インド映画夜話

アショカ王 (Asoka) 2001年 171分
主演 シャー・ルク・カーン & カリーナ・カプール
監督/脚本/撮影 サントーシュ・シヴァン
"征服王アショーカ、大地に立つ!!"



 本来は「Asoka」の"s"の上に横棒があるタイトル。
 インドでは知らない人がいないという、仏教守護の大王アショーカを主人公にした、古代史ロマン映画。




 時は紀元前280年。北東インドに大国マウリヤ朝マガダ国があった時代…。

 第2代国王ビンディサーラと側室との子アショーカは成人後、王の嫡子スシーマとの王位継承の陰謀劇に巻き込まれ、母の勧めで国を出奔。白馬ブヴァン(=風)に乗って隣国カリンガとの国境沿いの村へ。
 そこで愛馬の名前を名乗って村人にとけ込むアショーカの前に、何者かに追われる美女が現れる。美女を助けようとしたアショーカだが、逆に美女の仲間に傷つけられてしまう…。

 アショーカを介抱する美女は、カリンガ国の王女カールヴァキと名乗り、配下の将軍ベーム、カリンガの王子アーリヤとともに、クーデターの起きた祖国の追手からの逃避行中だと言う。
 武術を身につけたいと言う彼女にアショーカは剣術を伝授。カールヴァキは、反発しながらもブヴァンと名乗るアショーカに惹かれて行く…。

 その直後、マガダ国からの使者が訪れ、アショーカに母が病気である事が告げられた。アショーカは、カールヴァキとアーリヤの元を離れる事をためらうものの、2人は快く彼を送り出す。「必ず戻って来る」と言う彼の言葉を信じて。

 しかしそのすぐ後、2人を捜すカリンガ軍が村を襲撃。2人の身代わりに村長の娘と子供が殺され、2人は復讐のため国へ戻る事に…。
 無事母との再会を果たして村に戻ったアショーカは、2人が死んだと告げられ泣き崩れる。自暴自棄になった彼は残虐なる王位継承者となって兄弟たちの抹殺を開始、ついに国王となってカリンガへの侵略を始める…。


挿入歌 Aa Tayar Hoja (来なさい、さあ始めましょう)


 インドの歴史を代表する人物、仏教守護の大王アショーカ。漢訳名 阿育王。
 史上初めて南端部を除くインド亜大陸全土を征服した、マウリア朝マガダ国の第3代国王(在位 B.C.268年頃〜B.C.232年頃)。
 日本では、2015年の「インド映画同好会 大映画祭」にて上映。

 残虐で戦争好きな王だったが(この部分、仏典の誇張との説あり)、その征服戦争の最終戦となった対カリンガ戦争のあまりの悲惨さにおのれの行為を悔い、以後仏教に心酔。拡張主義の国政を大転換して、仏法に即した「法の政治」を推進。国内制度の充実を図り、人種・民族・宗教・階級・出身の区別なく社会貢献できる様々な事業を開発して、国民から大いに讃えられた歴史上の人物である。

 その精神は、現在のインド連邦の国家指標に掲げられていて、インド人曰く、人類史上初めて"法治国家"を築いた人物であるとか(*1)。
 バラモン教の隆盛によってインド本土では早くに忘れ去られたものの、仏典に載って周辺の仏教国にその業績を称えられていた。


 映画では、古代インドのマガダ国とカリンガ国を舞台に、伝説上に見える王妃(…の1人)カールヴァキとのロマンスを中心に描いている。…と言うか、ロマンスを時代劇に置き換えている風にも…見える。

 主役を務めたシャー・ルク・カーンと、彼とコンビを組む事が多い女優ジュヒー・チャウラーが設立したプロダクションの製作で、時間もお金もない中の試行錯誤が、なんとなく画面から匂う。ラストのカリンガ戦争の大激突と、そこに漂う無常感はいい感じ…のために、前半〜中盤のアプローチの迷走具合が惜しい…かなぁ。
 撮影は、監督も務めたサントーシュ・シヴァンなので、撮影カット1つ1つはよく出来ているし美しい。
 最初「なんか野暮ったいなぁ」なんて思っちゃったカリーナ・カプール扮するカールヴァキも、後半に進むに連れてどんどん美しくカッコ良くなって行く(しっかし、当時まだ新人だったはずのカリーナさんの貫禄具合はスゴいね!)。
 ただ、それが繋がれて行くと微妙に錯綜した映像になってるようで、色々と惜しい感じが漂う。撮影カットに,なんとなくねっとり感が漂うのはサントーシュ撮影技法かしらん。

 舞台が、おおざっぱにマガダ国王城・国境付近の村と森・最終決戦の荒野の3つのみと言うのも、古代ロマン映画としては物足りない点なのかも。インド史を代表する人物が題材なだけに、よりスケールの大きな映像が欲しかった…なぁ。


 それはそうと、カールヴァキが追手から逃げる時に滝壺(と言うほどでかくないし水量も多くない池)にダイブしたら、追手が驚いて「おいおい、飛び降りちゃったよ」「お前もダイブしろよ」「なに言ってんだ、お前こそ泳げるのかよ」とか慌てて、そのまま追跡を諦めるシーンがあったけど…インド人はそこまで泳ぎに自信がないのか? いっつもラブロマンスなシーンでは、役者をずぶ濡れにするくせにぃ。
 あと、不思議な事は、あの泥風呂なんだけど…あれはなに?


挿入歌 Raat Ka Nasha (共に過ごす夜の陶酔)



受賞歴
2002 Filmfare Awards 撮影賞
2002 Bollywood Movie Award 女性プレイバックシンガー賞(San San sana)

2009.11.6.
2015.9.26.追記

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*1 時あたかも、中国を初めて統一した始皇帝と同じ時代だ!