インド映画夜話

Bruce Lee - The Fighter 2015年 151分
主演 ラーム・チャラン & ラクル・プリート・シン
監督/脚本/原案 スリーヌ・ヴァイトラ
"簡単な人生を願うのはやめろ。困難な人生を耐え抜く強さをこそ願え ー ブルース・リー"




 ハイデラバードに暮らす幼いカールティクとカヴィヤー兄妹は、共に父の希望通り叔父と同じ徴税官になる事を志望するも、家の収入ではどちらか1人をデリーの公立学校に進学させるのがやっと。
 父ラーマ・チャンドラ・ラーオは息子カールティクを進学させて、娘の高等教育を諦めさせようとするが、事情を知ったカールティクはわざと成績を落として妹を進学させるように仕向けるのだった。彼の真意を知っているのは、ただ叔父1人だけ…。

 数年後、"ブルース・リー"のあだ名で映画業界のスタントマンになっていたカールティクは、影ながら妹の勉強を手伝い続け、不平ばかりの父親の知らぬ所で悪をくじき弱きを守る熱血漢に成長していた。ある日、結婚式場で暴れている男たちを鉄拳制裁したカールティクは、その現場にいたゲームデザイナー リヤー・バーラドワージに熱血警官だと誤解され「今度、警官ヒーロー主役のゲームを作るから、モデルになってほしい」と迫られる。ついその気になってリヤーの前で警官を演じるカールティクだったが…。
 同じ頃、ホテルで無差別銃撃テロを起こして死んだ犯人の捜査をしていたカールティクの親戚の警察官ラヴィは、この事件がマフィアボス ディーパク・ラージによる商売敵の暗殺であることを突き止めるが、裏で通じていた上官マールタンダ警部とディーパクの共謀によって、何処かへと誘拐されてしまっていた…!!


挿入歌 Run (ラン! [人生は競争だ、己の夢を追え!])


 ラーム・チャラン主演の、テルグ語(*1)アクション大作。別題「Bruce Lee(ブルース・リー)」。
 2017年に公開されたタミル語(*2)映画「Bruce Lee」とは別の映画。
 同タイトルでヒンディー語(*3)吹替版、マラヤーラム語(*4)吹替版が、「Bruce Lee 2」のタイトルでタミル語吹替版も公開。

 「バードシャー(Baadshah)」の監督スリーヌ・ヴァイトラ15本目の監督作となる本作は、マサーラー映画の定型通り父子対立・突然のロマンスの訪れ・マフィアボスの暗躍・複数の悪役とコメディアンで彩られる高速台詞劇が余すことなく展開しつつ、公権力(*5)の腐敗や女性の社会進出、数々の映画ネタや時事ネタを取り入れる濃厚な1本に仕上がったアクション&ロマンス&コメディ大作。

 タイトルのブルース・リーは、冒頭にその格言が引用されて「あえて困難に立ち向かうヒーロー像」を補強する形で利用されるものの、それ以外に特に映画的意味合いとかは全くないモチーフになっている(*6)。まあ、主演ラーム・チャランはデビュー作「Chirutha(チルタ -豹-)」でもカンフーアクションを披露して話題になってる人ではあるけどねえ…。
 前半は主人公の家庭不和を中心軸に、ヒロイン リヤーとのロマンス・警察組織を味方につけたディーパクとの対決が描かれていって、後半はさらなる巨大な社会悪の登場によるそれぞれの家庭不和・ロマンス・サスペンス劇の解決が怒涛のごとく展開していく。
 特に、音楽担当のS・ターマンによる数々の楽曲のノリの良さ、脳に刻まれるビートの数々、それを補強するような力強さを見せつけるミュージカルのカラフルでアクティブな映像の洪水がこれでもかと印象に残るノリノリな映像が凄い。
 それだけでも強烈な映画ながら、さらに物語の解決編にテルグ映画ファンの心をがっつり捉える意外なラストも待っていて「そんなのありかぁぁぁぁぁ!!!!」と叫びたくなるサービス精神満載なところが嬉しい。父子の対立と和解というテーマに、こんな回答(?)をしてきた映画が今まであっただろうか…!!(*7)

