インド映画夜話

Bheemili Kabadi Jattu 2010年 143分
主演 ナーニ & シャランニャー・モーハーン
監督/脚本 タティネーニー・サティヤ
"お前たちは、どれほどの敗北の痛みに耐えられるのか!?"




 ヴァイザーグ(アーンドラ・プラデーシュ州ヴィシャーカパトナムの略称)近郊の農村ビーミリで育ったカバディ狂のスリー(本名K・スリーバーブ)は、子供の頃に父を亡くし村から遠い農園務めの使用人として働きながら、村の幼馴染たちと作っていたカバディチームをずっと応援していた。

 愛妻家の砕石夫パイリタッリ、気性の激しい精米所所長シェーカル、ねぼすけ漁師ガネーシュ、無能な電気技師デヴドゥ、太っちょの雑貨店主アンモール、生意気な金貸しのダンダラージたち…普段は違う仕事をしている同窓生たちは、カバディの試合開催のたびにビーミリ村チームとして集まって出場しているが1度も勝利できない。一番カバディへの情熱を持っているスリーだったが、仕事のせいでチームに加われない状態が続く中、村祭りのため久しぶりに帰宅した日に、祭り見物にやってきた見知らぬ女性と仲良くなっていく。
 そんな中、祭りの催しとして隣町ウッパダとのカバディ試合が開催されようとしていたが、相手チームは鍛え抜かれた警察選手。欠員補充でついに試合出場を許されたスリーは彼女の前でいいとこを見せようとするも、相手選手と衝突して喧嘩で試合を中断させてしまう…!!


挿入歌 Kabaddi (カバディ)


 タイトルは、テルグ語(*1)で「ビーミリのカバディチーム」。
 タティネーニー・サティヤの監督デビュー作となる、スポ根もの映画。

 本作は、2009年のタミル語(*2)映画「Vennila Kabadi Kuzhu(白月のカバディチーム)」のリメイク作(*3)。

 いやー…スポ根映画だと思って見てたら、色々衝撃の展開に度肝を抜かれる凄まじい映画でしたわ…。
 前半は、のどかでありながら貧困と差別が潜み住む農村を舞台に、主人公と名も知らぬヒロインとの甘酸っぱい青春劇。中盤以降から本格的なスポ根映画になっていく展開ながら、何事もトントン拍子に進むなあと思っていたらまさかの映画的大どんでん返しがぶっ込まれ、「ああ! だから前半はあんなノスタルジックな恋愛模様を丁寧に描いていたのね!」って感じ。
 元のタミル版からどれくらい脚色がされてれるのかは未見の身では不明ながら、いろんな要素が多少唐突なほどに派手になってたり…してんのかなあどうかなあ。

 前半の舞台となるビーミリ村の様子は、インドの農村地域の暮らしの伸びやかさ・人情深い友情関係などをノスタルジックに描いていきながら、主人公が背負いこむ不幸の原因となる貧困や職業差別と言った負の側面も描写されていきつつも、能天気な同窓生たちを囲む村人たちののほほんとした雰囲気がそう言った側面を乗り越えて行っているような理想的田舎の人間関係を甘酸っぱく描いて行く爽やかさ。

