7時)」で本格的に女優デビューとなり、08年の「Akasha Gopuram」で主演&マラヤーラム語映画デビュー。ナンディニ監督自身に請われて本作でテルグ語映画デビューとなり、ナンディ・アワード主演女優賞ほかを獲得。同年公開の「180」と「Veppam」でタミル語映画デビューも果たしている。
 10年のカンナダ語映画「Aidondla Aidu」で挿入歌"Payasa"を担当して歌手デビューもしていて、本作でも2曲("Edo Anukunte"と"Ammammo Ammo")担当。以降もさまざまな映画で女優とともに歌手としても活躍している。

 監督を務めるB・V・ナンディニ・レッディは、ハイデラバードの会計士の家生まれ。
 ニューデリーの大学で政治学の修士号を取得。学生時代から舞台演劇、弁論、クリケットで活躍していて、友人を介して映画監督ガンガラージュ・グンナムを紹介され、96年のテルグ語映画「Little Soldiers(リトル・ソルジャー)」の助監督に入って映画界入り。映画会社スレーシュ・プロダクションで働く中、11年に本作で監督デビューしてナンディ・アワード監督デビュー賞を獲得する。以降、13年の「Jabardasth」、16年の「Kalyana Vaibhogame(絢爛たる結婚式)」とテルグ語映画監督として活躍している他、「Mana Muggari Lovestory」などWeb配信ドラマシリーズの制作にも参加している。

 キャスティング的には、のちに「バーフバリ(Baahubali)」にも出演している女優ローヒニーが、同じように主人公の良き母親として印象的な演技を見せてくれるのも見所(*9)
 誘拐犯ジョン・エイブラハム役のアシーシュ・ヴィディヤルティも、いつも通りの強面ワルとして登場しつつ、結構トボけた役を軽快に演じていて笑かしてくれるのが楽しい。
 クレジット的にはセカンドヒロインの位置にいる、カヴィヤ役のスネーハー・ウラルはお綺麗でしたけど、恋の鞘当て役から出れない感じなのが惜しいかなあ…。アイシュっぽい化粧が、よりそんな雰囲気を助長させる…。

 軽快な映画テンポの中に挿入される、数々の過去映画ネタも楽しい。
 タミル語映画「アンジャリ(Anjali)」をネタにするあたり結構ギリギリな気もしないではないけど、登場人物たちの愛嬌さが全部をプラス方向へ持ってってるので、ニヤニヤしながら見れてしまう。色々過去映画ネタが理解できる自分にもビックリだゼィ。しかも、それらがしっかり伏線として機能するのも、エラい!
 それにつけても、ニティヤーのコロコロ変わるファッションも美しきかな!!

挿入歌 Ammammo Ammo (ああ神様! [女の子はその美貌の網を広げていくよ。男の子は甘い話に溺れてるわ])


受賞歴
2010 Nandi Awards 主演女優賞(ニティヤー)・第1作監督賞
2011 Hyderabad Times Film Awards 有望新人女優賞(ニティヤー)・脚本賞(B・V・ナンディニ・レッディ)
2011 Ugadi Puraskar Awards 主演女優賞(ニティヤー)
SIIMA Awards テルグ語映画監督デビュー賞


「AM」を一言で斬る!
・実際のニティヤー・メーノーンと同じくバンガロール出身の劇中のニティヤー、全編テルグ語で喋ってる気がするけど、カンナダ語要素とかどっかに入ってるのかしらん?(監督も、父方はバンガロール出身だそうだから、なにがしか気づいてないネタがありそうだけども)

2019.2.15.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド ケーララ州の公用語。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*4 南インド カルナータカ州の公用語。
*5 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*6 ヒロインの役名が役者の名前と同じ!
*7 現在は、テランガーナー州内にある両州の共同州都。
*8 本作の監督!
*9 彼女と主演のニティヤー・メーノーンは、2015年に神戸学院大学で行われた「女優の目から見たインド映画」シンポジウムのために来日してたりするコンビなんですよ!