インド映画夜話

Chef 2017年 133分
主演 サイーフ・アリー・カーン & パドマプリヤ・ジャーナキーラーマン & スヴァル・カーンブレー
監督/製作/脚本 ラージャ・クリシュナ・メーノーン
"自分の求める匂いを信じて…遠い目的地へ"




 デリーの下町チャンドニー・チョークで育ったローシャン・カルラは、医者やエンジニアになることを望む父親の意に従って勉強漬けの毎日を過ごしていたが、次第に屋台料理に興味を示して通い詰めるようになって父と絶交され、長じてニューヨークの名門店を取り仕切るシェフになった。

 しかし、気難しく厨房スタッフや客とのトラブルも絶えない彼は、ついにオーナーから解雇されてしまい、行き場を失った末に弟子のヴィニーの勧めで別居中の家族と会うため、久しぶりに元妻ラーダ・メーノーンの住むインドはケーララ州コーチ(旧コーチン)に帰ってくる。
 古典舞踏家のラーダと長年ネット通話のみでしか接していない息子アリー(本名アルマーン・カルラ)との再会は幸せに満ち、アルマーンに自分の思い出の味を味わってもらいたいと連れ出した北インド旅行も楽しんだローシャンだったが、ラーダの親友として度々アルマーンの世話をしにやってくる近所の富豪ビジューの存在が、彼と家族との間に不穏な壁を作る。
 ある日、ビジュー邸に呼ばれたローシャンは、数々のクラシックカー・コレクションを披露される中で、庭の隅に打ち捨てられたボロボロの2階建バスを指すビジューに提案される…「これをあなたに提供しますよ。ラーダとも話し合ったんだ…これで新しい移動レストランを開業すれば、息子さんともずっと一緒に暮らせるようになるでしょう?」しかし、てっきりラーダの再婚話を聞かされると思っていたローシャンは「それはシェフの仕事じゃないでしょう」と、彼の提案を一蹴してしまい…。


挿入歌 Shugal Laga Le ([みんな忘れて] 楽しもう)


 「エアリフト(Airlift)」の監督ラージャ・クリシュナ・メーノーンの、4本目の監督作となるヒンディー語(*1)映画。
 2014年のハリウッド映画「シェフ 三ツ星フードトラック始めました(Chef)」の公式リメイク作。

 インド本国と同日公開で、オーストラリア、英国、インドネシア、アイルランド、米国でも公開されたよう。

 仕事漬けの主人公が、職場をクビになった事をきっかけに家族との再会を果たし、家族と過ごす時間を通して新たな人生観を目覚めさせていく……と言う原作映画のプロットを守りつつ、より家族劇要素を強調するインド的アレンジが麗しい1本。
 まあ、原作映画は未見な私ですが、ニューヨークから帰ってきたインド人シェフのケーララ〜デリーまでの旅路、その距離そのものが家族との距離感にも反映されるインド的家族観やインド国内外の文化摩擦が、リメイク作と思えないくらいには物語に同調し、推進していくお洒落映画として構成されていく。
 劇中特に注目されるのは、主人公周りの父子関係のそれで、父親不在の中で育ったアリーとのギクシャクした関係が溶けていく様も王道ながら、料理の道に進んだ事で断絶した主人公ローシャンと父親との関係、料理人としての父親代わりの親方との変わらぬ関係、ニューヨークのお店でともに働いていた弟子たちとの関係も、ローシャンの厳しい父性の相手である点では、等価に描かれるべき対象になっているか。
 お話は、その厳しい父性の扱いに無頓着だったローシャンが起こす家族や知人たちとのすれ違いが、新しい刺激によって軌道修正していく柔らかい父性へと調理されていく様を描く、とも言え…るか?

 とは言え、当初期待したグルメ要素はそこまで注目されず、出てくる料理は美味しそうではあるもののそこまで詳細に描かれてはいない。  映画冒頭でローシャンが務めていたレストランが何料理を売りにしている店なのかもはっきりとは描かれないし、デリーの下町屋台料理で料理を学んだローシャンが、家で一人で料理してるのは洋風料理だし、フードバスで出している印洋ミックスフードも詳しい説明はなし(*2)。インドに戻ってきてインドの味を噛み締め、自分のルーツを確かめる主人公が、インド的な料理法をより深化させてフードバスメニューにしているのは分かるけど、グルメ映画を期待するとあまりそこは描写されないのでガックリはきてしまうか。
 でもまあ、映し出される料理の材料見てるだけでもお腹空いてくるし、味とともに匂いへの言及が多いインドメニューのスパイシーな画面は、それだけでグルメな絵面濃厚でインドの豊かな食文化ズルい。父親の料理している姿を興味深そうに見ているアリー君は素直だなあ…とか、いらんとこまで感心してしまう勢いデスヨ。ガッツリローシャンが料理しているシーンが顔出しで撮られていて、やっつけな感もなかったからには、サイーフ自身もちゃんと料理できる人なんだね!(感心)

 基本、サイーフ演じる主人公ローシャン視点でローシャンを中心に回っていくお話しながら、彼の行動指針となる重要な存在感を映画内で放ち続ける息子アリーを演じているのは、子役として活躍して本作が本格的な映画デビュー作(*3)のスヴァル・カーンブレー。
 マハーラーシュトラ州都ムンバイ生まれで、生活用品輸入業の企業家を父に持つマラータ人。短編映画やTVドラマ出演ののち、本作で知名度を高めて「ガリーボーイ (Gully Boy)」などヒンディー語映画界・TV界で活躍中。

 物腰は柔らかいながら頑固な父親ローシャンの「父親をしなきゃ!」って性急な態度は、子供視点で見ても可愛らしい&ウザいの境界を行ったり来たり。絶妙なバランスで父親失格の線を越えないで踏みとどまる姿も痛々しくも微笑ましい。
 そんな部外者になることを拒否する頑ななローシャンが、当初は否定していたフードバス事業に取り掛かるまでに映画の半分くらいを使って丁寧にその心情の変化、頑固な心根がだんだんと変化して、料理以外の物事も含めて息子を導くより良い父親を目指していく甲斐甲斐しい姿へ変化していく様が美しい。料理という自分の仕事にしか興味を持てなかった主人公が、フードバスと言う新たな仕事の立ち上げ、デリーまでの旅路で出会うさまざまな人を通して、より多重な人間へ立ち返る姿は王道でありつつもなんども見たくなる爽やかな人生像でありますわ。

 過去回想で綴られる、仲のよかった頃の夫婦の姿、現在は離婚したとは言え喧嘩別れとかではないため家族として再結集は可能な関係性も爽やかな人生模様で素敵(*4)。ローシャンの作る料理にまつわる記憶とかもいろいろあったんだろうなあ…とも思えてくるので、その辺ももっと見たかったような。そこまで書くと映画の本筋から遠ざかってしまうからなくてもいいような。むぅ。



挿入歌 Banjara (遊牧民のように)




受賞歴
 


「Chef」を一言で斬る!
・開店祝いの無料提供に対してなんだかんだと難癖つけて長話してくるインド人客。サスガデアリマス。

2026.4.3.

戻る

*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*2 説明しなくても、名前聞けばわかるでしょ?って事ではあるんだろうけど。
*3 時期不明ながら、この前に「School Chalega..!」と言う映画に出演しているらしいけど…同名別人?
*4 とは言え、仕事人間してきたローシャンの反省はあれでいいのかってのはあるかもですが…。