インド映画夜話

Aaja Nachle 2007年 146分
主演 マードゥリー・ディークシト
監督 アニル・メヘター
"貴方の眠れる力を魅せに来て……さあ、共に踊りましょ!!"






 ニューヨークでダンス教室を運営するディーヤーの元に、故郷インドから一本の電話が入る。懐かしいヒンディー語で伝えられたのは、"恩師マカランド危篤"と言う事実だった…。

 11年前。ウッタル・プラデーシュ州西北の地方都市シャムリーにいたディーヤーは、古の舞踏寺院跡"アジャンター"で、近所の少女たちと老マカランド師の指導の元で民俗舞踊と演劇の復古運動に参加し、一般公演で主役を張っていた。
 その頃、インド芸能の撮影取材に来ていた米国人カメラマン スティーブと恋に落ちたディーヤーは、演劇修行にいい顔をしない両親から猛反対され、次の演劇公演を最後に舞踏を止めて近所のホテル従業員モーハンと結婚するよう命令されてしまう。彼女は、師匠との相談の末、公演中にスティーブと駆け落ちして故郷を捨てていった…。

 11年間縁を切っていた故郷に、娘ラーダーと共に戻ったディーヤーが見たのは、打ち捨てられ荒廃したアジャンターの舞台と、芸術の失われたよそよそしい故郷の姿だった。恩師付きの医師が恩師の遺言として撮影したフィルムを見るディーヤーは、死の床の恩師から「失われてしまったこの街の芸術の復興と、アジャンターの存続」を託されていた事を知る。
 だがすでに、街の議員ウダイ・シンは、アジャンターを解体してショッピングモールを建設する計画に着手。これを止めようと乗り込んで来たディーヤーに「なら、シャムリーの人々に必要とされている証拠を見せるべきだ。アジャンターでの公演は、一流の役者ではなくここシャムリーの住人のみで成功させる。それができたら、あんたの話を聞こうじゃないか」と笑われ、売り言葉に買い言葉で彼女はこれを了承してしまう!!
 公演開幕まで、猶予は2ヶ月間のみ…。


挿入歌 Aaja Nachle (さあ、私と踊りましょう)

*この曲、よくボリウッドダンスショーでも使われていて、日本でも人気高いよね。
 日本人ダンサーが踊ってるのを見ると「よ! 待ってました! 日本にもかなりボリウッドダンスが浸透して来てるね!!」とか喜んでるんですが、同時に「うーん。元ネタを知ってると、どうしてもマードゥリーの動きと比べちゃうんだよなぁ。決めポーズは遜色ないのに、そこへ至る流れるような腕や指の華麗な表情ってのは、やっぱマードゥリーくらい長い手がないとダメなんかなぁ。もっと私を見ろやー!! オーラとか出まくっててもいいのに」とか色々思ってしまうのでする。日本人ガンバれ!



  タイトルは「さあ、踊りましょう」。
 結婚後に映画女優を引退したかと思われた(一緒にアメリカ移住した夫に「人前にあまり出ないでほしい」と釘を刺されたから…と言う噂がありまする)、90年代のボリウッドの女王にしてボリウッド最高のダンサー女優マードゥリーが5年ぶりに主演に返り咲いた映画(この時、マードゥリーは御年40歳!!)。どれだけ観客が待ち望んでいたかと言えば、予告編のショートバージョンにキャッチコピーで「主演:マードゥリー・ディークシト…は帰って来た」と書かれていたほど! マードゥリー・イズ・バックってことで、OPダンス「Dance With Me」の最後が文字通りマードゥリーの背中で終わるんだそうな…ってコラ!w
 2002年の「Hum Tumhare Hain Snam(私は貴方のものよダーリン)」「デーヴダース(Devdas)」以来のマードゥリー映画になったけども、本作以降は再び映画界を離れてしまった(…と思っていたら、2013年にはまた映画に復帰[ゲスト出演だけど]してくれましたゼ!!)。

 まさに、マードゥリーのマードゥリーによるマードゥリーのための映画で、映画全編が「如何にすれば、素敵なマードゥリーのパフォーマンスを堪能できるか」で構成されている。主演女優のためにその他大勢が配置されてる感じで、色々出てくる有名人たちは「後で、マードゥリーが踊るときの豪華さアップ要員でっせ」てな感じ。これほどリスペクトを持って復帰作の企画が動いた映画女優が他にいただろうか!(いやま、よく知らないから映画史的にはいたかもしれないけど…)

 ところで、日本のインド映画を巡る迷信の1つに「映画の8割強が歌と踊りで、お話は付けたし」なるものがあるけれど(*1)、この映画に限って言えば近いものはある。もちろん、ずっと踊ってるわけもないしダンスシーンがほとんどを占めてるわけでもないけれど、物語・ソングシーン・ダンスシーンの映画内への振り分け方は色々気を使っていて、その全てはラスト20分に渡る歌劇「ライラーとマジュヌー」を見せるための準備期間に当てられている。それ故にお話が強引だったり、急展開だったり、脇のエピソードがおざなりになってたり…ってのがいっぱいあるものの、演劇的映画を成立させようとあーだこーだと作劇上に布石を打ってるあたり微笑ましく見れてしまう。…演劇を作るってホント色々メンドくさい準備や対処がいっぱいあるもんよ。うん。
 「ライラーとマジュヌー」のお話自体をちゃんと知らないのでなんとも言えないけど、劇中劇として、映画的に処理されながらも舞台演劇の魅力を追究しているラストの歌劇の中身が、なんとなーく登場人物たちとシンクロした形になってる所もナイス(と言うか、「ライラーとマジュヌー」劇に合わせた登場人物たちを配置登場させている)。

 ただ、やっぱ映画として舞台演劇を魅せるとなると、脚本・演出的には今一歩感は拭えず。同じ年同じ月に公開された「Om Shanti Om(恋する輪廻)」の映画的演劇手法と比べちゃうと、種類や方向性が違うとは言え、こっちは映画単体としてはまとまり感が…ね。マードゥリーの復帰作としては、この方向性でやりたかったって言う周りの声が聞こえてきそうな勢いなんで、これはこれで好感度大ではあるんだけど。
 面白いのは、劇中劇に入った途端、台詞が韻を踏んだ詩として動き出して行く所で、演劇云々の前にやっぱりヒンディー語ってのは詩的表現とかなり親和性のある言語なんだなぁ…と改めて思えるほどに美しい響きに聞こえた事。普段、日常会話聞いてる分にはそんな音楽的な言語だと感じないのにぃ(伸ばす音が多いな、とは思うけど)。

 あと、なんでか正規品なのに所々で英語字幕が出てこない所があるのは…英語とヒングリッシュ部分は必要ないと思っての事なのか…。


挿入歌 Show Me Your Jalwa (貴方の才能を見せに来て)

*いくつか編集点あり。



受賞歴
2008 IIFAインド国際映画批評家協会賞 振付賞(ヴァイバヴィー・マーチャント/Aaja Nachle)




「Aaja Nachle」を一言で斬る!
・プリーズ・"マードゥリー・イズ・バック"・アゲイン!!

2013.11.23.

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*1 たぶん、インドレストランで流れてるミュージカル集映像を見て誤解した人たちが言い出した事だと思うけどネ。それは映画本編じゃないと何度言ったら!
 手塚治虫が「鉄腕アトム」第1話を作る時に「全編ミュージカル調に音楽を鳴りっぱなしにしたい」と注文付けて、映像界の人たちが「そんなの映像が保つわけないじゃん。映像についてはこの人、素人なのか!」って呆れ返ったって話を知らないんですかねぇ…。