インド映画夜話

アクション!! (Action) 2019年 157分
主演 ヴィシャール & タマンナー
監督/脚本/原案/カメオ出演 スンダル・C
"不可能の向こう側へ。"




 イスタンブールにて、インド陸軍のスバッシュ大佐とディヤー大尉がある男を追いつめていた。「言え…誰に命じられた」「俺が言えば…お前は死ぬぞ」「なら、先にお前が死ね」!!

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 遡ること数週間前。
 引退するタミル・ナードゥ州首相を父に持つ軍人スバッシュは、国境警備の任務を評価されて勲章を授与され、親戚のミーラと結婚して幸せな新婚生活を送っていた。しかし、兄サラヴァナンの新党首就任を祝う党連合総会を狙った無差別爆破テロによって妻ミーラを失い、爆破テロの容疑者と報道されて世間から総攻撃を受ける兄も自殺してしまう…!!
 2人の死に衝撃を受ける家族にあって、「夫は誰かを傷つける人ではない」と言う義姉の言葉、ミーラの手のひらに書かれていた車のナンバー、家の監視カメラに残っていた不振な行動をする女性記者の痕跡を探るスバッシュは、爆破テロ〜兄の死までが計画されたプロの犯行であることを突き止め、真犯人を見つけるためにロンドンへと旅立つ…!!


挿入歌 Nee Sirichalum (私に笑いかけて)


 タイトルは、まんま本作の映画ジャンルを言ってるものではあるけど、劇中のセリフで「作戦の開始」の意味で使われている用語でもある。
 タミル語(*1)映画界の名匠スンダル・C監督の、27本目の監督作となるスパイアクション映画。インドと同日公開で、カナダ、フランス、英国、アイルランド、米国でも公開。
 日本では、2020年にDVD発売されている。

 一般公開時にはそこまで興行成績を伸ばさなかったものの、映画館公開終了後にヒンディー語(*2)吹替版がプライム・ビデオで公開されるや話題を呼び、大ヒットしたそうな。

 インドの他トルコ、イギリス、カリブ海、パキスタンと世界を股にかける怒涛の展開目白押しのスパイアクション大作(*3)。
 劇場公開時にはそこまでヒットしなかったと言うから、そんなに期待しないで見はじめたら、あれよあれよと転がるお話にグイグイ引き込まれ、トリプルヒロインの美貌と体を張ったアクションの数々、程よい陰謀劇と家族愛と、どんでん返しと毒のあるコメディがテンポよく配置される展開に、飽きるヒマなし。欲を言えばチェイスシーンより格闘シーンに重点を置いて欲しい気もしないではないけど、ケレン味の高い画面での見栄の切り方も心得たもので、最後までワクワクしながら見ておりましたわ。

 タミル・ナードゥ州での一般公開でヒットしなかったと言うのは、劇中に出てくるラスボスが、実際にパキスタン潜伏が噂されてるテロリストを投影されたキャラクターであったために「俺らには関係ねーし」とか思われたって事なんでしょか。ヒンディー語吹替版が配信されるや大人気になったてのが、北インド人の方が地理的にも心理的にも、それ系のテロを身近に感じていて映画でもよくネタにされて馴染みやすかったからだったり…と勝手に話をまとめていいものかどうなのか(*4)。

 映画冒頭に、本編未登場の俳優兼プロデューサーのヴィジャイ・セードゥパティがわざわざ「世界中を舞台にしてるけど、分かりやすさを優先して全員タミル語で話してるよ」と前置きにしてるのは、サービスなのかなんなのか。前置きなしでもそんなに気になんなかった…ような気もしないではないけど、いいぞヴィジャイ・セードゥパティ。どんどん出番増やしておくれ。

 監督を務めたスンダル・C(生誕名ヴィナヤガル・スンダル・ヴェル)は、1968年マドラス州(現タミル・ナードゥ州)イーロードゥ県イーロードゥ生まれ。
 マニヴァンナン監督の元での助監督として映画界で働きはじめ、90年のタミル語映画「Vaazhkai Chakkaram」に端役出演。95年に「Murai Maman」で監督&脚本家デビューを飾る(*5)。97年のラジニカーント主演作「アルナーチャラム(Arunachalam)」を手がけてタミル・ナードゥ州映画賞の作品賞を獲得。ユーモア劇を多数発表する中で、スリラーやアクション映画も作り上げていく多芸さをみせていく。しかし、90年代後半からヒット作に恵まれなくなり、数々の企画が頓挫。一時期は俳優業に集中していたものの、10年の主演作「Nagaram Marupakkam(町の裏側)」を自ら監督して監督業復活と評されたとか。17年には、ヒップホップ・タミラ・アーディ監督作「Meesaya Murukku(髭を整えろ)」やTVドラマ「Nandini」でプロデューサーデビューしてもいる。

