インド映画夜話

Dhan Dhana Dhan Goal 2007年 167分
主演 ジョン・エイブラハム & アルシャード・ワールシィ & ビパーシャ・バス
監督 ヴィヴェーク・アグニホートリ
"立ち上がれ、フットボーラーたち!!"






 サッカーの母国イギリス。645ものサッカー・クラブの中にあって、万年最下位を独走する南アジア人街サウスオール(ロンドン西部に実在する地区)のクラブチーム"サウスオール・ユナイテッド・フットボール・クラブ(=サウスオールFC)"は、存続の危機に立たされていた。

 その日、市議会から「ホームの300万ポンドでの売却」と「代わりの娯楽施設建設案」が提案され「次のチャンピオンズシップに優勝できれば、その賞金で売却案を却下できるだろう」と告知されてしまう! そのミーティング後すぐに監督が急死してしまい、彼の甥に当たるチームキャプテン シャーン・アリ・カーンは途方に暮れながらも、かつてサウスオールFCをチャンピオンズシップ決勝まで導いた選手…トニー・シンを探し出し監督就任を願い出る。さらに従姉妹の医師の卵ルマーナーをチームドクターに迎え、なんとかクラブを再生しようとするが…チームの士気は低く、皆が皆バラバラだった。

 ルマーナーは、チームのストライカー不足を補うべく、強豪アストンFC所属のインド系選手サニー・バシーンを引き抜こうとするも、彼は「オレはイギリス人だ」と拒絶。インド系ではなく英国人としての自負を持つサニーは、アストンでの出場選手入りを目指すも、チームは彼を同国人メンバーと認めようとしない。その仕打ちに落ち込む彼をサウスオールFCに迎える事に成功したトニーだったが、彼の登場は南アジア人チーム内に新たな火種を放り込む事に。はたして、サウスオールFCの運命は…。


サニーのボールパフォーマンス

*ボールを追っているカメラがジョンの顔を写して「スタントがやってると思った? ジョンでしたーww」ってドヤ顔してそうなカット割りがニクいw


  タイトルは「ゴールを決めろ」。劇中、サウスオールFCメンバーが試合開始前に歌う歌の歌詞としても使われている。公開直前まで、タイトルは「Goal」だったらしい(*1)。
 インドでは珍しいサッカー映画で、そこそこヒットしたらしいけど、クリケット映画の大傑作「行け行けインディア!(Chak De! India)」の大ヒットの直後に公開されたため、話題をあっちにかっさらわれたそうな…。監督曰く続編の構想ありだそうだけど、現在に至るもアナウンスなし。
 「行け行けインディア!」を見た時に、弟から「インド映画にもスポーツ物ってあるんだねぇ。サッカー映画はないの? 日本だとそっちの方がウケそう」と言われて探してた時に紹介頂いた一本。

 私生活でも当時恋人同士だったジョン&ビパーシャが、劇中でもロマンスシーンのあるサニー・バシーン&ルマーナーとして出演している所も要チェック(キスシーンもあるよ)! アストンのサニーをチームに迎えようと提案するルマーナーに、トニーが「彼は君の恋人かい?」と聞いて「まさか」と言わせてる所がニクいよ、このぅ。
 監督は、広告界出身でいくつもの広告賞受賞歴のあるヴィヴェーク・アグニホートリ。娯楽映画では、2005年にアルシャード・ワールシィを主役に据えた「Chocolate」で監督デビューして、本作が2本目の監督作となる。
 台詞担当として、アヌラーグ・カシャプも参加している他、音楽をプリタム、サッカー指導にはイギリス人サッカー選手兼役者のアンディ・アンサー(*2)が就任している。
 撮影の多くは、ロンドンのサザーク・ロンドン特別区バーモンジーを拠点とする、ミルウォールFCホームで行なわれたそうな(*3)。劇中登場するマンチェスター・ユナイテッドFCのホームスタジアム、オールド・トラッフォードも本物!!

 お話的には、ダメチームが存続の危機に立たされて始めて一致団結して行くよくある成長物語りながら、中心となるテーマは「ホームグラウンドのある地域社会との結びつき」と「英国にあっての、南アジア人としてのアイデンティティの確立」。
 傑作「ラガーン」を見習うまでもなく、スポーツもの映画が、あるコミュニティ内の結束力をテーマに据えるのは自然ではあるけど、それをサッカークラブの地域社会振興とクロスオーバーさせる所は「ウマい!」と拍手。
 それぞれ主役級の3人(シャーン、トニー、サニー)の抱えるアイデンティティと地元愛がシンクロして映画の柱になってるのは見事であるし、そのためのロンドンの地元密着型マイナーリーグが舞台になってる部分なんかは、よく考えられた構成よな…って感じ。

 ま、そう言ったテーマありきで作ってるせいか、登場人物それぞれのキャラ造形を追うヒマがなくなっているのは惜しい。
 シャーンの抱える、100年の歴史のあるクラブとホームグラウンドへの愛着と、妻や友人との家族の絆や英国人への反発。
 トニーの抱える、過去の栄光故に起きてしまった痛恨の事件と、サポーターたちとの軋轢のトラウマ。
 サニーの抱える、英国生まれのインド系という自身のアイデンティティを巡る苦悩と、目の前で繰り広げられる人種・コミュニティ間の差別意識への対抗心。
 3人それぞれの地域社会への関わりが主軸になって動いて行く話に、ダメチームの更正物語・男女のロマンス・各クラブや登場人物たちのチャンピオンズシップを巡る駆け引きなんかが上乗せされて行く感じ。1つ1つは面白いんだけど、それを深く追究する時間がないまま話が進んじゃうのは、もったいなかったなぁ…と。

 特筆すべきは、サッカー選手にしては年を食い過ぎてる(…ように見える)キャストの皆様が、実際に試合し自分でボールコントロールしてるってことで。メイキングで、サウスオールFCのみんなでリフティングしてたり、ボーマンがボールコントロールで遊んでたりと、皆さんきっちりサッカーを楽しみながら撮影してるのがスゲェ。役者ってスゲェ。
 特に、この頃すでにマッチョ化進行中のジョンは、ユニフォーム着てると筋肉がそんなに目立たず、よりその筋肉で本物のサッカー選手に見えてくる不思議。身長と筋肉のわりに童顔ぽいので、年齢不詳に見える所も"らしい"ポイント(君、ロナウドを意識しとるだろ?)。


挿入歌 Hey Dude Don't Mess







「DDDG」を一言で斬る!
・試合直前のメンバー追加って出来るんだっけ?

2014.5.31.

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*1 だからポスターなどのタイトルロゴは、"Goal"の上に申し訳程度に"Dhan Dhana Dhan"と入れてあったりするの?
*2 ロンドン出身のミッドフィルダー。過去サウスエンド・ユナイテッドFCなど12チームに在籍。
 サッカー振付師としても活躍していて、2010年のFIFAワールドカップ・南アフリカ大会でも祝賀ムービーの振付を担当している。
*3 撮影中に、アビシェークとアイシュワリヤーがサプライズ登場したとかなんとか。