インド映画夜話

エアリフト 〜緊急空輸〜 (Airlift) 2016年 125分
主演 アクシェイ・クマール & ニムラート・カウル
監督/原案/脚本 ラージャー・クリシュナ・メーノン
"1990年。戦火のクウェートにて、17万5千人ものインド人の命をかけた史上最大の作戦が始まる"






 1990年のクウェート。
 オイルマネーに潤うインド人実業家ランジート・カティヤールは、インドを嫌悪しクウェート人たらんとする姿勢を周りにも強要する男で、クウェート人からの信任は厚いものの、妻アムリタを始めインド人からは恐れられ煙たがられていた。

 しかし8月2日、事態は一変する。
 石油利権交渉の決裂から突如クウェート侵攻を開始したイラク軍によって、クウェートは阿鼻叫喚の地獄と化した。暴徒も同然のイラク人少年兵たちに運転手を殺され、宮殿まで連行されるランジートは、かつて自分の警備担当だった男に命乞いを強要され、クウェート政府がすでに逃亡した事実を突きつけられる。
 やっとのことで家族と再会したランジートは自分の会社に逃げ込むも、社員を初めとした無数のインド人難民を前に、皆を救うべく絶望的なクウェート脱出を指揮することになる…。


挿入歌 Dil Cheez Tujhe Dedi (心を捧げよう)

*インド人であることを否定し「ここはクウェートだぞ」と周りを叱りつけてクウェート人たらんとする主人公が、なんでボリソングを歌い踊るんですかねえ…w(いちおー、ベリーダンス&あっち系の楽器使ってるけど)


 1990年8月2日に起こったイラクのクウェート侵攻にともなう戦場で、17万5千人以上の在クウェートインド人たちを脱出させるべく奔走し、後に「史上最大の脱出作戦」と讃えられ、ギネス登録される偉業を達成したインド人たちの活躍を元にした、ヒンディー語(*1)映画。16年度上半期最高売上を達成したボリウッド作品でもある(*2)。
 日本では、2016年にIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。同年にNetflixにて配信された。

 エンディングで描かれるように、実際のクウェート脱出時に活躍した複数の人物を複合させた主人公ランジートの目線で当時の混乱を描きながら、そこでインド人難民の救出に動いた官民それぞれの人々の苦悩、焦り、生死、苦難の連続を見せつけていく。
 当初はインドを蔑み、インド人やインド政府への信頼なぞまったくなかった主人公が、自分を含む難民たちの救出に向けてインドやイラク、違法合法問わずさまざまな有力者たちと渡り合いう過程で「インド人である」自分自身を発見し、事態打開のために「インド人である」事を利用しながらより広い視点で物事に対処して、クウェート人を含む外国人とともにインド人を助けようと動いていくよう変わっていくさまが熱い。死ぬような思いの数々を乗り越えて、ヨルダンの空港にてインド国旗が掲げられる愛国的なシーンは、外国人のはずの私から見ても感動的。「愛国」なるものの実像が、如何に日本のそれと違うかをまざまざと見せつけられる素晴らしいシークエンスである。

 製作プロダクションは、主演アクシェイ・クマールの自社プロとなるハリ・オーム・エンタテインメント。
 アクシェイは、監督から脚本を持ち込まれた時からこの企画にノリ気で、製作資金を多くを提供した上で、役作りのためにアラビア語を習得したとか。自社プロ制作映画からなのか、史実映画だからか、アクシェイの演技は感情を抑えめにしたシブいスタイルがほとんどで、いつものコメディやダーティーヒーローを演じてる時の無理してる感がまったくないのもスンバラし。この人は、こう言う苦労人の青年とかダンディ風のおやじを演じてる時が一番生き生きとしてる気がするので、是非是非こっち路線の映画をたくさん見てみたいもんデス。シリアスな実話ものだから格闘家アクシェイのアクションシーンはないよなあ…と言うこちらのうがった思いをしっかり受け止めて泥臭いアクションシーンを入れてくるあたり、ニクいよこのぅ(*3)。