 主人公の恋のお相手になるヒロイン 北インド人のリアーを演じたのは、1990年ニューデリー生まれでアーンドラ・プラデーシュ州ハイデラバード(*8)育ちのモデル兼女優ラクル・プリート・シン。
 パンジャーブ系の家生まれで、デリーの大学で数学を修了。学生時代は国体出場レベルのゴルフプレイヤーでもあったそう。女優を目指してモデル業を始め、09年のカンナダ語(*9)映画「Gilli」で映画&主演デビュー。大学卒業後、いくつかのモデル賞を獲得しつつ11年の「Keratam」でテルグ語映画に、翌12年には「Thadaiyara Thaakka(壁破り)」でタミル語映画に、14年には「友情(Yaariyan)」でヒンディー語映画にそれぞれデビューする。
 14年のテルグ語映画主演作「Loukyam(理知)」でCineMAA批評家選出主演女優賞を獲得してからはテルグ語映画界を中心に活躍中。本作出演でも数々の女優賞を獲得し、活躍の場を増やしている。
 女優業の他、トレーニング・ジム"ファンクショナル45"の経営にも参加しているそうな。

 本作のもう1人のヒロインと言えるカールティクの妹(姉?)カヴィヤーを演じたのは、1988年ニューデリー生まれのモデル兼女優クリティ・カルバンダ。
 幼少期にカルナータカ州ベンガルールに家族で移住し、地元の学校に進学。学生時代からモデル業を始め、宝飾デザインを修了。当初は女優になる気はなかったというけれど、母親の勧めもあって、09年のテルグ語映画「Boni」で映画&主演デビュー。翌10年には「Chiru」でカンナダ語映画デビューする。以降、この2つの映画界で活躍し、14年のカンナダ語映画主演作「Super Ranga」でSIIMA批評家選出主演女優賞を獲得。本作の翌年の16年には「Raaz: Reboot」でヒンディー語映画に、そのさらに翌17年には本作とは別の「Bruce Lee」でタミル語映画にもデビューしている。

 ヒンディー語を喋るリアーとのロマンスもそこそこに、基本的には家族劇のお話な本編。印象的なのは結婚の裏事情でマフィアの罠にはまった妹カヴィヤーが自殺しようとした所を目撃してしまったカールティクとの兄妹の助け合いのシーンが凄まじくエモーショナルで、その感情の振幅の大きさ、支え合い信頼しようとする兄妹を襲う社会悪の怖さとも相まって涙を誘う名シーンで素晴らしか。
 後半の複数の家族劇が並行して進む展開も濃厚ながら、この兄妹の支え合いの姿が素晴らしく美しく、ここを起点に和解していく家族の姿が素晴らしきかな。まあ、タイトルのブルース・リーとはあんま関係ないのがあれですけども。
 あとは、コメディ担当のスズキ・スブラマニアム(*10)のテーマがやたら耳にこびりついてねえ…全国のスズキさんは必見だよ!!!(たぶん)

挿入歌 Ria (リアー [君はなんて…])


受賞歴
2016 Zee Telugu Apsara Awards 人気ヒロイン・オブ・ジ・イヤー賞(ラクル / 【Pandaga Chesko】と共に)
2016 Sakshi Excellence Awards 人気女優賞(ラクル / 【Pandaga Chesko】【Kick 2】と共に)


「BL-TF」を一言で斬る!
・犯人逮捕のための潜入捜査に協力する人物が『母がホンダ、父がマルチのスズキ・スブラマニアム』って…おいこらw(インドのマルチ・ウドヨグと日本のスズキが合併した、スズキの子会社マルチ・スズキ・インディアって自動車メーカーがあってね…っていう野暮な解説w)

2018.7.20.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 南インド ケーララ州の公用語。
*5 警察・大企業・製薬業界などなど。
*6 ミュージカルに、インド人の考える中国モチーフが出てきたりはするけど。
*7 探せばあるかも? ラーム・チャラン映画の常套手段的ネタと言えなくもないけど…w
*8 現在はテランガーナー州内にある両州の共同州都。
*9 南インド カルナータカ州の公用語。
*10 演じるのは、テルグ語映画界の名コメディアン ブラフマナンダム!!