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Bimbisara 2022年 146分
主演 ナンダムリ・カールヤン・ラーム
監督/脚本 ヴァッシシュタ
"我こそビンビサーラ……貴様らに死を与える者"
紀元前500年。
森の中を兵士に追われるビンビサーラは、偶然鏡に悪魔たちが封印されている洞窟に迷い込んでしまう。追っ手たちが次々に鏡の中へ連れ込まれる中、ビンビサーラはその鏡を粉々に砕いた事で封印されていた悪魔を解放し難を逃れるのだった。
悪魔は、解放された礼として、"未来とつながる鏡"を彼に与える…
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時は流れて西暦1974年。
呪術師の話から、万病を治癒させると言うビンビサーラの秘宝が眠る遺跡を発見した学者サーストリだったが、一緒について来た息子スブラマニヤの不用意な行動がもとで命を落としてしまった。
目の前で起こった惨劇を忘れられないスブラマニヤ・サーストリは長じて外科医になるが、呪術師ケートゥと協力して「死者を蘇らせる」と伝えられるビンビサーラの秘宝が眠る遺跡を開ける方法…ビンビサーラ本人の手の平と声認証の技術解明方法…を探し始める。
かつて…トリガッタラ王国を支配した残忍なる王ビンビサーラは、死者を蘇らせる花をはじめとした秘宝を献上され、さらなる征服戦争へと乗り出した。
隣国アスマカ王国の王を殺し、その姫アイラを幽閉したビンビサーラは、未だ服属しない王国内の村を襲撃して、その村の指導者でもあるアーユルヴェーダ医を殺す中で「お前の没落が始まった…我が娘の死と共に。お前の踏み出す1歩ごとに、お前の破滅がお前と王国を包むだろう」と予言される。
その後、王宮から姿を消していた双子の兄デーヴァダッタの襲撃を受けるビンビサーラは、突如悪魔から献上された大鏡に吸い込まれて、どことも知れない世界(=現代のハイデラバード)へと迷い込んでしまう……それを幻視した呪術師ケートゥは叫ぶ「サーストリよ、偉大なる奇跡だ! 長年のお前の希望が叶う時が来た。ビンビサーラの足が、時を越えてこの大地を踏もうとしている!!」
挿入歌 Eeswarude
タイトルは、劇中の主人公である古代インドの王様の名前。
実在した、仏教守護したマガダ国王ビンビサーラ(*1)と同時代の同名の王様と言う設定らしいけど、仏典に出てくる王様とは別人の架空の人物で、劇中ではトリガッタラ王国の王様と言う設定(*2)。
ブッダと同時代の残虐な王様が、ブッダとは関係なく現代インドにタイムトラベルしちゃうアクション・テルグ語(*3)映画。製作プロダクションは、主演ナンダムリ・カールヤン・ラームが設立したN.T.R.アーツ。
冒頭の悪魔が封印された鏡の間のセットやVFXのチャチさで「あ、やばそうな映画」とワクワクしてしまいかねない所でしたが、時代考証してなさそうな古代インドと現代インドが並行して進む王様無双映画としては、手堅く作ってる感じのマサーラー構造なお話。まあ「このタイトルで、仏教伝説に出てくるマガダ国のお話じゃないんかい!」って驚きの方が勝っちゃってる印象ではあるけれど。
紀元前500年の頃に、手の平と声認証の宝物庫が作られて、ビンビサーラ亡き後に誰も開ける事が出来なかったって設定自体無茶がすぎる感じだけども、バラモン僧たちの儀式によって封印された場面が出てくれば「そう言う聖法があったから、盗掘もされなかったとしましょうか」とご都合主義にも目を瞑ろうと言うもの(ホンマか?)。まあ、兵士の鎧装束や貴族たちのターバン姿も「イスラーム到達以降の文化とちゃう?」と言う疑問が見え隠れしますがまあ……歴史考証する気はあんまないのネ。うん。
古代インドのビンビサーラ周辺の陰謀劇もわりと直球に進んで、残虐な王様の暴走を止める者もいないまま「お前の没落が、これから1歩ごとに進むぞ」と言う呪いを実現するかのように悪魔の鏡によって(わりと簡単に)現代ハイデラバードにビンビサーラがやって来しまうのが映画開始から40分過ぎ。古代の王国でビンビサーラがやって来た所業の報いが巡り巡って現代のままならなさでビンビサーラ本人に降りかかってくるところなんかは、台詞の一言一言に注目するインド作劇の特徴がよく出て来ている感じ。その分、王の改悛、その悔い改めと過去編の陰謀劇の解決は、だいたい台詞で終わらせてしまってる感じで、映画後半は普通のマサーラー展開的なのは、脚本のせい…と言うより売筋路線を意識するが故かいな。ラフなスーツで現代人相手に大暴れするビンビサーラの立ち姿もカッコええ姿でしたけど。眼力ハンパねえっすよ! 王様!!
