インド映画夜話

愛するがゆえに (Aashiqui 2) 2013年 140分
主演 アディティヤ・ローイ・カプール & シャラッダー・カプール
監督 モーヒト・スリー
"君なしには、貴方と別れてしまっては、私は生きていけない…"






 トップミュージシャンのラフール・ジェイカル(通称 R.J.)は、ゴアのライブ中に再三注意されていたにもかかわらず暴力事件を起こしてしまい、そのまま姿を消してしまう…。

 その夜。酒に溺れるラフールは、道端で少女とぶつかり一悶着。
 そのまま場末のバーにたどり着いた彼は、そこで自分の歌をカバーして歌う先程の少女…アロヒー・ケシャヴ・シルケーの歌声に魅了されてしまう。彼はすぐに「ムンバイに来るべきだ。君ならあの歌姫ラータ・マンゲシュカールをも越えられるさ」と説得して彼女のメジャーデビューへの道を築こうと奔走。次第に、戸惑うアロヒーとの関係も親密な物へと変わっていき…。

 しかし、歌手としての自分に限界を感じていたラフールは、彼女をトップスターに育て上げる事に生き甲斐を見つけながらも、彼女が上へ上へと上り詰めるほどに過去の存在となっていく自分の歌手生命に追いつめられ、これまで以上に酒と暴力に溺れ始めて行く…。


挿入歌 Sun Raha Hai (ねえ、聞こえているの?)


  1976年のアメリカ映画「スター誕生(*1)」の翻案ものヒンディー語映画。「2」とあるけど、1990年の「Aashiqui(愛し合うこと…くらいの意味?)」の続編ではなく、現代版リニュアールバージョン。

 日本では、2013年のIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。映画祭に先立って、ナマステ・インディアでチラシ配って時からインド人に大絶賛されていた作品。インドでは、プロモがスタートした時から大御所T-Seriesが制作するテーマソング含め挿入歌が大ヒットしてたらしい。さらに、2015年の高崎映画祭で上映し、東京で一般公開。
 音楽界の舞台裏を描く物語ってことで、しょっぱなからキャッチーな歌で始まる音楽映画でもある。そういう意味では、歌主導で動いた企画なんスかねぇ?

 私は正直、スター誕生もの映画って苦手でして…。
 なんで男が態度を改めないのか、なんでそんな男を女は最後まで捨てないのかさっっっぱりわからんボクはボウヤでしょか? 映画の最初から最後まで、現代を舞台にしていながら、主役2人の古典的な堂々巡りが繰り返し続けられるのがさぁ…ぐちぐち。
 それでも、ジュディ・ガーランド版「スター誕生」は、男の最期の引き際がそれなりに滅びの美学としては綺麗だったね…と思うので、最後の画面さえ良ければまあいいか…と思ってたけど、よくあるボリウッド翻案もの映画のように元映画をかなり変化させてしまうインド映画にあって、こちらは原作以上の価値を見出しがたく…翻案+αな魅力が付加されれば良かったなぁ…と。ま、旧「Aashiqui」から引き継がれたらしい、1つのジャケットを2人で被りあうシーンは効果的だったね。

 主役ラフールを演じるアディティヤ・ローイ・カプール(*2)は、パンジャーブ人の父とユダヤ人の母を持ち、兄に当時UTVピクチャーズCEO(*3)のシッダールト・ローイ・カプール、映画俳優のクナール・ローイ・カプールがいる。元々役者志望ではなかったと言うけれど、勧められて受けた「London Dreams('09年作)」のオーディションに受かって映画デビュー。続く2010年には「Action Replayy」「Guzaarish(請願)」でアイシュやリティック、アクシェイなどのトップスターと共演。本作はこの次の出演作で初の主演作となる。

 ヒロイン アロヒーを演じるはモデル兼女優のシャラッダー・カプール(*4)。悪役俳優として有名なシャクティ・カプールの娘で、兄シッダールト・カプールも映画俳優(兼DJ)という映画一族出身。アメリカンハイスクール育ちで、短期間だけ米国ボストン大学芸術学科映画コースに在籍してたそうだけど、すぐにフェイスブックで知り合ったプロデューサーを介して、2010年作「Teen Patti(3枚のカード)」で映画デビューしてフィルムフェア新人女優賞にノミネート。続いてY-Films製作の2011年作「Luv Ka The End(愛は終わって)」で主演女優に昇格してスターダスト主演女優賞を獲得。Y-Filmsとの契約満了を待たずに本作の出演にサインした事で、Y-Filmsとの契約を破棄されたとかなんとか。映画の他、NGO活動にも参加して数々の慈善イベントでも活躍しているそうな。

 監督を務めたモーヒト・スリーは、助監督上がりの映画監督。旧「Aashiqui」の監督マヘーシュ・バットの甥で、映画俳優イムラーン・ハーシュミーのいとこにあたる。伯父マヘーシュ監督のプロデュース映画の助監督として映画界に入り、2005年にイムラーン主演作「Zeher(毒)」で監督・脚本デビュー。本作が8本目の監督作となる。

 歌は叙情的でハイレベルな曲がどんどん出てくるけども、群舞とか壮大なアクションや妄想シーンとかは皆無な至極ハリウッド的な映画。最低限、2人のバックグラウンドとなる家族や実家の描写がそれなりにフォローされている所にインド映画的な空気を感じるくらいで、全体としてはもう、ごく普通の恋愛映画って感じ。
 ただし劇中に出てくる歌、特にその歌詞はヒンディー語圏の人にとってツボを心得た詩的表現満載なんだそうで、そこがわかるかわからないかでこの映画の評価はまるっと変わるみたい。たしかに、劇中の歌はどれも気持ちいいほどスバラしか!


挿入歌 Chahu Main Yaa Naa ([ただ言ってくれ] 愛してるのかしてないのか [心から答えてほしい。愛してるのかしてないのか])







「愛するがゆえに」を一言で斬る!
・基本的にこれ系の話って「芸能界ってスキャンダラスなドロドロした所なんだよ?」ってドヤ顔の視線を感じまくるんだよネ。うん。

2014.6.27.
2015.7.26.追記

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*1 バーバラ・ストライサンド主演版。この映画自体1937年作「スタア誕生」の2回目のリメイク作。他にもアメリカ映画だけで2作のリメイクがある。
*2 このカプールは、アルファベットで書くと"Kapur"。
*3 現ウォルト・ディズニー・カンパニー・インディアのマネジメント・ディレクター(2014年当時)。
*4 こちらは、アルファベットだと"Kapoor"。