インド映画夜話

Brindavana 2013年 159分
主演 ダルシャン(配給も兼任) & カールティカ・ナーイル
監督/脚本 K・マデーシュ
"私はこの屋敷の伝統と習慣を守る。それを破るものを絶対に許しはしない!"






 大企業クリシュナ・グループの御曹司クリシュ(本名クリシュナ)は豪毅な男。
 チンピラに追われる友達を単身救いだしたり、その友達の駆け落ち同然の結婚式を親子で祝ってあげたりと忙しい毎日。両親にも友達にも愛され、周囲の信頼は厚い。

 ある日、恋人マドゥに呼び出されたクリシュは、彼女から「友達を助けてやって。あの子、実家で従兄と見合い結婚させられそうになったんで『彼氏がいるから』と断ったの。そしたら父親から『その彼氏を連れてこい』と言われて困ってる。だから、今から彼女…ブーミーの彼氏役を演じて見合い話を断って来てほしい」と言われて吃驚仰天!

 マイソール県辺境の農村部にあるブーミーの実家、ブリンダヴァナ屋敷は20人からの大所帯。彼女の父で実家周辺の大地主、母亡き後より厳しく頑固な人となったサティヤ・プラカーシュ。博打好きな叔父セーヌーとカラヴァティ夫婦。タダで居候する叔父ヴァスと妻サヴィトリーと息子ギリの一家。働き者の2組の父方の叔父家族。そして、今回の計画の言い出しっぺで唯一ブーミーの味方である祖父。
 さらに、ブーミーを狙う婚約者の従兄や、県境を越えた隣村に住む叔父スーリヤ一家との抗争も絡んできて、クリシュはこの相互にバラバラな一族の面倒を一挙に見る事になってしまい…。


挿入歌 Thangaali (幸福は、まわり全てを吹き渡る)



 2010年のJr.NTR主演テルグ語(*1)映画「Brindavanam(ブリンダーヴァナム屋敷にて)」の、カンナダ語(*2)映画版リメイク。

 タイトルの意味は、オリジナル版と同じく劇中の主な舞台となるお屋敷の名前であり、その由来は、クリシュナ神話に登場する幼少期のクリシュナが生活していた聖林ヴリンダーヴァナのこと(*3)。
 登場人物もクリシュナ神話を下敷きにしており、主人公クリシュはそのままヴィシュヌ神の化身クリシュナの仮託であり、ヒロインのブーミー(*4)とサブヒロインのマドゥは、クリシュナ神話のヒロインでもある正妻ルクミニーと愛人ラーダーに対応している。映画前半と終盤のブーミーの虚言による見合い回避の話はルクミニーの略奪婚神話の現代版翻案ものであるし、クリシュをめぐる三角関係はインド古典劇でよく見られるクリシュナとラーダーと牛飼い女たちによる恋愛劇のそれでもある……ような(弱気)。
 屋敷セットや衣裳などで青や黒、緑が多用されてるのもクリシュナ神の象徴色であろうし、ダンスの振付に笛を吹く格好が多いのもやはりクリシュナの象徴である。インドにおけるクリシュナの絶大な人気が、あからさまに見えてくる一作。

 主役クリシュを演じたのは、1977年カルナータカ州マイソール生まれの"チャレンジング・スター" ダルシャン(・トーグディーパ)。父親もカンナダ語映画界のスター トーグディーパ・スリーニーヴァス、弟に映画監督のディナカールがいる。
 父親の影響力とは裏腹に、当初は映画界になかなか認められず撮影助手や照明係として働いていたとか。95年の父親の死後、映画監督N・ナラーヤンの協力で、TVドラマやノンクレジット映画出演などを経て、01年の「Majestic」で主演デビューを果たす。その後、03年の主演作「Kariya」が750日ものロングランを叩き出し、トップスターの仲間入り。06年の「Jothe Jotheyali」以降プロデューサーとして、13年の主演作「Bulbul」以降は映画配給でも活躍。本作でも主演の他、配給も兼任している。
 11年の弟ディナカール監督作「Saarathi(馭者)」と、12年の主演作「Krantiveera Sangolli Rayanna(サンゴーリー・ラヤンナ英雄伝)」で各種主演男優賞を獲得している。

 ヒロインのブーミー役には、1992年生まれのカールティカ・ナーイル。
 母親は、ケーララ人女優ラーダー(*5)。妹にモデル兼女優のトゥラーシー・ナーイル、叔母にはマラヤーラム、タミル、カンナダ映画界で活躍する女優アンビカーがいる。ムンバイの学校を卒業後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに進学しているとか。
 17才で、09年のテルグ語映画「Josh」のサブヒロインとして映画デビュー。サントーシャム・フィルム新人女優賞を獲得し、以降、11年の「Ko(王)」でタミル語映画に、同年に「Makaramanju(磨羯宮の霧)」でマラヤーラム語映画&主演デビューして、各種新人賞を獲得。本作がカンナダ語映画デビューとなる。

 サブヒロイン(と言うほど出番はないけど)のマドゥ役を演じたミラーナー・ナーガラージは、本作と同年公開作「Nam Duniya Nam Style」で映画デビューした人で、1989年カルナータカ州ハッサン生まれのモデル。
 コンピューターサイエンスを修了し、州代表レベルのの水泳選手でもあったとか。モデル業を初めてミス・カルナータカとミス・ベスト・パーソナリティに優勝して映画界に参入したそうな。

 物語そのものはオリジナルとほぼ一緒で、舞台がカルナータカ州に変わってるくらいだけども、登場シーンでヘリコプターから現れるクリシュ役のダルシャンの絵面だけで「そう来たか!」って感じw (*6)
 画面的には、テルグ版よりは牧歌的な匂いが強いけれど、「それはねーだろ」って派手派手なマンガアクションの数々は負けてないですな。所々、テルグやヒンディー映画界でも見た事のある端役俳優が登場してるのもご愛嬌。
 紆余曲折の末にマドゥ役で出演が決まったと言う新人ミラーナー・ナーガラージは、思ったほど活躍の場が与えられていなかったけども、これからに期待と言う所か。しっかり踊ったりロマンスを振りまいたりはしていたけども、存在感としてはウーム…。

 オリジナル版は、ラストに楽屋オチな豪快な主演Jr. NTRネタで終わってたので、リメイク版はそこがどうなってるんだろうなあ、と思って見てたけども、こちらではよりクリシュナ神話へのオマージュが強く、かつ分かりやすいシーンへと差し替えられていた。そういう意味では、インドの物語文化や表現文化における、クリシュナ神話の影響を見るには格好の素材、かもしれない。


挿入歌 Mirchi Hudugi (スパイシーな彼女)

*特徴的なツインタワーや、踊ってる後ろに「Putrajaya International Convention Centre」ってあるから、マレーシアロケのミュージカル?







「Brindavana」を一言で斬る!
・オリジナルに比べて、アクションやミュージカルや日常ドラマの画面構成的に、人物を一列に舞台的に並べるカットが目立ってたネ。

2013.11.23.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語
*2 南インド カルナータカ州の公用語。
*3 ウッタル・プラデーシュ州に現在も地名として実在してたりします。
*4 クリシュナの聖地ブラジュブーミーがネーミング元?
*5 本名ウダヤー・チャンドリカー・ナーイル。
*6 オリジナルでは、バイクで颯爽と登場するシーンですw