インド映画夜話

きっと、またあえる (Chhichhore) 2019年 143分
主演 スシャント・シン・ラージプート & シャラッダー・カプール他
監督/脚本 ニテーシュ・ティワーリー
"友のためなら、どこにいても駆け付ける"




 帰宅する車の中で、ラジオから流れる懐メロを聞いていたアニルッド・パータク(通称アニ)は、懐かしい大学時代の馬鹿騒ぎを思い返していた…。

 アニの息子ラーガヴは合格発表を待つ受験生。父からのプレッシャーで落ち着かない毎日を過ごしている。そんな息子を精一杯気遣うアニだったが、不合格通知を見たラーガヴは「これで僕は負け犬だ」と絶望し、飛び降り自殺を謀る…!!

 なんとか一命をとりとめたラーガヴだったが、なおも予断を許さない状態。アニの元妻マヤ・シャルマーも駆けつけながら、生きようとする気力のないラーガヴは両親の呼びかけにも応じず昏睡状態のまま。なにかできないかと必死に考えるアニは、「負け犬だ」と叫んでいたという息子の話を聞いて自分の大学時代の思い出を、意識のない息子に語り始める…「負け犬はパパの方だ。でもあの時はたくさんの仲間がいた。みんな負け犬だったんだ…」


プロモ映像 Khairiyat (無事を尋ねてくれ)


 原題は、ヒンディー語(*1)で「未熟な」「生意気な」の意味とか。

 2016年の「ダンガル(Dangal)」の監督ニテーシュ・ティワーリーの、4本目の監督作(*2)。
 インドより一日早くアラブで、インドと同日公開でオーストラリア、カナダ、デンマーク、英国、インドネシア、アイルランド、オランダ、ニュージーランドなどでも公開。日本でも、2020年に一般公開。22年にはU-NEXTで配信された。

 受験に失敗して死を望む息子のために、大学時代の「負け犬」エピソードを語りながらその同窓生たちが集まっていくノスタルジー青春学園ものの一本。
 なんでもニテーシュ・ティワーリー監督自身が体験した大学生活がアイディア元になっているとか。

 愛する息子を支えているつもりでプレッシャーばかりを押し付けていたと嘆く父子。別居状態の夫婦が思い返す出会いの頃。旧友の息子のために仕事を放り投げて集まってくる同窓生たち…。親世代の苦悩と、若かりし大学生時代のバカ騒ぎの日々を交互に映しながら、人生の浮き沈みからの再起を謳う生命賛歌が見事。
 同じような構成の「きっと、うまくいく(3 Idiots)」と比べると、語り口がマイルドというかこなれた感じ(方向性は微妙に違うけど)。「きっと、うまくいく」でも出てきた先輩による新入生いじめ(仮)の様子は、なんとなく「きっと、うまくいく」の本歌取り的な匂いも…する?

 大学時代の話に登場するキャラクター全員がやたら濃いいメンツばっかというのも「よーそこまで考えるな」って感じだけど、監督の体験が元ってことを考えると、アイディア元になるような連中がいたりするのか…とか疑いだすともう、楽しくてしょうがない。
 息子のために父親が思い出を語る体で進む物語のため、基本男子寮で暮らす男子学生(*3)のお話となって女子寮の様子はほぼない映画だけど、ヒロイン マヤの様子を見てるとそっちもそっちで濃そうな日々を過ごしてる感じがするような…。そっちの先輩後輩関係とかがどうなってるのかもなにかの映画で見てみたいもんですわ。先輩の命令なんです、お願いしまっす!

 勉強漬けの毎日を送ってきた受験生が晴れて大学生になってGC(ゼネラル・チャンピオンシップ)にのぞむって話が、どこまでリアルなのかわかんないけど、その撮影のために役者たちがプロ顔負けにトレーニングしたってんだからトンでもね(*4)。
 GCの様子は、高校生たちが競い合う「スチューデント・オブ・ザ・イヤー(Student of the Year)」とノリが似てる感じもするけど、あっちは架空の学内競技会だったんだよ…ね? 本作では、バスケや卓球の他にチェスやキャロム(*5)が入ってるのも注目。それぞれに実力が伴わないところを一計を案じて勝ちにいく姑息さも楽しいながら「大学生活を息子に語るのもそうだけど、受験失敗した人に語ると逆効果じゃん?」とか思ってた懸案が、最後の最後で見事に覆って丸く話が収まるのも素晴らしきかな。「負け犬」がのし上がる努力の姿とともに、「勝ち負け」で終わってしまいがちな世間や物語の型を利用して、なお「負け犬でいいのよ」と笑える大人たちの姿の爽やかさこそ、この映画の真骨頂でありましょうか。そんな大人になってみたい。まあ、実際にいきなり昔の同級生から連絡がきた時は「すわ! ヤバいお誘いか!?」とか疑った事のあるワタスですが(同窓会楽しかったー。また呼んでねー)。

ED Fikar Not (心配するな)


受賞歴
2019 Nickelodeon Kids’ Choice Awards India 注目作品賞・注目主演女優賞(シャラッダー・カプール)
2020 ETC Bollywood Business Awards 100カロールクラブ売上到達賞


「きっと、またあえる」を一言で斬る!
・昏睡状態から目覚めない息子の見舞いにくる母マヤが、時に白系衣装でくるのは病院だからなのか、そういう覚悟をしてるという表現からなのか?

2021.2.12.
2022.5.28.追記

戻る

*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 そして、主演スシャント・シン・ラージプートの生前公開された最後の映画となってしまう…合掌。
*3 に、見えないほど濃いいメンツですけど…。
*4 あと、喫煙者デレク役のタヒール・ラージ・バーシンが非喫煙者だからと、特別にバジル&緑茶製の似非タバコが開発されたって話もトンでもね。
*5 またはカロム。ビリヤードに似た盤上ゲーム。