インド映画夜話

アイヤーリー ~戦場の奇術師~ (Aiyaary) 2018年 158分
主演 マノージ・バジュパーイー & シッダールト・マルホートラ & ラクル・プリート・シン
監督/脚本/台詞/原案 ニーラジ・パーンデーイ
"それは、究極の奇術"




 その日、インド軍詰所にてマヤ・セムワール大尉は、姿を消したジェイ・バクシー少佐とアバイ・シン将軍について尋問を受けていた。
「ムンバイのコラバ地区にあるマンションに、病気の犬が…」
「同じ話を何度もするな! もう聞き飽きた!!」

 4日前。陸軍参謀長にチェコ系企業の武器購入を持ちかけ賄賂を匂わせた兵器業者グリンデル・シンは、取引を拒否された事に憤り軍内部の極秘情報部隊DSD(=Date Systems Diagnostics データシステム分析局)の存在の公表・次期参謀長選出のための世論操作に出ると脅迫してきた。これを盗聴していたDSD所属のジェイ・バクシーは、DSDオフィスの主要な盗聴記録を盗み出し、ITエキスパートの相棒ソニア・グプタと共に姿を消してしまう…。
 事態が、退役軍人をも巻き込んだ軍内部の不正行為によって進行している可能性を察知したDSD隊長のアバイ・シンは、姿を消したジェイの真意を探る一方でDSDオフィスを放棄して秘密裏に移転。その中で、DSDの存在が公表されればDSDそのものが解体されるだろうと上から言明される。アバイは、国防の要でもあるDSDと祖国を守るために、なんとしてもジェイを引きずり出す事を決心し、彼が向かったとされるロンドンへと旅立つ…。


プロモ映像 Shuru Kar (始めよう)


 原題は、ヒンディー語(*1)で「偽装」とか「奇術」の意。劇中、変装や撹乱作戦を得意とする情報局の将軍の異名として登場する単語。

 「ベイビー(Baby)」の監督ニーラジ・パーンデーイによる、別の秘密諜報員の活躍を描くアクションスリラー。その公開日は、「Padmavati(パドマーヴァティの伝説)」と「パッドマン(Padman)」との競合を避けるために2回先延ばしにされたと言うけれど、実はその間に検閲から許可が下りずに改変が要求されていたとかなんとか。
 日本では、2018年のIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。

 うー…ん、なんと言うか「よくこんな、映像映えしない題材を選んで映画にしましたね」って感じで、どこをとっても映像的に盛り上がらない冗長な雰囲気に支配されてしまっている映画になっている。
 軍や政府の腐敗を訴える意味で、実際にあった事件をネタ元として話を構成するのはいいとして、その見せ方が基本2人以上の会話劇か交渉劇による腹の探り合いに終始し、特にこれといった印象的なアクションがあるわけでなく(*2)、シークエンスの積み上げ方もあまり意味を強調できない感じに終わってしまっている。選抜され抜いた特殊部隊員の活躍が見れるか思えば、活躍するのは主にジェイ役のシッダールトとアバイ役のマノージのみって言うところも、カタルシスを感じられない要因ですわあ。カイロやロンドンといった海外ロケも、あまり効果を出せず、なんか終始静かなレイアウトの画面が続いている印象。
 まあ、マノージ・バジュパーイーは、ニーラジ・パーンデーイが原案&脚本で参加している「シャバーナーと呼ばれる女(Naam Shabana)」での似たような秘密組織の隊長って役柄になっていながら、それとはまた違う老獪かつパワフルな軍人を見た目から見せつけているのがスゴい。一瞬、「シャバーナー」のさらなるスピンオフ続編かと疑ってしまったワタスをお許しくだされ〜。もちろん、飄々としてつかみどころのないナセールッディン・シャーの登場も、なかなかに映画をユニークにさせてくれる感じで嬉しかったけどね!(ファン目線)

 結局「新世代の軍人」と評されるジェイの行動論理がいまいち一定してないように見えてしまう事、腐敗暴露のために命のやり取りをしているわりには、挑発的な言動と交渉が延々と続くなあ…と気になってしまうところに、映像テンポ的な間の悪さを感じてしまうあたりがポイントか。監督と制作会社の、今までのキャリアが身につけた堅実な画面作りはしっかり効果を発揮してる画面なんだろうけどねえ。
 腐敗や闇取引暴露を阻止しようとする悪役たちが多数登場する割には、そこまで差をつけて活躍させていないところも、見ていて混乱してしまう部分で、同じくアディル・フセイン出演作でもある「エージェント・ヴィノッド(Agent Vinod)」の失敗要因を引き継いでしまってるように見えてしまうのも悲し。

 そういえば、大規模なプログラミングを専門家ソニアから学んでいたジェイに対して、システム構築して随分経つ頃になって「アセンブリ言語は基本だから、学んでおかなきゃ」なんてセリフが出てくるって、どんなシステム作ってたのー!!???

挿入歌 Lae Dooba (愛に溺れて)



「アイヤーリー」を一言で斬る!
・誰だ、あんなマッチョなシッダールトに女装させようとか考えついた奴わーw

2019.1.4.

戻る

*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 アクションシーン自体はそこそこちりばめて用意されているんだけども。