インド映画夜話

Chalte Chalte 2003年 168分
主演 シャー・ルク・カーン(製作も兼任) & ラーニー・ムケルジー
監督/製作/脚本/原案 アジーズ・ミルザー
"真逆の二人。だからこそ、惹かれ合う二人"




 その日、シータルは婚約者ディーパクの旧友たちとの集まりに連れられて来た。
 残る出席者の到着を待つ間、仲間たちはシータルが持参した恋愛小説の話から広がって、仲間内でも語り草になっている小説のような実話"ラージの恋愛譚"を彼女に語り始める…。

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 ラージ・マートゥルはパンジャーブの農家出身。エンジニアを目指して都会に出て、結局小さなトラック運送会社の経営者になっていた自由気ままな青年。
 対するこの物語のヒロインの名前は、プリヤー・チョープラ。ギリシャで生まれ育ったインド人で学校卒業後に叔母とインドへとやって来た、新進気鋭のファッションデザイナー。
 彼女とラージは、友人の結婚式への道中で知り合い、結婚式後にそのままラージは自分のトラックでプリヤーを宿泊先までエスコートして仲良くなって行く。しかし、別れ際にメモした彼女の連絡先を紛失したラージは20日間もプリヤーを探し回るハメになり、ついに見つけた彼女にまたデートしようと申し込むものの、プリヤーは答える…「ごめんなさい。明日は、アテネで幼馴染のサミールとの婚約式があるの。先週決まったのよ」…!!
 これにショックを受けるラージは、すぐにプリヤーと共にアテネへと向かう飛行機に乗り込む決心をするが…!!


挿入歌 Tauba Tumhare Yeh Ishaare (嗚呼! 君の仕草が僕を狂わせる)


 タイトルはヒンディー語(*1)で「歩き続ける間に」。

 シャールク映画の名作「ラジュー出世する(Raju Ban Gaya Gentleman)」「イエス・ボス(Yes Boss)」を手掛けたアジーズ監督作で、その映画で主演を勤めていたシャールク・カーン&ジュヒー・チャウラーが、プロデューサーについている。製作プロダクションは、その2人が立ち上げたドリームズ・アンリミテッド。
 1976年の同名ヒンディー語映画とは別物。

 ま、今となってはベッタベタな、セレブお嬢様とお調子者庶民男とのツンデレど直球恋愛映画で、ヒロインの出身地設定となっているギリシャ(*2)の風景が物珍しいと言っても、前半のロマンスシーン限定って感じのロマンチックさを強調する程度の海外ロケ要素でございましたことよ。
 98年の「何かが起きている(Kuch Kuch Hota Hai…)」でコンビを組んでいた主演のシャールク&ラーニーはもう、脂の乗った自身のスタイルの絶頂期をそつなくアピールするかのようで、その軽やかさがベッタベタロマンスを華麗に彩る気持ち良さ。この辺の息のあった掛け合いの成功具合が、のちの「ヴィールとザーラ(Veer-Zaara)」とか「さよならは言わないで(Kabhi Alvida Naa Kehna)」に続いていったのかなあ…とか深読みしてしまいますことよ。
 ま、本作のシャールクはいつも通りだけど、ラーニーの方はわりとシリアス演技よりもコミカル演技の比重が大きかった気もする。ギリシャ出身のわりにギリシャ語を一言も喋らないまま、ずっと英語エリートアピールしながらインド庶民文化に馴染んでいくお嬢様の爽やかなボケ倒しぶりが、ありきたりではあろうけど可愛いよラーニー!(*3)

 00年代ボリウッドの海外ロケブームに乗ってるように見える本作だけど、話を転がしていくのはそれに対抗するかのような「庶民たちの下町気質」。
 どこまでも軽快な物語展開をする本作において、主人公を取り巻くムンバイ周辺の下町出身の人々の人情による結びつき、セレブたち・西洋的なるものへの対抗心が話を引っ掻き回し、物事を好転もさせて悪化もさせていく。当時の経済成長中のインド社会を反映してか、住む世界の違う主役2人の恋愛模様の変転には常に庶民から見た富裕層への対抗心が見え隠れし、西洋文化に対するインド庶民文化、物質文明に対する人情の価値を強調するものがお話を転がす要素として強調されていく。
 とは言え、全体として話はそんな硬い雰囲気は皆無で、しっかり2つの世界をユーモアや自虐を交えて笑い飛ばしつつ、人と人の結びつきを自然に楽しげに美しく描いていく語り口は心地よい。まあ、ただでさえ長台詞の多いインド映画の中でも、延々と口喧嘩する夫婦の啖呵の応酬は「よくもまあ」みたいに感じてしまいますけれど。
 そういった自虐と対抗心が、恋路の壁として現れる後半の展開はまあ、王道でありつつそう言った下町万歳に対するささやかなフォローの意味もあるんかな…と、これまたいらん深読み。

 そういや、風光明媚なギリシャロケなんか、インド人のギリシャ観光促進の意味合いもあるんだろうけど、そうは言っても劇中の2人がデートするギリシャは遊園地とかリゾート地の海岸沿いとか、いわゆるギリシャ遺跡関係が一切映らなかったのは意図的? インド人的には「ギリシャの遺跡なんて、インドに比べれば古くも珍しくもねーし。興味ないね!」って感じだったとか? アテナ像出すより、女神はラーニー1人で十分でしょ! ってアピールとか? …そうかそれならしょうがない。シャールクファンはもちろん、ラーニーファンも必見の美しさだよ!(贔屓の引き倒し発言)

挿入歌 Suno Na Suno Na (聞いてください [貴方の耳を貸してください])


受賞歴
2004 Bollywood Movie Award 作詞賞(ジャベード・アクタル)
2004 HT Cafe´ Film Awards 主演女優賞(ラーニー・ムケルジー)
2004 Stardust Awards 女優スター・オブ・ジ・イヤー(ラーニー・ムケルジー)
2004 英 Take One Awards 主演女優賞(ラーニー・ムケルジー)


「CC」を一言で斬る!
・ラーニーが口ずさむ"Dagariya Chalo(歩いて行こう)"、微妙に音がズレてる感じ…?(*4)

2022.7.29.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
 その娯楽映画界は、俗にボリウッドと呼ばれる。
*2 アテネとミコノス島ロケ。
*3 ラーニー本人は、本作のオファーが来た時、前年の女優賞獲得作「Saathiya(道連れ)」とあまりにも似た役だったことから一度断ったらしいけど。



*4 シャールクは微妙にテンポが違ってる感じに口ずさんでたから、デモ版から色々いじってたんやろか。