インド映画夜話

Avvai Shanmugi 1996年 161分
主演 カマル・ハーサン & ミーナ
監督/脚本/出演 K・S・ラヴィ・クマール
"ちょっと聞いてよ、シャンムギおばさん!!"


挿入歌 Velai Velai


 その日はジャーナキーとパンディイェンの離婚裁判当日。
 恋愛結婚した2人だったが、娘バールティーが生まれてからはすれ違いの連続。子煩悩すぎて自由奔放な振付師のパンディイェンの姿勢に、堪忍袋の尾が切れたジャーナキーはついに裁判に訴え離婚を成立させてしまう。「子供の養育権は母親が有する。子供が14歳になるまで、父親は週に一度金曜日のみ、公共の場での面会のみ許可される」…裁判所の決定は、仲の良い父娘には耐え難いものであった…。

 なんとか娘と共に過ごして妻とも和解しようとするパンディイェンは、あの手この手の策を弄する中「子供の世話係募集」と言うジャーナキーの実家アイヤル家が出した求人広告を見つける。娘の家政婦として雇われればいいんだと思いついたパンディイェンは、仕事仲間のメイクアップアーティストに頼み込み、ジャーナキーの亡き母親をモデルに"シャンムギおばさん"を名乗ってアイヤル家へと向かうのだが…!!


挿入歌 Rukku Rukku

*娘バールティーが好きなダンスソング(*1)を、娘のために宗教歌謡風にアレンジして歌うシャンムギおばさんの図。
 歌詞は徐々に、恋歌から夫婦の家族観の違いを夫婦が主張し合う風に変わっていって…。


 「ムトゥ(Muthu)」のラヴィクマール監督による、1993年のハリウッド映画「ミセス・ダウト(Mrs Doubtfire)」をアイディア元にしたタミル語(*2)コメディ映画。

 翌97年には、テルグ語(*3)吹替版「Bhamane Satyabhamane」、本作主演のカマル・ハーサンが主演&監督を務めるヒンディー語(*4)リメイク作「Chachi 420」も公開されている。

 「ミセス・ダウト」よろしく、離婚を言い渡されて家族と引き離された男が女装して妻側の家に乗り込む流れは、アイディア元映画の展開とシンクロさせて行ってるものの、夫婦の馴れ初めからきっちり描き出してたり、いきなり家政婦やっても万事卒なくこなしちゃったり、妻側の富裕層のお屋敷との生活格差がスゴかったりとインドらしさ山盛りな展開で、話自体も中盤以降はグッと話芸シチュエーションコメディなオリジナル要素満載になっていく。
 最近のインド映画でもたびたび出てくる女装ネタなんかは、なんとなーく本作もそれらの映画群のネタ元になってんのかなあ…という感じではあるけれど(*5)、それとは別にミュージカル演出とかはシャンカル監督作にも通じるような演出術も見えてくる…ような? 単純に数見れてないから似たように感じるだけかもだけども。
 映画的には、父親パンディイェンとシャンムギおばさんの全然違う2つの役を完璧に演じるカマル・ハーサンのドタバタの嵐を楽しむ映画で、ジャーナキー役のミーナを始めとしたその他登場人物は、それを支えるための脇役になっている感じ。それにつけても最愛の娘バールティー役のアン・アレクシア・アンラの可愛らしさは、カマル・ハーサンのオーラに匹敵するインパクトでありますよ!

 「ムトゥ」で日本でも有名な本作監督K・S・ラヴィクマール(*6)は、1958年タミル・ナードゥ州ティルヴァッルール県ティルッタニ生まれ。
 助監督として映画界入りして、いくつかの映画でノンクレジット出演もしていたそうだけども、90年公開のタミル語映画「Pudhu Vasantham(新たな息吹)」に参加していた時に監督の話が舞い込んで同年公開作「Puriyaadha Pudhir(謎めいたパズル)」で監督デビュー。その後もタミル語映画監督として活躍し、監督作に必ずちょい役で出演もしていく(*7)ヒットメーカーとなっていく。
 94年の監督作「Nattamai(村長)」でタミル・ナードゥ州映画賞の作品賞と監督賞を獲得。本作ののち、99年には「Sneham Kosam(友情のために)」でテルグ語映画監督デビューし、同年公開のタミル語映画「パダヤッパ(Padayappa)」で2度目のタミル・ナードゥ州映画賞作品賞を受賞。以降も、タミル語映画監督として数々の映画を監督していく中、13年には「Policegiri」でヒンディー語映画監督デビューもしている。

