インド映画夜話

ダンガル きっとつよくなる (Dangal) 2016年 140分(オリジナルは161分)
主演 アーミル・カーン(製作も兼任) & ファーティマー・サナー・シャイク
監督/脚本 ニテーシュ・ティワーリー
"銀メダルで終われば、お前は早晩忘れられるだろう"
"だが、金メダルを獲ったなら…お前は目標になる"
"これからの子供たちの目標に、多くの女子たちを勝利を導くことになるんだ"




 私の伯父マハヴィール・シン・プーガットは、かつてレスリング国内大会の優勝者だった。
 しかし生活のためにアスリートになる道を諦め、生まれ育ったハリヤーナー州バラリ村の会社員として生きて来た彼は、生まれて来るであろう息子を一流のレスラーに育て上げてメダリストにすることを夢見ていた。だが、生まれて来た4人の子供はことごとく女の子だったことから、ついに伯父は夢までも諦めてしまう…。

 その数年後。伯父の上の娘ギーターとバビーターが、近所の男の子たちと喧嘩して相手を叩きのめしたと知って、伯父は捨て去った夢が再び湧き上がって来るのを感じたのだ。そんな伯父に、伯母さんは言ったそうだ…。
「レスリングは男がするものよ。女のレスラーなんて聞いたこともない。貴方の情熱のために、娘の人生を台無しにしないで」
「1年だけやらせてくれ。1年だけ、君の願いを忘れてほしい。もしそれで結果が出なければ、その時は僕が夢を忘れるから…永遠に」


挿入歌 Haanikaarak Bapu Full ver. ([パパは] 私たちを傷つけているのよ)


 タイトルは、インドにおける「レスリング競技」のローカルネーム…らしい。
 実在の女子レスリング・コーチの実話を元にした、アーミル・カーン主演のヒンディー語(*1)伝記映画大作。
 製作は、ウォルト・ディズニー・プロダクション、アーミル・カーン・プロダクション、UTVモーション・ピクチャーズの共同。

 インドを初め世界中で公開され大ヒット。インドでは初の売り上げ1000カロール・クラブ(*2)入りを果たし、外国では特に中国で口コミから人気が広がり、それまでの中国における外国映画売上記録を塗り替える大ヒットを飛ばす快挙を達成。日本でも一部で報道されて話題になっておりました。
 これに続いて、日本では2018年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭で上映され、同年4月に一般公開!

 女子ボクシングをテーマにしたプリヤンカ主演作「メアリー・コム(Mary Kom)」、クシュティー(*3)やレスリングをモチーフにしたサルマーン主演作「スルターン (Sultan)」と、ここ数年スポーツもの映画のヒット作が生まれているボリウッドに、ついに"ミスター・パーフェクト"ことアーミル・カーン主演のレスリング映画が登場!
 しかも実話が元と聞いたら、いやが上にも期待は高まるわけですが、その期待を軽々と飛び越えて飛翔しきってくれる傑作映画でありました(*4)。

 物語は、実在の女子レスラーの生い立ちを追いながら、親子・夫婦間の葛藤と相克、インドスポーツ界の様々な問題とその克服、女性の自立と社会参加を促しながら、過度に説教じみたものになるわけでもなく、それぞれの登場人物たちの織りなす情感の響きあい具合が美しくポジティブな、生命力溢れる人間賛歌となっていてスンバらしく爽快。まさに、映画史に名を刻むにふさわしい大作でありますわ!

 監督&脚本を務めたニテーシュ・ティワーリーは、マディヤ・プラデーシュ州ホーシャンガーバード県イタルシのブラーミン家系生まれ。
 治金学と材料工学の学士号を取得して、米国系大手広告会社レオ・バーネット・カンパニーのクリエイティブ・ディレクターとして働いた後、映画界に入る。
 2011年のヒンディー語映画「Chillar Party」で、ヴィカス・バールと共同で監督&脚本デビューし(*5)、ナショナル・フィルム・アワード子供映画賞を獲得。脚本家として活躍しながら、14年の「Bhoothnath Returns(亡霊王リターンズ)」を挟んで本作で3本目の監督作となる。
 同年公開の妻アシュウィニー・アイヤル・ティワーリー監督デビュー作「ニュークラスメイト(Nil Battey Sannata)」では、プロデューサー&作詞&原案&脚本&台詞を担当していたりする。

 アーミル演じるマハヴィールとともに、本作の主人公的存在となるギーターを演じたのは、1992年アーンドラ・プラデーシュ州ハイデラバード(*6)生まれでムンバイ育ちのファーティマー・サナー・シャイク(愛称サナー、またはファティ)。ジャンムー出身のヒンドゥー教徒の父親と、シュリーナガル出身のイスラム教徒の母親を持つ。
 97年の「Ishq(愛)」「Chachi 420(嘘つきおばさん)」で子役として映画デビュー。01年の「One 2 Ka 4(時に2が4にも)」から女優活動を本格化し、日本上映作「タハーン(Tahaan)」にも出演していたものの、3年間まともな仕事のオファーがなくなって女優活動を止めようとしていた時に本作に抜擢され、一躍時の人となったそう。

 ギーターの少女時代を演じたのは、2000年ジャンムー・カシミール州シュリーナガルに生まれたザイラー・ワシーム。父親はエグゼクティブマネージャーを、母親は教師をしているそう。
 TVCM出演を経て、本作で映画デビューしてナショナル・フィルム・アワード助演女優賞ほか多数の映画賞を獲得。続くアーミル・カーン・プロダクション製作の「Secret Superstar(シークレット・スーパースター)」に主演し一躍人気女優へと駆け上がっていった。
 本作撮影中、役のために短髪になった写真が出回ると「非イスラム的な姿」だとされて過激派から攻撃され大きな論争を巻き起こすことになったそう。彼女自身の命の危険も懸念される中、著名人たちが彼女を擁護する声明を発表して様々な議論の的にされ続けたとか。

