インド映画夜話

バンバン! (Bang Bang!) 2014年 154分
主演 リティック・ローシャン & カトリーナ・カイフ
監督 シッダールト・アーナンド
"いつか、なんて日は来ないよ。そうだろ? さあ、今を変えなければ!"






 かつてタミル・ナードゥで出土し、英国女王に献上された世界一のダイヤモンド"コ・イ・ヌール"が、警戒厳重なロンドン塔から盗まれたと言うニュースが世界を駆け巡る。その裏で、MI6(英国秘密情報部)によって勾留されていたインド人テロリスト オマール・ザファールが、インド移送のためにやって来た軍人たちを襲撃して脱獄。コ・イ・ヌールを盗んだ男を探し出そうとしていた…。

 インド中がコ・イ・ヌール盗難に沸き返る中、シムラー銀行の受付係ハルリーン・サハーニーは平凡で孤独な毎日に満足しつつも、なにか煮え切らない日々。ある日、あせる気持ちからCMで見た出会い系サイトのイベントに参加してみると、待ち合わせ場所に来たお相手ヴィッキーはとんでもないイケメン! 彼と楽しいダンスパーティーを過ごしたハルリーンだったが、気づけば彼の姿は消え、いつの間にかあたりは嵐が過ぎ去ったかのようなボロボロの残骸ばかり。その帰り道、当のヴィッキーと再会すれば、彼は「やあ、また会ったね。僕の名はラジヴィール・ナンダ」と言い放つ!!


挿入歌 Tu Meri (君は僕の [僕は君のものになる])

*この曲に乗って身体を動かすことを「トゥメる」と言います(ボリペディア日本語版2015より)w。
 一度聞いたら、脳内延々ヘビロテされるハイパー麻薬ソング!



 フォックス・スター・スタジオ製作・配給による、トム・クルーズ主演作「ナイト&デイ」の正式ボリウッド・リメイク・アクション映画。インドの他、アラブ、北米、イギリス他でも大ヒット。監督インタビューによれば、シッダールト・マルホートラ主演の続編を考案中とかなんとか。
 日本では、2015年にIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて「バン・バン!」のタイトルで上映。2023年に「バンバン!」のタイトルで一般公開。同年のマーダム・オル・マサラでも上映。

 まさにこう言う映画を待っていた!
 そう叫びたくなるほど、爽快、華美、過剰、華麗、スタイリッシュ! とにかくカッコいいヒーロー&ヒロインが、カッコよく暴れ回るシーンで全編構成された一大アクションコメディ。ボリウッドがハリウッドを取り込みつつ、それすらも自らのものとして「もっと面白くしてヤンゼ!」と自信満々にその実力を見せつけたような映画。
 シムラーの下町を舞台にしたチェイスアクションに始まり、タイとギリシャロケによるビーチ&海上アクション、アブダビでの爆走カーチェイス、夜のプラハでの縦横無尽の格闘戦…映画序盤、ハルリーンが眺めるデスクトップ上の風光明媚な海外旅行映像そのままに、映画の舞台は次々と変わって行き、その風光明媚な舞台の中で主役2人が華麗に舞い、踊り、飛び立ち、走り回り、どつき合い、結びついて行く。お話にリアリティとか社会的メッセージなんてないも同然な軽ーい映画なのに、なんて心躍り、片時も目が離せないで、何度見ても飽きないのでしょう!!

 主役ラジヴィール役を演じたリティック・ローシャンは、1974年生まれの40才(映画公開当時)であの身のこなし、あの舞踏力、あの快活さ!! スゴい! の一言。本作以前の「クリッシュ(Krrish 3)」では、青年役にはもう老けすぎてるかなと思える疲れた顔してたのに、本作は一気に若返ったような、06年の「Dhoom 2(ドゥーム2)」の頃に戻ったかのような元気の良さを見せつけてくれて「よ! 待ってました!」って感じ。ここ数年、ゲスト出演以外だとシリアスな役が多かったリティックですが、やっぱこう言う問答無用にカッコいい役やるとどハマりしますなこの人。マジメな役もいいけど、もっとこう言う映画で活躍する様を見てミターイ!!

