インド映画夜話

チャトラパティ (Chatrapathi) 2005年 159分(165分とも)
主演 プラバース & シュリヤー・サラン
監督/脚本 S・S・ラージャマウリ
"自分のために生きるのは凡人…人々のためにこそ生きるのがチャトラパティだ"


挿入歌 A Vachhi B Pai Valli (AがBに落ちて)

*ふんぐるぐるぐる ふんぐる ふんぐる♪
 インド映画にハマりかけの頃に、よく見てたミュージカルシーンですわ。ワタスは、「バーフバリ」より先にプラバースに出会ってたのか!!


 12年前のスリランカ。
 両親を亡くした少年シヴァ(本名シヴァージー)は、父の愛人だったパールヴァティに引き取られて愛情豊かに育てられるものの、彼女の実の息子アショクはこれが気に入らない。ついに村を戦火が襲った時に、アショクの計略でシヴァ1人が家族と引き離されてしまい、そのまま避難民とともにインドのヴィシャーカパトナム(略称ヴァイザーク)を支配するギャングボス バージー・ラーオに買われてしまう…。

 そして現在。シヴァはバージー・ラーオ率いるギャングの一員としてスリランカ難民たちのチームで裏家業に従事していた。
 難民たちを下に見る地元ギャングたちに苦渋を舐めさせられつつ、故郷で別れたままの義母を探すシヴァは、税務署(?)に捜査を依頼するもなしのつぶて。そんな中、税務署職員の美女ネーヌーと知り合うことでついに義母がインドの住民票を持ってどこかで暮らしている事を突き止める。だが、せっかくの手がかりである義母の写真は、チームの仲間バンドラムの妹を辱めた男に制裁を加えている間にいつの間にか消え去ってしまった…。
 実はその写真は、その時シヴァの制裁を受けていた男…成長して見知らぬ顔になっていたアショクの手の中にあった。「あの人はお前の母親じゃない。俺の…俺だけの母親なんだ…!!」


挿入歌 Gala Gala Gala (ガラ・ガラ・ガラ [ああ、クラクラするアンクレットをつけた美女よ])


 タイトルは、社会改革を起こす主人公のあだ名であり尊称。
 その語義は、かつてマラータ王国で使用された君主号の意(*1)。
 のちに「バーフバリ(Baahubali)」でタッグを組む、ラージャマウリ監督とプラバース主演による、テルグ語(*2)映画。ラージャマウリ監督作としては、4本目となる。
 似たタイトルの、2004年のタミル語(*3)映画「Chatrapathy」とは別物、のはず。

 公開後、同名タミル語吹替版、マラヤーラム語(*4)吹替版「Chandramauli」、ヒンディー語(*5)吹替版「Hukumat Ki Jung」が、06年にはベンガル語(*6)リメイク作「Refugee(難民)」が、13年には同名カンナダ語(*7)リメイク作も公開されている。
 日本では、バーフバリ人気にのって、インド雑貨店はるばる屋さんの呼びかけのもと、2019年に絶版状態だった本国版DVDが予約限定再販されたことがありました。2022年にはJAIHOにて「チャトラパティ」の邦題で配信。

 悪を滅ぼすヒンドゥーの神々や英雄を歌い上げるOPで始まる映画は、スリランカ内戦を逃れた難民たちがインドで陥る苦悩を描きながら、ヒンドゥー神話や歴史上の英雄をモチーフに取り入れつつ、社会悪を挫き離散した家族の再生を盛大に謳いあげる。そのシーンで毎度流れる、祝詞のような挿入歌「Agni Skalana」のカッコよさったらもう…!!

 スリランカ内戦時の被害者たちにテルグ語人がどれくらいいたのかは知らないけれど、シヴァたちはやっぱタミル人たちと同じく政府軍から攻撃されて追い出されたって設定…なのかなあ…(*8)。
 映画本編における主人公シヴァージーと言い、その称号でもあるタイトルネーム"チャトラパティ"と言い、中盤までの悪役バージー・ラーオと言い、ムスリム勢力に対抗してヒンドゥー王朝を確立したマラータの英雄の名前が配置されている所に、ヒンドゥー勝利的なコンセプトが透けて見える、ような感じもしなくもなくもない(*9)。そこに仏教守護の大王アショーカを元にした名前アショクを名乗る弟との対立が絡んでくると言うのが、色々と深読み要素になりそうでニントモカントモ(*10)。

 登場シーンから海中での格闘でサメに勝つプラバースもトンデモね! って感じだけども、その秘めた怒りを爆発させるいつものマサーラーヒーロー像が、順を追ってその強さを見せつけていくので、爽快度もハンパない。前半の、政界とつながるマフィア組織たちの難民や貧困層への抑圧とその打倒は、わりとサクサク話が進んでいくし、後半の、顔の見分けのつかなくなってしまったシヴァ一家の対立と和解も清々しい。搾取される労働者たちの悲哀を描きつつ、その解決方として家族の再生を持ってくるのは定番演出とは言え、やっぱメチャクチャ盛り上がりまっせ。
 それにしても、やはり劇中で描かれる難民たちへの差別・安い労働力としての搾取ってのは、実社会の反映なんでしょか。戦争の悲劇は、戦地よりも遠い場所でも繰り返されるのねって感じがもう…ね。

 地元政界をも味方につけたギャング抗争に立ち向かう主人公たちスリランカ難民、って前半のボリュームだけでも映画1本分できそうな内容なのに、さらにそこから指導者となった主人公の社会改革と生き別れの家族の結合を目指す後半のドラマツルギーのパワフルさ・唸らせるほどに濃い感情表現はもう「我らがチャトラパティ!」と自然と拝してしまいたくなるほどの迫力ですことよ。プラバースが髭を撫でるポーズだけで、もうカッコEEEEEEーーーーーーーー!!!!!!!

挿入歌 Agni Skalana

*ある意味、ネタバレ有り注意。


受賞歴
2005 Nandi Awards 助演女優賞(バーヌプリヤー)・音楽監督賞(M・M・ケーラヴァニ)


「チャトラパティ」を一言で斬る!
・障害物の多い工場の中で、豪快にワイヤーアクションで吹っ飛んでいく人間…大丈夫だったんだろか、色々と…?

2019.9.6.
2022.10.10.追記

戻る

*1 その最初が、マラータ王国初代君主となる"チャトラパティ・シヴァージー"こと、シヴァージー・ボーンスレーである。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*4 南インド ケーララ州の公用語。
*5 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*6 北東インドの西ベンガル州とトリプラ州の公用語。
*7 南インド カルナータカ州の公用語。
*8 スリランカ内戦に関しては、02年のタミル語映画「頬にキス(Kannathil Muthamittal)」や13年のヒンディー語映画「マドラス・カフェ(Madras Cafe)」も参照するとイイヨ!
*9 マラータ最盛期の宰相バージー・ラーオの名前が、悪役に使われているって所もミソだけど。
*10 それとも、それ以外の別の意味も含まれているんかしらん?