インド映画夜話

シャウト・アウト (Baaghi 3) 2020年 143分
主演 タイガー・シュロフ & リテーシュ・デーシュムク & シャラッダー・カプール
監督/アクションデザイン アーメド・カーン
"決して振り返るな!"




 オールドデリーに住むヴィクラム・チャラン・チャトゥルヴェディとロニー(本名ランヴィール・チャラン・チャトゥルヴェディ)は、仲良し兄弟。
 いつも、気弱な兄ヴィクラムを弟ロニーが守り、暴徒鎮圧の際に殉職した警察官の父の遺言を堅持し、兄の危険と見るや見境なく暴れるロニーがヴィクラムを支え続けてきた。

 父の死から15年。
 伯父の仲介で、アーグラーのローへーマンディ署勤務の警察官になったヴィクラムは、様々な犯罪者相手に影ながら兄をサポートするロニーの活躍によってトントン拍子に出世し、ついには外務省から人身売買の総元締めの指名手配犯IPL(インダル・パヘリ・ランバ)の身柄受け渡し輸送を依頼される。
 IPLが潜伏していると思われるのは、シリアのテロ組織ジャイシェ=ラシュカル。弟のいない外国旅行をさっさと終わらせようとしたヴィクラムだったが、シリア入国後のロニーとの通話中に、突如何者かに襲撃され連れ去られてしまう!
 「おい! 兄貴に手を出すな! 何かあれば、2人ともぶっ殺すぞ!!」
 『2人じゃない…1000人でも利かんぞ。俺たちは国家だ』
 「兄貴を傷つけたら…死んだ親父の名にかけて、貴様らが誇る国家とやらを世界地図から消してやる!!」


ED Dus Bahane 2.0 (尽きることのない口実 ver.2)

*この歌は、本作と同じヴィシャール=シェーカルが音楽を手がけた2005年のヒンディー語映画「Dus(10)」の挿入歌"Dus Bahane"を編曲した、バージョン2となるもの。


 原題は、ヒンディー語(*1)で「反逆者3」。
 タイガー・シュロフ主演の超絶アクションシリーズ第3弾(*2)。その内容は、2012年のタミル語(*3)映画「Vettai(狩り)」を元にしている(*4)。

 インド本国より1日早くアラブで、インドと同日公開でオーストラリア、カナダ、デンマーク、フランス、英国、インドネシア、アイルランド、ノルウェー、ニュージーランド、ポルトガル、シンガポール、米国でも公開されているよう。
 日本では、2021年に東京と大阪の映画館シネマートで開催された映画祭「のむコレ(のむらコレクション) '21」にて上映。のちにDVD&BDが発売されている。

 前作「タイガー・バレット(Baaghi 2)」のアーメド・カーン監督&タイガー・シュロフ主演コンビの続投で、さらにシリーズ1作目「Baaghi」の主演女優シャラッダー・カプールがヒロインに戻ってきた(*5)シリーズ3作目。
 1作目の敵が地方都市を支配するギャング、2作目が国家転覆を狙う裏切り者の軍人となってからの、今作ではついに国を飛び越えシリアを舞台にして、国家を名乗る国際テロ組織(*6)へと拡大!! 国際的人身売買マーケットを持つ巨大組織に対して、縦横無尽に暴走する主人公ロニー演じるタイガー・シュロフの頼もしさと曲芸的アクションの美しさ、家族愛に突き動かされる彼の憂いと憤怒をこれでもかと魅せていく高密度アクション映画の、なんとエネルギッシュなことか。
 母不在の家で父の遺言を使命に兄を守る弟が、インドを始め数多くの家族を拉致し人質としてそのつながりを利用して自爆テロ犯に仕立てる「国家」を名乗るテロ組織に立ち向かうという構図も、皮肉的対照構造になっていてカッコいい。

 「家族」がテーマの本作を象徴するためか、主人公演じるタイガーの実の父親ジャッキー・シュロフが主人公の父親チャラン・チャトルヴェディ役で特別出演し、シュロフ父子の初共演となった事も話題に。
 リテーシュ・デーシュムク演じる弱気な兄ヴィクラムの、弱気ながら調子のいい兄貴演技も秀逸。前半のそれはほぼコメディになって笑かしてくれるのに、不穏な冒頭シーンが現実のものとなる中盤以降からそのコメディな日々の幸福感が効果的に兄弟愛を演出していき、ダメダメ兄貴の存在感をいやが上にも全面に押し出してくる(*7)。
 そういや、やたらスカした少年ロニー演じるアヤーン・ズバイル・ラーマニーの身のこなしになんか見覚えがあるような…と調べてみたら、やっぱり「WAR ウォー!!(War)」で主人公カビール(*8)の少年期役を演じてる子役だった。カッコかわいいんだけど、なにやら「慣れてますよ」感満載のカッコつけ方だったねえ…将来が楽しみデス。うん。

 中盤以降のシリアを舞台にしたシーンは、スタッフ側は実際にシリアロケするよう要望したそうだけども、FOXスター・スタジオ側から治安維持確保できないと却下されて東欧のセルビア(他モロッコ、エジプト、トルコ)でセット組んで撮影されたものとか。
 セットだろうとは思える画面とは言え、わりと大規模なセットをキャストたちに盛大に走り回らせ、暴れ回らせる思い切りの良さも注目どころか。
 予告編解禁時に「貴様らが誇る国家とやらを世界地図から消してやる!!」と言う主人公の台詞がシリアに対する侮辱行為ではないかと物議を醸したという話も聞くけれど、実際にシリアでインド映画撮影が敢行されてたらどんな影響があったんかなあ…とは思うところでもあったり。まあ、会社としてはヒヤヒヤもんでしょうけども。

 兄貴にとってのスーパーマンの弟主人公が、普段兄のサポートしてない時は何やって暮らしてんのやろとか、姉と恋人のためとは言えシリアまできてあんま活躍の場を与えられてないヒロインはなんなのよとか、色々ツッコみたいところは多々あれど、まあ全部ラストの大立ち回りを魅せるための仕掛けであると納得…できない事も…なくは……まあ、ね。
 物語としては、サスペンスでグイグイ見せていく前作「タイガー・バレット」に対して、本作は前半のコメディアクションと後半のシリアスなサスペンスアクションの2本立て構造。どちらが好みかは、人による感じだけども、どちらもありなのがインド映画デスワヨ! 家族を盾に自爆テロリストに仕立てて大勢の家族を不幸にしようなんて輩は、タイガーキックでペチャンコになれぇぇぇぇぇぇ!!!!!

プロモ映像 Get Ready To Fight -Reloaded (備えろ、戦闘だ)



「Baaghi 3」を一言で斬る!
・威厳を与える警察には、でかいサングラスと口の中でクチャクチャするガムが必須なのか…。

2022.4.2.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 ただし、主人公以下登場人物数人の名前が共通するだけで、物語的つながりはない。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*4 この映画は、他に13年のテルグ語リメイク作「Tadakha(勇気)」、14年のバングラデシュ映画リメイク作「Hitman(ヒットマン)」、18年にはオリヤー語リメイク作「Happy Lucky(ハッピー・ラッキー)」とマラーティー語リメイク作「Mauli(マウリ警部)」としてもリメイクされている。
*5 しかもタイガー演じる"ロニー"に対し、シャラッダーの役名が1作目の"シア"に対応する"シヤ"と、名前もシンクロさせている!
*6 元ネタは言わずもがな!
*7 その演技は、本作と同じ映画をリメイク元とする彼の主演作マラーティー語映画「Mauli」の影響も指摘されてるそう。
*8 演じるのはリティック・ローシャン!