 姉妹の従兄オームカルを演じたのは、男優アーユシュマーン・クラーナーの弟アパルシャクティ・クラーナー。やはり本作が映画デビューとなる。
 少年時代のオームカルを演じていたのは、日本公開作「フェラーリの運ぶ夢(Ferrari Ki Sawaari)」で映画デビューしていたリトウィク・サホーレ。「フェラーリ」の時と顔のイメージは変わらないのに、大きくなりましたなあ…。

 劇中なんども登場するクシュティーやレスリングの試合は、しっかりと戦略から駆け引きから試合上・物語上の意味合いまで描かれていって、ギーターの成長と逡巡、父娘の関係性の変化、女性レスラーの生き様によって変わっていくインド社会そのものをも表現していく映像効果としても機能していて秀逸。
 劇中なんどもマハヴィール一家に立ちはだかる、世間のスポーツに対する無理解、女性の社会進出に対する無理解が、ギーターとバビーターのレスラーとしての成長によって徐々に変化して行く様は本当に小気味好い。農村の保守的な地域はおろか、最先端のスポーツ理論を集めるはずのNSA(国立スポーツ協会)の人々も無自覚に持っている様々な偏見を打破して行く家族の姿が、実話が元ってんだからもう!
 そうした社会派なテーマと並行して、見てる側の感情移入を一層掻き立てるのが、何度も起こる父娘の対立と和解、その双方の成長劇と信頼で、レスリング馬鹿な家族によるスパルタ教育の一家がどこにでもいる鑑賞側の家族像とダブるように作られているツボを押さえた家族劇もスバラしい。状況によって変わる父親との距離感、姉妹で対照的な父親との関わり方…親子対立が最高潮に達する時にぶん投げられるギーターの思い切りの良さったら…(*7)。
 まあ、その起承転結があまりにロジカルすぎて、構成の完全さに遊びがない生真面目な映画と言えなくもないけれど(*8)。その無駄を削ぎ落とした構成の中で、特に光るのがそれぞれの出演者たちの楽しそうに役を演じる気迫というかパワー。それぞれの登場人物たちの情感の交錯する様を、これでもかと演じる役者根性の多彩さが、見ていてとても爽快に映る大きな要因かもしれませんな。

 なにはともかく、終始厳しい顔してるアーミルもそうだけど姉妹の気合を込めた野心の眼差しが、各シーンに応じて微妙に強弱があるよう見えてくるの所が、ニクいねえ…。

プロモ映像 Dangal (レスラーよ)


受賞歴
2017 Filmfare Awards 作品賞・監督賞・主演男優賞(アーミル・カーン)・アクション賞(シャヤム・カウシャル)
2017 News 18 Movie Awards 作品賞・主演男優賞(アーミル・カーン)・監督賞・助演女優賞(ザイラー・ワシーム)・女優デビュー賞(ファーティマー・サナー・シャイク)
2017 National Film Awards 助演女優賞(ザイラー・ワーシム)
2017 豪 Indian Film Festival of Melbourne テルストラTV人気(高収益)賞(【バーフバリ2】とともに)
2017 Zee Cine Awards 視聴者選出作品賞
2017 National Child Awards 優秀業績賞(ザイラー・ワシーム / 【Secret Superstar】も含む)
2017 Star Screen Awards 作品賞・監督賞・BGM賞(プリタム)・音楽監督賞(プリタム)・作詞賞(アミターブ・バッタチャルヤー)・編集賞(バルー・サルージャ)・子役賞(スハーニー・バートナーガル)・アクション監督賞(シャーム・カウシャル)・最優秀新人男優賞(アパルシャクティ・クラーナー)・脚本賞(ニテーシュ・ティワーリー & シュレーヤス・ジャイン)・スター・プラス・ナィ・ソチ賞・最優秀新人女優賞(ザイラー・ワシーム / 【Secret Superstar】も含む)
2017 豪 AACTA(Australian Academy of Cinema and Television Arts) Awards アジア映画賞
2017 中 Douban Film Awards 外国映画賞・外国映画男優賞(アーミル・カーン)・月間作品賞

2017 Mirchi Music Awards 女性歌手・オブ・ジ・イヤー賞(ジョニーター・ガンディー / Gilehriyaan)・新人男性歌手・オブ・ジ・イヤー賞(サルワール・カーン & サルターズ・カーン・バルナ / Haanikaarak Bapu)・リスナー選出アルバム・オブ・ジ・イヤー賞


「ダンガル」を一言で斬る!
・スポーツものになると、この思い切りのいい愛国精神の発露を見せるのがインド映画のいいところだけど、日本では真似もできないんだろうなあ…と。

2018.4.6.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。その娯楽映画会を、俗にボリウッドと言う。
*2 1カロール=1千万。つまり100億ルピー以上の売上を記録した映画群の意。
*3 インドを始め南アジアの相撲型格闘技。
*4 この映画を見たサルマン・カーンは、自身の「スルターン」よりも優れた映画だと称賛したと言う…ホントか!!??
*5 さらに原案&台詞も担当。
*6 現在は、テランガーナー州内の都市で、アーンドラ&テランガーナー両州の共同州都。
*7 何テイクやって、どんくらいダメージ受けたのやら。
*8 笑えるユーモアもバシバシ入るけど。