 対するトラブルメーカーなヒロイン ハルリーンを演じたのは、1983年香港生まれの英印ハーフのモデル兼女優カトリーナ・カイフ(*1)。
 幼少期に両親が離婚して、イギリス人弁護士兼活動家の母親について中国、日本、ヨーロッパ各国やハワイなどを転々とし、ロンドンで育つ。ハワイにいた時、14才で美人コンテストに優勝してモデル業を経験。その後ロンドンにて本格的にモデル業を始め、ロンドン・ファッションショー参加をきっかけに映画監督カイザード・グスタドと知り合い03年のヒンディー語+英語映画「Boom」の端役で映画デビュー(*2)。翌04年にテルグ語映画「Malliswari(王女)」で主演デビューして女優業を本格的にスタート。05年「Sarkar(大君主)」他3本でヒンディー語映画に、06年には「Balram vs. Tharadas」でマラヤーラム語映画に出演している。08年に国際インド映画協会のスタイル・デーヴァ・オブ・ジ・イヤー賞を獲得したのを始め、「命ある限り(Jab Tak Hai Jaan)」「タイガー 伝説のスパイ(Ek Tha Tiger)」その他で10以上の映画賞を受賞している。主にヒンディー語映画界で活躍し、その欧米風の容貌から、多大な人気を獲得しているとか。
 「チェイス!(Dhoom 3)」で圧倒的パフォーマンスを発揮した次の作品となる本作では、人生の転機を待ち望む平凡なヒロインと言う役ながら、カトリーナでしか出せない可愛さ、可憐さ、ダンスやアクションのパワーをいかんなく発揮。正統派アクション・ヒロインをこれでもかと楽しそうに演じて、これで嫌みに見えないってんだから、カトリーナもいい女優になりましたなあなんつって。

 監督を務めたシッダールト・アーナンド(*3)は、父親が映画プロデューサーのビットゥー・アーナンド、祖父が脚本家インデル・ラージ・アーナンド、親戚に役者兼映画監督のティヌー・アーナンドがいる映画一族出身。
 01年のヒンディー語映画「Kuch Khatti Kuch Meethi(酸いも甘いも)」の助手として映画界に入り、04年の「Hum Tum(君と僕)」で脚本兼製作総指揮兼助監督チーフを担当。翌05年には、ヒュー・グラント主演のハリウッド映画「9ヶ月」のリメイク作「Salaam Namaste(サラーム・ナマステ)」で監督デビューして大ヒットを飛ばし、ヒットメーカーの仲間入り。本作は5本目の監督作となる。

 劇中に登場するインドの至宝にしてイギリス女王の宝コ・イ・ヌールは、イギリスに実在するダイヤモンド。かつては世界最大と言われた793カラット(!! *4)のダイヤだったけれども、英国に献上されてロンドン万博に展示された時に、輝度を高めるよう再カットが施されて今は105カラットになっている。
 その原産地については、数多くの神話伝説で語られてハッキリしないほどの世界最古のダイヤで(*5)、叙事詩マハーバーラタでも言及されているとか。歴代インド各王朝が、それぞれの時代ごとに所持し、"マドナヤク(宝石の王)""バーバアダイヤモンド(ムガル初代皇帝のダイヤ)"などの名前で呼ばれていたそう。
 現在の名称コ・イ・ヌールとは、ペルシャ語で"光の山"を意味する言葉の訛転。元々は、ムガル帝国からパンジャーブとカシミールを奪い取ったアフガニスタン王国ドゥッラーニー朝の君主アフマド・シャー・ドゥッラーニーによる命名だそうな。
 劇中にもある通り、現在でもインドへの返還を求める声がインド国内にはあるそうで、このために政治対立が起こるほど…らしい。

 なにはなくとも本作の最大の魅力は、これでもかと見せつけられる過剰に過剰な筋肉、超絶ダンス&アクションテクニック、エレガントなドレス&タキシード、無駄に派手な海上アクションにカーチェイス…と、ツッコまないではいられない徹底したサービスシーンの連続のそれ。「そうそう! ここまでしないと娯楽映画って成立しないよね!」って断言したくなるほどに、そのツッコミ待ちな制作姿勢…キライジャナイゼ。
 もうとにかく、爽快度ナンバルワンのスタイリッシュアクションの代表作だゼ。バンバン!


ED Bang Bang (バンバン)




受賞歴
2015 Bollywood Hungama Surfers' Choice Music Awards ミュージックビデオ賞("Bang Bang")




「バンバン!」を一言で斬る!
・完璧な肉体と完璧な身のこなしを持ちながら、…なんでそんなにまゆ毛が薄いのリティック殿。

2015.11.13.
2023.5.6.追記

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*1 またはカトリーナ・ケイフ。生誕名カトリーナ・トゥルコッテ。カイフが父親の姓で、トゥルコッテが母親の姓。
*2 映画自体は大コケ。カトリーナ自身も「あれは私の人生上では、重要な点に数えられない」と言ってたとか。
*3 別名シッダールト・ラージ・アーナンド。
*4 現在は、もっと大きなダイヤが発見されてますデス。
*5 産地として有力視されているのは、現アーンドラ・プラデーシュ州のビジャープル鉱山。