インド映画夜話

アラヴィンダとヴィーラ (Aravinda Sametha Veera Raghava) 2018年 162分(短縮編集版は154分)
主演 NTR( Jr.) & プージャー・ヘーグデー
監督/脚本 トリヴィクラム
"その1歩こそが、100歩にも値するもの"




 どこからともなく響く人々の怒号と扉を叩く音に悩まされる夜警は、屋台の客から「幽霊への恐怖を克服したいなら、まじないで唱えられる聖アンジャネヤ自身の物語を聞くといい」と諭され、その物語に耳を傾ける…

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 ナラッパ・レッディ率いるコマディ村と、バシ・レッディ率いるナラグディ村。総勢1万人以上が住む2つの村は、些細な事件から30年以上も血で血を洗う派閥抗争"5ルピーの抗争"を繰り広げていた。

 ナラッパの息子ヴィーラ・ラーガヴァ・レッディがロンドン留学から帰ってきたその日、バシ・レッディ一党の攻撃によってヴィーラの目の前で父親を含め多くの犠牲者を出す争いが勃発。なんとかナラグディ一党を力尽くで退散させたヴィーラだったが、事件の後始末や犠牲者遺族のその後の世話など、村は問題山積。
 コマディ地区の政治家スダルシャン・レッディは、ここぞとばかりにヴィーラに協力するふりをしてその政治勢力拡大を狙うが、ヴィーラは母親の言を受けて一度村を離れてハイデラバードに移住する決意をして、この永遠に続くかと思われる争いを止める方法を模索し始める。
 しかしその頃、ナラグディ村では、バシ・レッディの回復を待つ息子バーラ・レッディたちがヴィーラの命を狙い動き始めていた…!!


挿入歌 Anaganaganaga


 タイトルは、テルグ語(*1)で「アラヴィンダと共にいる、ヴィーラ・ラーガヴァ」。
 「アラヴィンダ」は本作ヒロインの名前で、その語義は「蓮花(古くは太陽の意とか)」。「ヴィーラ・ラーガヴァ」は主人公の名前で「勇敢なるラグ族の子(*2)」くらいの意味。
 後に、タミル語(*3)吹替版「Idhu Ennoda Jilla(これが我が故郷)」も公開。

 インドより1日早くカナダ、英国、米国で、インドと同日公開でアラブ、デンマーク、アイルランドでも公開されたよう。英国公開に際して、暴力的シーンを削った編集公開版、さらに短くしたTV放送版が作られている。
 日本では、2018年にindoeiga.com主催の自主上映で英語字幕版が埼玉県の川口SKIPシティにて上映。2023年にJAIHOにて「アラヴィンダとヴィーラ」の邦題で配信。同年にCSムービー・プラスにて放送。

 いわゆる「ラーヤラシーマもの」と言われる、アーンドラ・プラデーシュ南西部のラーヤラシーマ地方を舞台にした西部劇的辺境部派閥抗争映画ながら、その争いそのものではなく抗争の結果生まれる悲劇の収束に注目するマサーラー映画。
 暴力の連鎖による大事な家族の離散、人命の軽視、外部の人間に向けられる排他性や残虐性への問題提議とその解決を描くのは相変わらずながら、トリヴィクラム監督作に共通の「台詞回しの軽快さ・印象強さ」を前面に押し出す言葉選びとその反復具合がパワフルな、一風変わったマサーラー演出がなされた1本(*4)。

 監督を務めたトリヴィクラム(・スリーニーヴァス。生誕名アケラ・ナーガ・スリーニーヴァサ・シャルマー)は、1971年アーンドラ・プラデーシュ州西ゴーダヴァリ県ビーマヴァラム生まれ。
 地元の大学で理学士を取得後、アーンドラ大学で原子物理学修士号も取得。理数系の教員として働き始めながら、新聞で短編小説を発表したりしていたそうな。地元の大学時代のルームメイト兼親友である男優スニールの子供の勉強を見ていた縁で映画人を紹介され、T・D・V・プラサード監督作の台本制作に参加。これが好評を得て、99年のK・ヴィジャヤ・バースカル監督作「Swayamvaram」で助監督兼台本兼原案を担当して本格的に映画界入りする。以降、テルグ語映画界で活躍し、02年の「Nuvve Nuvve(君だけに)」で監督&脚本デビュー。ナンディ・アワード台詞賞を獲得し、その後も大ヒット作を連発させている。
 初監督作から、批評家たちの間でその繊細な台詞の掛け合い劇の緻密さが高く評価され"マータラ・マーントリクドゥ(言葉の魔術師)"とも称されている。

