インド映画夜話

Billa 2009年 149分
主演 プラバース & アヌーシュカ & ナミータ
監督/脚本/台詞/作詞 マヘール・ラメーシュ
"ビッラは標的を外さない…同時に、誰の標的にもなりはしない"




 マレーシアを拠点に、麻薬や武器密売でアジアの裏社会を牛耳る国際的指名手配犯ビッラ。ICPO(インターポール=国際刑事警察機構)は2年前から彼の動静を探り、逮捕を目指しマレーシア警察と共同作戦を展開していた。
 そんな中、兄と義姉をビッラに殺された女性マヤが、単身ビッラの根城へと乗り込んでいく…。

 一方で、ICPO所属のクリシュナ・モールティ警視正は、様々な犠牲を払い後任のICPO職員ダルメンドラへの引き継ぎも拒否した上で、ついにビッラを追い詰めることに成功。しかし、その追跡途上で一時的にビッラを見失った後、自分の車に潜んでいた彼の死を目撃してしまう…!!
 ビッラに指令を出す"デビル"の情報を欲するクリシュナは、彼の死を伏せるために密かにビッラを埋葬しようと部下シャンカルにのみ協力を要請するが、やって来たシャンカルはその遺体を確認しようとして叫ぶのだった…「警視正! この死体はランガじゃないですか!? インドに住んでる私の友人ランガですよ!」


挿入歌 My Name is Billa (我が名はビッラ)


 2007年のタミル語(*1)映画「Billa」の、テルグ語(*2)リメイク作となるサスペンスアクション。
 元映画自体、80年の同名タミル語映画のリメイクであり、さらにその映画自体が78年のヒンディー語(*3)映画「Don(ドン)」のリメイク作であったりする。
 また、テルグ語映画での「Don」のリメイクとして、本作に先立つ1979年公開のN.T.R.主演作「Yugandhar」もある(ああややこし!)。

 2017年には、ヒンディー語吹替版「The Return of Rebel 2」がネット公開されている。
 日本では、2019年にIndoeiga.com主催の「魅惑のテルグ映画 〜 プラバース編2」にて英語字幕版で上映。2022年には、字幕なしながら4K版で自主上映されている。

 大元の「Don」もリメイク元の「Billa」も未見ながら、大元のヒンディーリメイク作となる06年の「ドン 過去を消された男(Don: The Chase Begins Again)」は見ていたので、ある程度は話の流れは予想の範囲内ではあったものの、ビッラの死を公表しないままの展開がヒンディーリメイク版とは別方向のどんでん返しへとつながっていく構成は見事。騙し騙されのサスペンス要素はそこまで高くないものの、ド派手なアクションへつながるさまざまな仕掛けが、きっちりしっかり全編で効果的に映画を盛り上げてくれるので流石であります(*4)。

 ビッラとランガの一人二役を演じるプラバースは、多少演じ分けにぎこちなさを感じなくはない…けれど、それは良い人オーラが出すぎているせいか、ギャングメンバー全員のブラックスーツとサングラスの統一されすぎたブラックファッションのせいか。そーいや、それぞれのヒロイン達(マヤ、リーサ、プリヤーの3人)も、皆様セクシー度を上げまくったボディラインを主張する衣裳での登場で、統一されすぎてるようなモデル体型を維持して登場されてましたわね。プリヤー演じるハンシカー(・モトワーニー)なんか、最初ハンシカーだと気づかなかったべや。

 マヤ演じるアヌーシュカ(・シェッティ)と共に、印象的なヒロインとして活躍するリーサを演じるのは、リメイク元タミル語映画でも同じ役(*5)を演じるナミータ(生誕名ナミータ・ムケーシュ・ヴァンカーヴァーラー)。
 1981年グジャラート州スーラトのパンジャーブ系家庭に生まれ、98年にミス・スーラトに選出されて注目を集めてムンバイにてモデル業を始めた他、英文学の学位を取得。子供に水泳を教えていたこともあるとか。
 CM出演を経て、02年のテルグ語映画「Sontham」「Gemini」の2本で映画&主演デビューする(*6)。04年には「Engal Anna(僕らの兄さん)」でタミル語映画に、06年の「Love Ke Chakkar Mein」でヒンディー語映画に、同年の「Neelakanta」でカンナダ語(*7)映画、08年には「Kamasutra Nights」で英語映画、10年には「Black Stallion」でマラヤーラム語(*8)映画にそれぞれデビューもしている。以降は、南インド各映画界で活躍中。
 もともと体を動かすのが好きと言うことで、空手、水泳、ダンス、バドミントンを習熟しているそうな。

 ギャングスターの活躍する映画なので、まあ、ヒロインの活躍が限定的になるのはある程度仕方がないとはいえ、それなりの見せ場は用意されつつも基本綺麗どころを揃えましたくらいの出番の中で、一番印象的だったのはやっぱり貫禄のナミータ演じるリーサだったかねえ…。アヌーシュカ演じるマヤの復讐劇がわりと軽いのは、ヒンディーリメイク版とは方向の違うピカレスクロマンを目指しているからでしょか。
 わりと泥臭いランガのビッラ修行シーンがノリノリで展開されたりとか、サスペンスというより少年漫画的なドタバタ感もあるし(*9)、ほかの映画でも出てくるインドやマレーシアの観光名所の多出具合も楽しい。ま、撮影現場は天気の変わりやすいマレーシアの天候に苦しめられたそうだけども。

挿入歌 Ellora Shilpanni (私はエローラの彫像 [捕まえてごらんなさい])

*エローラとはもちろん、インドが誇る世界遺産の1つエローラ石窟群のこと。
 このシーンで踊ってるのは、ゲスト出演のプリヤー役のハンシカー・モトワーニー!



「Billa」を一言で斬る!
・1人で、人間1人分の墓穴掘るって大変でない…? んで、その墓穴あとでどうしたんだろう…?

2019.4.12.
2022.11.5.追記

戻る

*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 テルグのノリがそうさせるのか、元のタミル語映画を踏襲してそうなってるのか、ってのはありますが。
*5 役名は違うけども。
*6 後者では、"バイラヴィ"の芸名で出演し、以降数作だけこの芸名を使っている。
*7 南インド カルナータカ州の公用語。
*8 南インド ケーララ州の公用語。
*9 最近の日本の漫画だと、修行シーンも減ってきてるとは聞きますが…。