インド映画夜話

Bangalore Days 2014年 172分
主演 ナスリヤー・ナシーム & ニーヴィン・パウリィ & ドゥルカン・サルマーン
監督/脚本/台詞 アンジャリ・メーノン
"グッドモーニング、バンガロール!"




 バンガロール(カンナダ語名ベンガルール)でソフトウェアエンジニアとして働くケーララ人のクッタン(本名クリシュナン・PP)。
 その従姉妹で、経営学を学びながらも占星術師のせいで急遽お見合い結婚する事になった大学院首席のクンジュー(本名ディヴィヤー・プラカーシュ)。
 学校を中退して自由奔放に暮らす従兄弟のアジュ(本名アルジュン)。
 お互い親戚で幼馴染でもある親友3人は、久々に生まれ故郷ケーララ州コーチ(旧コーチン)でのクンジューの結婚式に勢ぞろいする。夢も希望も満ち溢れていた、あの子供時代の時のように…。

 結婚式後、3人はそれぞれの日常に戻りつつ、それぞれにバンガロールで生活し始める。初めこそ大都会の様子に喜びを感じていたクッタンは徐々に郷愁にとりつかれ、クンジューもまた、「僕には忘れられない人がいる」と語る夫ダース(本名シヴァダース)とうまくいかない日々が続いていく。一方、修理工の仕事に就いてモトクロスレーサーを志しながらも暴力事件で謹慎処分を受けたアジュは、そのまま車両修理工の仕事で暮らしていく中、お気に入りの英語ラジオ番組DJのサラとの出会いを夢見ていたものの…。
 三者三様のバンガロールでの生活は、お互いをサポートしつつもそれぞれに人生につまづいていって…。


挿入歌 Maangalyam (さあ、結婚式だ)


 日本公開作「チャーリー(Charlie)」に主演しているドゥルカン・サルマーン&パールワティ出演の、大ヒット・マラヤーラム語(*1)映画。
 日本では、2014年にCELLULOID Japanによって英語字幕版で自主上映された。
 2016年には、タミル語(*2)リメイク作「バンガロール・デイズ(Bangalore Naatkal)」も公開。

 とにかく女優が可愛い! 3人組の1人クンジュー演じるナスリヤー・ナシームがカワイイ!! 中盤から登場するDJサラを演じるパールワティがカワイイ!! 男優たちもウザカワイイ!! …えーと、そーでなくて…ちょっと落ち着こう。フゥ。

 物語は、ケーララ州コーチ郊外に住む親戚であり親友3人組のお上りさんが、バンガロールと言う大都会で友情を継続しつつ大人になっていく過程を描いていく、マルチスター青春劇。
 映画冒頭のコーチでの結婚式の顛末はテンポよく、ミュージカル「Maangalyam (さあ、結婚式だ)」のアップテンポなノリも手伝ってバッチリ心を捕まされる楽しさ。他の映画では、わりとひなびた観光都市みたいな描かれ方をするコーチ周辺は、本作では牧歌的な田舎として描かれていて、そこから州を越えたカルナータカ州都バンガロールに舞台を移した3人の青春劇をそれぞれ特色を変えつつ、時に話を混ぜ合わせながら進めていく。何故にバンガロール? と思わんでもないけど、多分なんか元ネタになるような文句でもあるんかいな?(*3)
 バンガロールの喧騒を映す俯瞰カットが、なんかOPのミニチュア撮影を彷彿とさせる偽物っぽさに見えるシンクロ具合が「へえ」って感じ。

 クンジューとダースの愛のない夫婦生活はそれなりにサスペンス展開をして行きながら、「え? そっちに行くの?」って意外な展開だし、朴訥で真面目なクッタンの恋の顛末や家庭事情は田舎あるあるやお上りさんあるあるも手伝って手堅い作り。一番ウソくさいアジュのロマンス劇が、「そんな順調に話を持って行っちゃって…」とか思ってたところからのモトクロスレースの山あり谷ありコースというモチーフが、きっちり意味を持って映画全編をまとめてくれるなんざあニクいですね。中盤あたりののんびり展開に「ちょっとタルいなあ」とか思ってしまった自分をしばきあげたいですよ。

 本作の監督&脚本&台詞を担当したのは、1979年ケーララ州カリカット(現コーリコード)生まれドバイ育ちのアンジャリ・メーノン。
 商学位を取得後、プネーの大学でTV製作コミュニケーション研究を学び、ロンドン・フィルム・スクールを卒業。卒業制作となる短編映画「Black Nor White」が米国パームスプリングス国際映画祭などで上映されて映画監督&製作&脚本デビュー。
 以降、ドキュメンタリーや短編映画で監督・プロデューサー・編集を担当。06年には夫ヴィノード・メーノンとともにムンバイにて映画会社リトル・フィルム・カンパニーを設立させている。
 09年のオムニバス・マラヤーラム語映画「Kerala Cafe(ケーララ・カフェ)」の1編「Happy Journey」を監督した後、12年には「Manjadikuru(幸運の赤い実)」で長編映画監督デビューして、ケーララ国際映画祭FIPRESCI(国際映画批評家連盟)賞他多数の映画賞を獲得する。本作は、長編商業映画としては2本目の監督作となり、18年には3本目の監督作「Koode(共に)」も公開させている。

