Bhagavanth Kesari 2023年 164分
主演 ナンダムリ・バラクリシュナ & アルジュン・ランパール & スリーリーラ
監督/脚本 アニル・ラヴィプディ
"頭を高く掲げ、何も恐れるな。そこで始めて、世界がお前を尊ぶんだ"
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世界最大のスラム街を抱える都市ムンバイ。
そこに、政府要人に命を狙われる裁判長一家が逃げ込んでいた。彼らは、裁判の取引を要求した大臣の手先に襲撃され、逃場を失ってスラムの中に隠れていたのだ。そこにやって来た男は、彼らにプネーまで行けば安全だと語り始まる…「その前に、1つお話をしましょう。ある勇敢かつ無鉄砲な男、ネーラコンダ・バガヴァント・ケサリの物語を…」
数年前。
ワランガル(テランガーナー州ワランガル県都)の刑務所にて、囚人たちの暴力事件をいつも鎮め、必要とあらば鉄拳制裁も辞さない囚人ネーラコンダ・バガヴァント・ケサリは、その正義漢ぶりを買われてスリカーント所長とその娘ヴィジー(本名ヴィジャヤラクシュミー)と仲良くなり「スーパーマン」とあだ名されていく。
そんなバガヴァントは、ある日所長から出所後も娘の保護者になって、亡き母の跡を継いで軍人になりたいと言う娘の希望を叶えてやって欲しいと懇願される。
所長への恩返しもあってバガヴァントはこれを承諾し、出所後スリカーント家に赴いてヴィジーの養育を任されるものの、数日後、スリカーントが突然交通事故死してしまう…!!
残された唯一の保護者として、精神的ショックに悩まされるヴィジーの治療に尽力するバガヴァントは、彼女を大学まで進学させつつ、軍学校入学への準備を進め、近所に住む心理学者カーティヤヤニーに依頼して、心理治療で軍学校入学条件を確保しようとしていた。しかし、大学内での様々な事件を通して、ヴィジーは段々と入隊の夢を諦め始め、進路を押し付けてくるバガヴァントを遠ざけるように…。
同じ頃、国内最大の名声と権力を狙って国家機密を手に入れようとするワランガルのギャングボス ラフール・サングヴィは、州首相を殺し議員たちを懐柔して機密全てを手に入れようとするが、その1部を取り逃がしてしまう。
ラフールの犯罪証拠データを持って逃げる元州首相秘書は、カフェで恋人カールティクと話していたヴィジーのノートパソコンを借りてデータのコピーを作ったのだが、監視カメラからその様子を覗いていたラフールの部下たちは、今度はヴィジーをターゲットとして追い始める…。
挿入歌 Ganesh Anthem (ガネーシャ讃歌)
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タイトルは、主人公の名前。
「バガヴァント」は「限界いっぱいの幸福」「最後まで祝福された者」の意らしく、「ケサリ」はヒンドゥー教を象徴する「サフラン色」の意味の他、「獅子」「馬」「助力者ハヌマーンの父親」「偉大なる人物」の意味にもなるとか。流浪の身である主人公の姿の「Vagabond(放浪者)」ぶりと韻を踏む名前…とかかなあ、といらん深読みもできるかどうかどうなのか。
劇中タイトルには、下に副題として「I Don’t Care(知ったことか)」と出てくる(*1)。
2019年の「F2: Fun and Frustration (F2 - ファン&フラストレーション)」の監督アニル・ラヴィプディの、7本目の監督作。
インドより1日早く英国、アイルランドで公開が始まり、インドと同日でアラブ、オーストラリア、カナダ、ドイツ、フランス、シンガポールでも一般公開されているよう。英国公開版は、いくつかの暴力シーンをカットした短縮バージョンでの公開だったと言う。
日本では、2023年に indoeigajapan主催の自主上映で、英語字幕版が東京は池袋で上映されている。
悪法や権力の腐敗に立ち向かう、強烈な父権ヒーロー大暴れな仕置人マサーラー映画と言う基本に忠実な娯楽映画だけれども、主人公演じるナンダムリ・バラクリシュナの愛嬌ある表情芝居や眼の演技もあって、なかなかに楽しく爽快な絵作りになっている1本。エントリーシーンのクレジットとともに、刑務所の壁に描かれるライオンヘッドが大写しになるタイミングが「わかってるねえ」とか合いの手を入れたくなるカッコ良さでイイネ。
「F2: Fun and Frustration」みたいな家族劇コメディを手がけていた監督が直球マサーラーアクションを描くとこうなるのか…、とか思ってたけど、アニル・ラヴィプディは「F2」以前だとマサーラー映画監督してた人なのねん。そりゃあ、慣れた感じに歌舞いたカット構成を畳みかけてくれますわ。
2017年の時代劇「Gautamiputra Satakarni(シャータカルニ:大王来臨)」では大仰な演技と演説が目立っていた主演のナンダムリ・バラクリシュナですけど、こっちだとクリクリした眼で喜怒哀楽をその都度表現している、寡黙ながら表情豊かな義娘思いの親バカぶりがカッコ可愛く、決めポーズへの流れもインパクト大な存在感でしたわ。
その、主人公の義娘となるヒロイン ヴィジーを演じたのは、2001年米国はミシガン州デトロイト生まれのスリーリーラ(別名スリー・リーラ)。
父親はテルグ人実業家、母親はテルグ人産婦人科医をしていたものの、両親の別居後に生まれて、母親に連れられてバンガロール(現カルナータカ州都ベンガルール)で育つ。子供の頃から古典舞踊バラタナティヤムを習いつつ医者を志望して医大進学して、MBBS(*2)を取得している。
学生時代に、テルグ語(*3)ホラー映画「Chitrangada(チトランガタ / 2017年公開作)」にてヒロインの子供時代役で映画デビュー。その時の撮影監督ブヴァン・ゴウダがSNSにあげた写真を見た映画監督A・P・アルジュンに見出されて、2019年のカンナダ語(*4)映画「Kiss(キス)」で主演デビューし、SIIMA(南インド映画賞)のカンナダ語映画新人女優賞を獲得。同年には2本目の主演作「Bharaate(突風)」も公開されてどちらも好評を博していた。