 撮影は、インド国内のスタジオの他、アラブ首長国連邦を構成する国の1つラアス・アル=ハイマ首長国でも行なわれて、そこでは1990年のクウェートを再現するセットが組まれたと言う。
 感動的エピソード映画のもう1つの魅力が、このイラク侵攻時のクウェート市周辺の風景の再現具合。オイルマネーに湧くクウェートの様子、そこに集まってくるさまざまな外国人、イラク軍人によって選別される命、略奪される数々の宝飾品や骨董品、破壊され火に包まれるクウェートの街並…。クウェートの日常生活の様子、戦場と化した街の恐怖、その荒廃ぶり、絶望する人々、勝ち誇る人々、死屍累々の惨状、それでも生き残り生活を続けていく人々、自分の仕事で生活を守っていこうとする人々の様子は、日常が一瞬にして崩壊する恐さとあいまって日本でイメージされる"戦争なるもののイメージ"以上のインパクトを見せつける。

 本作と同じような、戦争によってイランに取り残されそうになった日本人を救出するトルコ航空の実話を映画化した2015年の日本=トルコ合作映画「海難1890」なんかでも、イラン・イラク戦争の戦場となりかけたテヘランの様子が再現されていて、本作との共通項も見つけてみたい欲求に駆られる。
 わりと駆け足だった「海難1890」のテヘラン編は、戦争の様子やその裏で動く官公庁職員の様子なんかは、簡略に描かれるだけで現地滞在中の一般日本人の様子を追いかけていた感じだったけど(*4)、本作では、じっくり時間をかけて難民の様子を描くと共に、イラクやヨルダンと交渉する無名の政府役員や外交官、難民それぞれが抱える経済事情や家族事情、混乱のクウェートをよそに日常を維持するイラクやヨルダン(+インド)の生活ぶりも効果的な対比となって組み込まれていく。難民脱出作戦そのものもスゴいけれど、そうしたさまざまな当時の様子、脱出作戦を裏で支えた数多くの人々の姿を描き切った本作も天晴!

 監督を務めたラージャー・クリシュナ・メーノンは、ケーララ州トリチュール生まれで、カルナータカ州ベンガルール育ち。父親はマラヤーラム語映画で活躍する役者T・P・マーダヴァン。
 大学で化学を専攻して理学士の学位を取得。卒業後は広告ディレクターのアシスタントとして働いた後、93年にムンバイに移住して映画監督兼脚本家のサンジーヴ・カーンガオンカルに弟子入り。その後独立して、CMや映画の予告編制作を手掛けるようになり、03年にヒンディー語映画「Bas Yun Hi」で監督&脚本&原案&プロデューサーデビューする。
 広告業を続けていく傍ら、09年に「Barah Aana」で2作目の監督&脚本&プロデューサーを務めて大ヒットさせた後、続く3作目の監督作が本作となる。


挿入歌 Tu Bhoola Jise (君が忘れようとも)

*超ネタバレ注意。
 インドの団結を示す名シーンであると共に、インド難民たちに初めて安堵の時が訪れた事を示す重要シーン。





「エアリフト」を一言で斬る!
・スーパーモデル然として出てくる主人公の妻アムリタ役のお綺麗なこと。誰だろう…と思っていたら、避難生活でやつれて来たあたりで『めぐり逢わせのお弁当』のニムラート・カウルだぁぁぁぁぁ!!! …と衝撃が走る!

2017.2.17.
2017.8.6.追記。

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
  その娯楽映画界を俗にボリウッドと呼ぶ。
*2 しかし、劇中舞台となるクウェートでは最終的に公開禁止措置がとられたとか。
*3 ま、このシーンはそれ以上に砂丘の向こうから集まってくるインド人たちの頼もしさに「うおおお!!」と感動してしまうシーンでもあるけど。さながら、指輪戦争で劣勢のゴンドールの救援要請を受けて立ち上がったローハン騎士団のよう。
*4 まあ、この映画の本題はエルトゥールル号事件の方だからね、とは言えるけど。