 映画の顔とも言えるクンジュー演じるナスリヤー・ナシームは、1994年ケーララ州ティルヴァナンタプラム(旧トリヴァンドラム)生まれ。一時はアラブに住んでもいたとか。
 05年からTV番組出演を経て、翌06年のマラヤーラム語映画「Palunku」に子役出演して映画デビューし、13年の「Maad Dad」で主演デビューする。同年にマラヤーラム語版とタミル語版の同時公開となった「Neram(時)」でタミル語映画デビューともなり、この映画でフィルムフェア・サウス新人女優賞他多数の映画賞を獲得する。
 本作と同年公開となる主演作「Salalah Mobiles」で歌手デビューもしていて、本作でも1曲"Ente Kannil Ninakkai”の歌を担当。本作制作中に、劇中でのクンジューの夫ダース役を演じるファハード・ファージルと婚約し、映画公開後に結婚したことも話題となった。
 本作公開の14年には合計6本もの映画に出演していて、結婚を期に一旦映画界を離れるものの、18年の「Koode」「Varathan」の2本で女優復帰。後者ではプロデューサーデビューも果たしている。

 外国を舞台にしたインド映画で、都合よくインド人同士が出会って話が進んでいく映画は数あるけれど、国内の別言語圏を舞台にした映画でも都合よく同じ母語のインド人同士がくっつくのね、って感じがなんとも。まあ外国で母語に出会ったときの安心感ってのはスゴくわかるよなあ…とは思うけど。
 そう言った、ケーララ人(*4)同士が大都市で助け合ったり対立しあったりする上京組の微妙なノスタルジーを描いていく物語は、それぞれに社会に出ていくケーララの若者たちがそこで様々な挫折を経験しながら、それぞれに新しい出会いを通して社会人として、大人として、ケーララ人としての階段を上っていく様を爽やかに見せていく。主人公3人組の友情はそのままに、その友情によってそれぞれの問題を解決していく糸口を見つけていく清々しさも必見。
 クンジューの夫ダース役に「マヘーシュの復讐(Maheshinte Prathikaaram)」に主演していたファハード・ファージルが配役されている他(*5)、「チャーリー」のパールワティはじめ色々とマラヤーラム語映画界他で活躍する新進気鋭のスターたちが集まってるのも見所ですゼ!!

挿入歌 Nam Ooru Bengaluru (我ら、生粋のバンガロール)

*ブライアン・アダムズの"Summer of 69"をパクったと騒がれた一曲。うん…そっくりだネ。


受賞歴
2014 Kerala State Film Awards 主演男優賞(ニーヴィン)・主演女優賞(ナズリヤー)・脚本賞(アンジャリ・メーノン)
2014 Filmfare Awards South 監督賞・助演女優賞(パールヴァティ)・音楽監督賞(ゴーピー・スンデル)・男性プレイバックシンガー賞(ハリチャラン / Ethu Kari Raavilum)
2014 Asianet Film Awards 人気作品賞・監督賞・助演女優賞(パールヴァティ)
2014 Asiavision Awards ユース・アイコン賞(ニーヴィン)・驚異的パフォーマンス女優賞(ナズリヤー)・女優・オブ・ジ・イヤー賞(ナズリヤー)・娯楽映画作品賞・音楽監督賞(ゴーピー・スンデル)・撮影賞(サミール・ターヒル)・センセーショナル新人演技賞(パールヴァティ)
2015 SIIMA (South Indian International Movie Awards) 作品賞・監督賞・助演女優賞(パールヴァティ)
2015 Vanitha Film Awards 監督賞・人気作品賞


「BD」を一言で斬る!
・劇中、カンナダ語圏でありながら一度も登場しなかったカンナダ語って、マラヤーラム語とどれくらい違う言語なのだろう…(タミルとマラヤーラムはやや近い言語ってことで、マラヤーリーにはタミル語は理解できるそうだけど)

2018.12.21.

戻る

*1 南インド ケーララ州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 そういや、この翌年公開の「チャーリー」では、本作とは逆に主人公がバンガロールからケーララの実家に帰ってきて、コーチで生活し始めてましたっけ。
*4 またはマラヤーラム語話者。
*5 見れば見るほど、デコの広さが気になるるるる…。