ビンビサーラとその双子の兄デーヴァダッタを演じたのは、1978年アーンドラ・プラデーシュ州都ハイデラバード(*4)生まれのナンダムリ・カールヤン・ラーム。
父親は政治家兼映画プロデューサー兼男優のナンダムリ・ハリクリシュナ。祖父はテルグ圏を代表する映画スターであり州首相でもあったナンダムリ・タラーカ・ラーマ・ラオ(通称NTR)。異母弟に映画スター NTR Jr.ことナンダムリ・タラーカ・ラーマ・ラオ(*5)がいる、映画&政治家一族ナンダムリ=ナーラ家の一員。
1989年の父親主演作テルグ語映画「Bala Gopaludu(バーラ・ゴーパラン兄貴)」に子役出演後、父親の強い希望で工学を専攻してコインバートル(現コーヤンブットゥール)の大学で学位を取得。米国留学して修士号も取得している。大学卒業後すぐ映画界に入って、2003年の「Tholi Choopulone」で映画&主演デビュー。同年公開作「Abhimanyu(アビマニュ)」にも主演するも2本とも興行的には不発。俳優業を続けながら、2005年に祖父の名を冠する映画プロダクション"N.T.R.アーツ"を兄ナンダムリ・ジャーナキ・ラームと設立して、その第1号作品である主演作「Athanokkade(彼こそ唯一 / 2005年公開作)」でプロデューサーデビューもしている。その後も、VFX製作会社"アドヴィタ・クリエイティヴ・スタジオ"を設立したり、テルグ語映画界で男優兼プロデューサーとして活躍中。
監督を務めたヴァッシシュタ(別名マッリディ・ヴァシシュタ。本名マッリディ・ヴェンカタ・ナーラーヤナ・レッディ)は、1986年タミル・ナードゥ州都マドラス(現チェンナイ)生まれ。
父親は、映画プロデューサー マッリディ・サティヤナーラーヤナ・レッディ。
学生時代にハイデラバードに引っ越して来て、2004年の「Lakshmi Narasimha」あたりから助監督で映画界入り。本作で監督&脚本デビューを飾って、SIIMA(国際南インド映画賞)テルグ語映画部門新人監督賞を獲得している。
古代と現代を、鏡1つで簡単に行き来するビンビサーラ(と大臣ズベイダ)のノリの軽さが、古代と現代の陰謀劇との対比的になってるのかどうかなあっけらかんとした映画の明るさを生み出してる感…じ?
古代と現代との文化ギャップ、過去に殺された子供の現代への転生、ビンビサーラの子孫を名乗る一族の犠牲…と、それなりに面白い要素が積み積みに積み込まれているけれど、やはりノリの軽さが優先されてサクサクと物語が進みすぎてるきらいはある。その辺が、後半普通のマサーラー映画的なノリに見えてくる要因か。1つ1つの要素の伏線から解決まではしっかり段階を踏んでる分、その進行スピードに慣れてさえいれば楽しい物語になってるとは思うけど。
なんでも主演カールヤン・ラームから続編企画の話が出ているとかで、4部作構想中のお話なんだとか。本作はしっかりこの1本で話が終わってるとは言え、古代と現代をつなぐ鏡が健在なあたりにその野心が見え隠れはするから、作れるもんならもっと作り込んだ世界を作って見せて欲しいですわ。わりと古代側の物語も現代編とおなじ比重で語られていた映画なので、現代人が古代に行っちゃう展開もありだと思うのー!!!(*6)
挿入歌 Gulebakavali
*メインで踊ってるのは、ゲスト出演の女優ワリーナー・フセイン。
受賞歴
2023 SIIMA(South Indian International Movie Awards) テルグ語映画監督デビュー賞
「Bimbisara」を一言で斬る!
・サングラスした遺影はありなのか否か。それが問題だ…(それしか写真が残っていなかったってことかも)。
2025.10.24.
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