インド映画夜話

Commando − A One Man Army 2013年 124分
主演 ヴィデゥユト・ジャームワール & ジャイディープ・アーラワット & プージャー・チョープラー
監督 ディリップ・ゴーシュ
"刮目せよ、新たなアクション・ヒーローの到来を"




 パンジャーブ州最北部パタンコート。
 その国境付近で訓練中の空挺特殊部隊員カランヴィール・シン・ドグラ大尉(通称カラン)の乗るヘリコプターが、誤って中国側に墜落。大尉が捕縛されてしまった。
 中国側は彼をスパイ認定して拷問にかけてインドへの交渉材料にしようとするが、インド側は彼の存在そのものを抹消。国家の不利になる材料をなかった事にするよう命令を下していた。「…しかし、彼が何者かお分かりで仰っているのですか? 彼はコマンドー…その身1つで武器も持たずに、軍隊を退かせるよう訓練された特殊部隊の精鋭ですよ!」
 それから1年後。中国の軍事法廷で死刑が宣告されたカランは、護送中に突如逃亡! 森の中へと消えて行った…。

 同じ頃。
 パンジャーブ州とヒマーチャル・プラデーシュ州の州境の街ディラールコートに住む美女シムリット・サランジート・カウルは、周辺地域を支配するギャングボス AK-74(本名アムリット・カンワール・シン)に一方的に言い寄られ、家族に危害を及ぼそうとするギャングから身を守るため、家出を決意する。
 その逃避行中にギャングの追っ手に捕まった彼女は、必死に近くを通りかかった男に助けを求めると……その男は、単身で武器も持たないにもかかわらず、拳銃やナイフで武装する数十人のギャングたちを一網打尽に倒してしまう!!


ED Lutt Jawaan (私は奪われる [貴方の腕で、貴方の道行き上で…])


 タイトルは、1人で軍隊そのものの攻撃力を持つ主人公に与えられた称号。
 1985年のハリウッド映画「コマンドー(Commando)」、1988年のヒンディー語(*1)映画「Commando」他、多数の同名映画があるけれど全て別物、のはず。

 超絶アクション・ヒンディー語映画登場!
 南北インド映画界で活躍する格闘家兼役者のヴィディユト・ジャームワール、フェミナ・ミス・インディア2009を獲得したスーパーモデル プージャー・チョープラー双方の主演デビュー作となる、肉体派アクション映画。
 その人気から、ヴィデゥユト・ジャームワール主演のまま2017年の続編「Commando 2(コマンドー2)」、2019年のシリーズ第3作「Commando 3(コマンドー3)」が公開されている。

 まさに全編、ヴィディユトの肉体美、軽快な身体さばき、タイ映画「マッハ!!!!!!!!」を踏襲するかのような超絶演舞的なアクションに彩られたド直球アクション映画の傑作。「マッハ!!!!!!!!」のトニー・ジャーよろしく本作のアクションも、スタントなしでヴィディユト本人が振付、演技までやってるからトンでもね。
 冒頭25分くらいまでは、状況説明と溜めに溜めたヴィディユト・アクションへの前フリで客を焦らしつつ、そこから一気に爆発する超絶アクションのキレの凄まじさをこれでもかと見せていく絵面は、もうそれだけでお話が単純であればあるほどアクションの美しさが映える満足度うなぎ上りの画面構成。人間、キレの良い超絶身体性を見ていくだけで、ここまで魅せられてしまう動物だったのねえ…とか思えてくるアクション全フリ・ヴィディユトの魅力プロモ映画としての完成度が美しい。
 ま、お話自体は「Okkadu(ヤツが来た)」を下敷きにしてないか、みたいなギャングとの追いかけっこが主体で、お騒がせ饒舌ヒロインと寡黙ヒーローとの珍道中とかもどこかで見たような要素満載でそこまで作り込まれた語り口ではないんだけど、それ故に主演ヴィディユトのスター性に注目が行く構成になってるので、映画としては面白くてしょうがない。スタントマンや悪役俳優として活躍していたヴィディユトの「これからアクション俳優として、どんどこ活躍して行くから見ていってね!」って自信たっぷりな声が聞こえて来そうな画面の圧が凄まじいですよ。マジで。

 そんなヴィディユト・ジャームワール全推し映画の監督を務めたのは、1955年西ベンガル州生まれのディリップ・ゴーシュ。
 FTII(インド映画&TV研究所)の大学院監督&脚本コースを修了し、学生時代からカルト的人気を得ていたにも関わらず商業映画界には行かず、広告界へ入って自身の映像プロダクション"エクィノックス""Zフィルムズ"などを立ち上げながら、ドキュメンタリーやCMを製作する道を選択。インド広告界における、現地語採用、ローカライゼーションを推進した人物として広く知られている他、世界的にも他に類を見ない「子役業界」をテーマにしたドキュメンタリー「Aadhi Haqeeqat, Aadha Fasana / 英題 Children of the Silver Screen(銀幕の子供たち / 1990年公開作)」でナショナル・フィルムアワード特別賞他多数の国際映画賞を獲得している。
 本作で、娯楽映画監督デビューして大きく注目されたのち、再び広告映像製作で活躍しているよう。