 主人公スバッシュ(*6)を演じるのは、1977年アーンドラ・プラデーシュ州ヴィシャーカパトナム県ヴィシャーカパトナム生まれ(*7)のヴィシャール(・クリシュナ・レッディ)。
 父親G・K・レッディはテルグ語(*8)とタミル語映画界のプロデューサーで、兄は男優アジェイ(本名ヴィクラム・クリシュナ)で現在はプロデューサーとして彼を支えているそう。
 マドラス州マドラス(*9)で育ち、ヴィジュアルコミュニケーションを修了。
 01年のアルジュン・サルージャ主演&監督作「Vedham」に助監督として参加して映画界に入り、そこでプロデューサーに誘われて演技修行を経て04年の「Chellamae(可愛い人)」に主演デビュー。以降、タミル語映画界においてアクション俳優として人気を獲得していく。08年の主演作「Satyam(約束)」のテルグ語版「Salute(敬礼)」でテルグ語映画デビュー。13年には自社プロとなるヴィシャール・フィルム・ファクトリーを設立し、その第1号となる主演作「Pandiya Naadu(パンディヤの王国)」でプロデューサーデビューもしている。17年には「Villain(悪役)」でマラヤーラム語(*10)映画デビュー。2020年現在主演作「Thupparivaalan 2(探偵2)」で監督デビュー予定(*11)と言う。

 序盤と後半でヒロイン ディヤーを務めるのは、言わずと知れた大女優タマンナー。
 前半に主人公の妻ミーラとして登場するのは、マラヤーラム語映画界で活躍するケーララ人女優兼モデル兼内科医のアイシュワリヤー・レクシュミー。本作がタミル語映画デビュー作となる。
 ヒロインと言うか、中盤の悪役カイラとして登場するのが女優兼モデルのアーカンクシャー・プリー。タミル語とマラヤーラム語映画界の他、ヒンディー語TVドラマで活躍する人だそうで、本作が初の悪役演技だったと言う。日本版DVD発売当初から話題になった「モザイクのかかる胸の谷間」は、見てるとタマンナーとかにはかからないで、アーカンクシャーばっかりってあたりは、なんかそう言う契約条件でもあったんですかねえ。
 ラスボス マリクを演じるカビール・ドゥーハン・シンは、南インド映画界で活躍するモデル兼男優。ハリヤーナー州出身のハリヤーンウィー・ジャット(*12)生まれということで、なんか悪役を北インド系に固めてる感じも…しないでもない(*13)。

 次々と移り変わる舞台で、さまざまなシチュエーションでのアクションの連続が「さあ、次なる絶体絶命の状況をどう切り抜けるでしょーか!?」と脚本・演出側から問いかけられてるようなバラエティの豊富さ。「隠し砦の三悪人」みたいに、絶体絶命→起死回生のアイディアで逆転って転換が何度も起こりつつ、なお話の主軸はブレずに伝わってくる映像構成が心地よい。それぞれの舞台に合わせたカラー調整と音楽と編集の緩急の付け方の勝利ですかねえ。

挿入歌 Maula Maula (ああ神様)



「アクション!!」を一言で斬る!
・世界各国の警察が信用できない状況での、トルコ〜パキスタンの旅って何日かかるんだろう…劇中ではロマンチックなシーンとして描かれてたけど…(*14)

2021.3.26.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*3 ロケ自体は、いくつかの現地ロケとインド各地の他タイ、アゼルバイジャンでも行われたそうな。
*4 テルグ語圏での爆破テロも起こってるけども。
*5 同年には、2本目の監督作「Murai Mappillai」も公開させている。
*6 音を聞いてると「スバーシュ」と聞こえるけど。
*7 またはマドラス州マドラス生まれとも。
*8 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*9 現タミル・ナードゥ州チェンナイ。
*10 南インド ケーララ州の公用語。
*11 2020年公開予定だったのが、延期されているよう。
*12 インド語派中央語群の1つハリヤーンウィー語を母語とするジャット族。
*13 パキスタン関係のテロリストという意味では、意図的な配置?


*14 「海難1890」のテヘラン編でも描かれる、イラン・イラク戦争下のテヘランからトルコまで陸路で帰ったトルコ人たちも大変だったんだろうなあ…。