 ヒロインの少女を演じたのは、リメイク元の「Vennila Kabadi Kuzhu」でも同じヒロインを演じたシャランニャー・モーハーン。
 1989年ケーララ州アラップーザ生まれで、両親共にダンスアカデミーを運営する古典舞踏家。妹スカンヤーとともに、幼い頃から古典舞踊バラタナティヤムを学んでいて、英文学の修士号と芸術の学位を取得する。
 その舞踊を見た映画監督ファージルに見出されて、97年の彼の監督作マラヤーラム語(*4)映画「Aniyathi Pravu(妹に溺れて)」と、同年公開のそのタミル語リメイク作「Kadhalukku Mariyadhai (愛に敬意を)」に子役出演して映画デビュー。05年のタミル語映画「Oru Naal Oru Kanavu(ある日、ある夢を)」から本格的に女優活動を開始。主にタミル語映画とマラヤーラム語映画界で活躍する中、08年のタミル語映画「Yaaradi Nee Mohini (美しい君は誰?)」でフィルムフェアのタミル語映画助演女優賞ノミネート。09年の「A Aa E Ee」で主役級デビューし、本作でテルグ語映画デビューしてからは、この3言語の映画&TV界で活躍。14年には本作のヒンディー語(*5)リメイク作「Badlapur Boys(バドラプール・ボーイズ)」でも同じヒロインを演じてヒンディー語映画デビューもしている。翌15年に長年の友人の医者と結婚してからは女優業から離れているよう(2021年現在)。

 監督を務めたのは、本作が監督デビュー作となるタティネーニー・サティヤ。
 父親は映画監督T・L・V・プラサードで、祖父も映画監督タティネーニー・プラカーシュ・ラーオ。
 チェンナイの大学でビジュアルコミュニケーションの学位を取得後、01年のヒンディー語映画「Jodi No.1 (No.1カップル)」の助監督として映画界入り。ヒンディー語映画とタミル語映画界で働く中で、映画プロデューサーR・B・チョウドリーの助力を得て彼の息子ジーヴァのための脚本を準備。それらがボツになりつつもそれを元にハイデラバードに移住して本作で監督デビューを飾る。以降も、テルグ語映画界でタミル語映画のリメイク作を監督し続けている。

 悪態をつきながらも、なんだかんだで仲のいい人たちで占めている村人たちの明るさが、主人公の秘めた恋愛模様にも花を添えてより美しく描写されて行くものの、「スポ根映画じゃなかったの…?」と不思議に思ってた所で、友達だけで集まる即席素人カバディチームが、大きな大会に無理やり参加させてもらって気合いと根性でプロ(?)のアスリートへと目覚めて行く展開は王道中の王道。
 インドのスポ根映画は、基本的にテクニックとか戦略とかはほとんど描写せず、その時の登場人物たちの情動の変化を劇的に描いて行くので、ルールとかが分からなくともわりと盛り上がれる分、全てが気合いと根性と登場人物たちの反省で逆転して行くワンパターンな展開にもなって行く。
 本作もそんな路線が堅持された物語で、やたらと詳細かつ冗長に主人公の恋愛模様やチームの一体化への道筋を描いて行くなあ…と途中までは感じてたんだけど「後半ほぼ出てこない名前も知らないヒロインの存在」「人の目を気にしての秘めた恋愛模様」「唯一のヒロインの手がかりの街と大学の名前」「世間知らずで落ちこぼれチームの一発逆転」「トントン拍子すぎる物語が、ある沸点を越えたことで起こる感情的ギャップ」が意味を持ち始める終盤の展開は、それまでの映画の内容やジャンルそのものをひっくり返す衝撃度。普通に王道ハッピーエンドでもいいじゃん! とか思えなくもないけど、それだと印象に残らない凡作以下になるのもまあわかる。のどかな理想的農村の空気そのものを象徴するかのような2人の恋愛模様が、名も知らぬ少女の後ろ姿に示されるほろ苦い寂しさへと帰結して行く映像詩にもなっている、ラストのインパクトを作るためにあるような映画ですわ…。

挿入歌 Naalo Parugulu (あなたの賢さに惹かれて)



「BKJ」を一言で斬る!
・主役2人の出会いのきっかけとなるインドの野良犬…は可愛いけど、やっぱ怖いよね…(悪意のない可愛い顔してる分余計に…w)。

2021.4.2.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 この映画は、他に2014年にヒンディー語リメイク作「Badlapur Boys」も公開された他、2019年には続編「Vennila Kabaddi Kuzhu 2」も公開されている。
*4 南インド ケーララ州の公用語。
*5 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。