 本作ヒロイン シムリットを演じたのは、1986年西ベンガル州都カルカッタ(現コルカタ)生まれのプージャー・チョープラー。
 男児を欲しがった父親に孤児院に連れていかれそうになったことから、母親ニーラ・チョープラーが姉シュブラと共に家から連れ出し、ボンベイ(現ムンバイ)で母と姉の3人家族で育ったと言う。
 2009年フェミナ・ミス・インディア・イースト他で優勝してスーパーモデルとして活躍。同年のミス・ワールドにインド代表として出場中、足首を捻挫して3週間の絶対安静と診断されながら、それでも大会出場を続けて16人のファイナリストにまで残り続けた。大会では、彼女の慈善活動が賞賛され「目的を持った美」賞を獲得。その賞金を、貧困層の女児支援NGO活動に寄付している。
 モデル業での活躍から、2008年のヒンディー語映画「Fashion(ファッション)」でファッションモデル役で特別出演。その後、2011年のタミル語(*2)映画「Ponnar Shankar(ポーナルとシャンカル兄弟)」から本格的に女優デビュー。翌2012年のヒンディー語映画「Heroine(ヒロイン)」の特別出演、英語ドキュメンタリー映画「The World Before Her(ザ・ワールド・ビフォア・ハー)」の出演を挟んで、2013年の本作で主演デビュー。その後も、断続的ながらヒンディー語映画界で活躍中。2018年には、アクシャイ・クマールと共に子供支援活動「ハッピー・ハート・インディア」キャンペーンを立ち上げるなど、複数の慈善活動を主導。2020年の「Poison 2(プリズン2)」からはWeb配信シリーズにも出演していっている。

 本作悪役AK-74を演じたジャイディープ・アーラワットは、1978年(1980年とも)ハリヤーナー州ロータク県カルカラ生まれ。
 地元の大学で英語の修士号を取得後、FTIIで演技を習得。ラージクマール・ラーオなどの同級生になる。元々は軍人志望だったそうだけど面接で落選が続き、劇団に参加していた経験から俳優の道に転向したとか。
 特に映画界へのコネがない中、苦労して仕事を探して短編映画出演を挟んでヒンディー語映画「Khatta Meetha(酸いも甘いも)」にノンクレジット出演して長編映画デビュー。2012年の出演作「血の抗争(Gangs of Wasseypur)」前後篇の大ヒットで知名度を広げ、主にヒンディー語映画界で活躍中。本作で、複数の映画賞から悪役賞ノミネートされ、本作と同年公開作「Vishwaroop(世界の形)」の同時製作タミル語版「Vishwaroopam(世界の形)」でタミル語映画デビューもしている。
 2012年の「Upnishad Ganga」からはTVシリーズにも出演。2023年のWeb配信主演作「Jaane Jaan(愛する人)」でフィルムフェアOTT批評家選出ネット・オリジナル映画主演男優賞を獲得した他、以降の出演作でも映画賞・TV賞を贈られている。

 サングラスを外すと瞳孔のない白目の悪役という点も「マッハ!!!!!!!」からのオマージュを感じさせる部分(*3)で、アクションの振付にも多大な影響を見せつけてくるものの、筋肉ムキムキのマッチョマン軍人の主人公の動きは、トニー・ジャーのそれとはやはり違うインド的格闘ヒーロー像の姿。それでもしなやか& 柔軟なキレを見せつけるヴィデゥユト・ジャームワールの動きは、それはそれで人間離れしたインパクトを見せつける。あんな重々しい身体つきで、よくもまああんなに俊敏に動きますわ。ブルース・リーが開拓した身体を張りまくったスタントなしのアジアン・アクションの1ページに、ヴィデゥユト・ジャームワールの名前もしっかりと刻んどかないと映画史を語れなくなりそうな存在感を放つ1本でありますよ! 必見!!



挿入歌 Lena Dena (与えるのか与えられるのか)




 


「Commando」を一言で斬る!
・カランが釣ってきた魚を、生で食べることになって一瞬躊躇するお嬢様シムリット。まあ、川魚だしなあ…(あとが怖い!)。

2025.9.26.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある。
*3 その異形さが、自分に微笑みかけるヒロインを幻視する演出につながっていく、って所がインド的?