当初は女優になる気はなく、親の了解も取れない状態だったというが、医大進学中に公開された上記の主演作の評判の高まりによって、テルグ語映画界からも声がかかり、2021年の「Pelli SandaD(結婚祝い)」でテルグ語映画にも主演デビューを果たして、SIIMAテルグ語映画期待の新人女優賞を受賞する。
以降、テルグ語映画を中心に活躍中。2022年のテルグ語主演作「Dhamaka(強風)」でもSIIMAテルグ語映画主演女優賞を贈られている。
軍学校に通って母親と同じ空軍パイロットになりたい、と語るヴィジーながら、映画前半は特に運動神経や体力増強についてのエピソードもなく、主人公バガヴァントの無双っぷりとヴィジーの頭の良さが、理想的父娘関係を築いている様子を描いて行く。ヴィジーについて描かないといけない内容が多々あるのに、そっちよりもバガヴァントの父親無双を思い切り描く所なんかはマサーラー映画文法ってことなんだろうけど、2人の息の合った掛け合い(*5)の小気味良さもあって、あんまヒロインの扱いを気にするヒマもなし。そこに悪役ラフール・サングヴィ(*6)のトンデも残酷さが関わる頃には、物語のヴィジーいじめに拍車がかかり、「軍人なんてもうなりたくない」と言い出してバガヴァントと対立するわ、恋人とデートしてただけでギャングたちに追われ始めるわ、なんだかんだで軍人になる夢をもう1度追って行こうと軍学校に入れば女子生徒皆無の男所帯の中で「女なんて軍人に向かねーんだよ」と生徒からも教官からも罵倒され続ける始末(*7)。映画は、そんな苦悩するヒロインの姿を通して父娘のつながりの強さ、女性自立の姿を描きたいんだろうなってのは伝わってくるけれど、それにしてもなんのトレーニングもなしに運動もそんなに好きじゃない風でいきなり軍隊訓練になんて、よく行ったし放り込んだし放置状態にしまくったよなあ…と言うヴィジーをめぐる本人と周りの人たちの状況の無理矢理感は拭えず。その辺のすれ違いっぷりを楽しむお話にもなっているからまあいいんだけれど。
ナンダムリ・バラクリシュナと共に貫禄の存在感を見せるカージャル・アガルワールも楽しそうで眼福ではあるけれど(*8)、役柄的には焼け木杭な年増女扱いからあまり出てないのが悲し。最終的には悪役に捕まって脅されつつも、主人公の強さを証明する正統ヒロインみたいな立ち位置に変わっていくところが熱いんだけど、そこに至るまでがぞんざいな感じになっててね…。老獪な悪役を演じるアルジュン・ランパールの不敵さとの対象関係でも狙っておったんですかねえ…(*9)。
まあ、なにはともあれこの映画の見所はナンダムリ・バラクリシュナがバッタバッタと悪役をボコり倒す思い切りのいい漫画アクションの想像の斜め上を行く演出の数々だし、その主人公の戦う理由となる恩人の娘との疑似親子関係の絆の強さ、そこに見え隠れする主人公バガヴァントの過去の経緯などを乗せまくった重々なエモーショナルシーンの盛り上がりである。なぜ冒頭でバガヴァンドは刑務所暮らしをしていたのか? 刑務所所長が、バカヴァンドと母親との再会を強く望んだわけは何か? バカヴァンドにとっての家族が意味するものはなにか? と言う強固な父権の裏に存在する家族愛とその危機が露わになる瞬間は、毎度の事ながらあらゆる感情を揺さぶってくるインパクトってやつですわ。
一時期、日本でも本作のアクションシーンの切り抜きが話題になってましたけど、本編の流れであのシーンを見ると、バガヴァントの決めポーズ1つとっても、その無双っぷりを見せつける決めポーズ1つとっても、その背景を築く主人公の体験・思い・信念・決して譲れないものを体現している事を示す数々のモチーフに、もう頭の中ボッコボコにされますよって!
挿入歌 Jhagada Jhagada
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受賞歴
2023 Santosham Film Awards 撮影賞(ラーム・プラサード)
2024 IIFA Utsavam テルグ語映画監督賞
2024 SIIMA(South Indian International Movie Awards) テルグ語映画作品賞
2025 National Film Festival テルグ語映画注目作品賞
「BK」を一言で斬る!
・わりとえげつない武器が出てくるテルグアクションにあって、マイクの一撃で殺すシーンは、初めて見たわ…。それにつけても、ピアノ弾いてるアルジュン・ランパールの不敵さのかカッコよさったら…。
2025.8.8.
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*1 劇中にて、主人公の決め台詞として多用される用語でもある。
*2 Bachelor of Medicine, Bachelor of Surgery 医学士・外科士。イギリスとその影響下にある教育制度における医学の学位。アメリカの医学博士号と同等。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 南インド カルナータカ州の公用語。
*5 +ヴィジーの心理治療のために話に関わってくる、カージャル・アガルワール演じる心理士カーティヤヤニーとのドタバタ。
*6 ヒンディー語映画界の映画スター アルジュン・ランパールのテルグ語映画デビュー!
*7 じゃあなんで入学が許可されてんねん!
*8 ただし、声は声優サヴィータ・レッディの吹替だそう。
*9 まあ、この悪役も結局何がしたかったんだろう? ってのもあるはあるけど。