 主人公パンディイェン&シャンムギおばさんを演じたのは、"ユニバーサル・ヒーロー"と称される名優カマル・ハーサン。1954年マドラス(現タミル・ナードゥ)州ラーマナータプラムの弁護士の家生まれ。兄に、男優のチャルーハーサンとチャンドラハーサンがいる。
 子役として早くから活躍していて、60年のタミル語映画「Kalathur Kannamma」で子役映画デビュー&ラシュトラパティ(総帥金メダル)賞を授与され、劇団に参加してその演技力を磨いていくこととなる。62年の「Kannum Karalum」でマラヤーラム語(*8)映画デビューとなり、ダンサー特訓やノンクレジット出演を経て、72年の「Kurathi Magan」から本格的に映画俳優として活動を開始。74年のマラヤーラム語映画「Kanyakumari」で主演デビューして、フィルムフェア・サウスのマラヤーラム語映画主演男優賞を獲得。タミル語映画では、75年の「Apoorva Raagangal(珍しい楽の音)」で主演デビューとなり、やはりフィルムフェア・サウスのタミル語映画主演男優賞を獲得。以降、タミル語映画界を中心に南インド各言語圏やヒンディー語、ベンガル語映画などにも出演するスター俳優となっていく。
 81年の主演作「Raja Paarvai(王は凝視する)」ではプロデューサー&脚本デビューも果たし、97年公開の本作のヒンディー語リメイク作「Chachi 420」で監督デビューして監督兼プロデューサー兼脚本家としても活躍中。
 私生活では2度結婚しており、2度目の結婚相手である女優サリカ(*9)との間に歌手兼女優のシュルティ・ハーサン、女優アクシャーラー・ハーサンが生まれている。

 ヒロイン演じる相変わらずのミーナの美貌と半開きの口が可愛らしいとはいえ、終始教育ママゴンな役割から離れないジャーナキー役で、劇中そこまで活躍が広がらないのが悲し。その分、バールティー演じるアン・アレクシア・アンラの存在感がスゴいんだけど、これ以降映画には出てない…みたい?(*10)
 タミルのキング・オブ・ロマンスと称された大御所ジェミニ・ガネーシャンの出演や、現在大活躍中の名優ナーサルがコメディ担当で出演してる所も要チェックですよ!

 まあコメディ展開なんかは、結構強引な部分が多いので今見ると「なんでそうなる?」って感じもしなくもなくも…。女装ネタなんかは、ジェンダーネタや性を越えるドタバタというよりは、単純にその場のウソで架空の人物をでっち上げる苦労の方に笑いの主軸が向いているので「カマル・ハーサンが女装してるってよ!」以外にあまり効果を発揮してないような感じもする(*11)。まあ、おばさんに変身した時にかかる「アッヴァイ・シャンムギー!」って掛け声はカッコよかでしたけども!!

OP Kalyanam Katcheri


受賞歴
1996 Tamil Nadu State Film Awards メイクアップ賞(K・M・サラトクマール)・子役賞(アン・アンラ)


「AS」を一言で斬る!
・服に火がついた子をプールに投げて『羊毛でくるめば良いのになんてことを!』と驚いたり、絶望して川に身を投げようとしたり、水に入ることはそんな怖いことな…の?(水浴びは普通にするくせにぃ)

2020.7.10.

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*1 94年のヒンディー語映画「Vijaypath」の挿入歌"Ruk Ruk Ruk Arre Baba Ruk"。


*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*5 「レモ(Remo)」で、本作監督のラヴィクマール監督がゲスト出演してるのは、そういう関係?…と、しなくてもいい深読み。
*6 本作のクレジット上ではK・S・ラヴィ・クマール。
*7 本作でも、市場の男役で出演。
*8 南インド ケーララ州の公用語。
*9 04年に離婚している。
*10 本作で人気が出まくって、モデル他で活動してるみたいだけど。
*11 元妻の入浴や着替えを手伝うことになって慌てて目をそらす、とかあるけれども。