 派閥抗争の虚しさを描く物語に合わせて、主役ヴィーラ演じるNTRは終始シリアスで真面目な演技が強調されていて、いつものおちゃらけ顔が少ないのは寂しいかもしれない(*5)。殺伐とした村社会を逃れて都会に来てから、名前を「ヴィール・ラーガヴァ」から「ヴィール(勇気)」をとって「ラーガヴァ」のみを名前として過ごすことになる皮肉というか運命の共鳴具合が効果的。プージャー・ヘーグデー演じるヒロイン アラヴィンダや、スニール演じる弟分ニーランバリ(*6)との関わりによって、だんだんと「ヴィール」を取り戻しながらも過去の自分とは違う「戦わない男」へと変わっていく姿もいいですが、本来の彼に戻っても二人から「ラーガヴァ」と呼ばれて親しまれている姿も良きかな。
 12年のタミル語映画「Mugamoodi(マスクマン)」での映画デビュー以降、主にテルグ語映画界で活躍するプージャー・ヘーグデーのチャキチャキ姉貴具合も、シリアスなNTRの演技との良い対比。デビュー当時より、ふてぶてしさが増した感じで、楽しそうに演技している姿も美しきかな。以降も、プラバースやヴィジャイをはじめとしたトップスターたちと共演してる勢いで、どんどこ活躍の場を広げていってほしいですことよ。

 まあ、ノリノリの重厚サウンドを背負って暴漢たちをボコボコにしておいて「人殺しをしなくていい村にする」とか言われてもなあ、って感じもないことはないけれど、修羅にまみれた村社会の改革のため、暴力衝動につき動かされる人々を鎮めるためには、やっぱ暴力も効果的なんですかいのう…。都会人アラヴィンダが、不要に村の争いの中に身を投じつつ「自分は大丈夫」と思い込める精神の図太さと人を説得する弁舌の巧みさも、危険回避の必須能力ってことなんですかいねえ(そーいう話じゃない)。
 基本、「家族の結束を重視する人」が強者となり、そうでないものは弱者となるっていう物語的設定に忠実なのは、この手の映画における善悪の描き方の中に潜む異文化的視線を意識させられるやつではありますわ。むぅ。

挿入歌 Reddy Ikkada Soodu


受賞歴
2019 Sakshi Excellence Awards 主演女優賞(プージャー・ヘーグデー)
2019 Filmfare Awards South テルグ語映画助演男優賞(ジャガパティ・バーブ)
2019 Santosham Film Awards コメディアン賞(スニール)・音楽監督賞(S・タマン)
2019 Radio City Cine Awards Telugu 音楽監督賞(S・タマン)・BGM賞(S・タマン)・作詞賞(ラーマジョガッヤ・サストリィ / Peniviti)


「アラヴィンダとヴィーラ」を一言で斬る!
・有力者が運転する黒塗り車を先頭にした、猛スピードの車の列、先頭車が急ブレーキかけて後続車が事故起こしたらやっぱ有力者から運転手が懲罰を受けるもんやろか(怖くて、そんな村社会で運転とかしたくないわー)。

2022.4.29.
2023.4.29.追記
2023.6.26.追記

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 叙事詩「ラーマーヤナ」の主人公ラーマ…とラクシュマナ兄弟…の尊称として使われる名前。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*4 ラーヤラシーマで使われるテルグ語シーマ方言もかなり正確に台詞で話されているそうな。
*5 映画前半はおちゃらけ気味なシーンもあるはあるけれど。
*6 「青空」とか「青蓮」を意味する名前。通常は女性名ながら、本作では男性名として登場する。