インド映画夜話

デリー・ゲリー (Delhi Belly) 2011年 103分
主演 イムラーン・カーン & クナール・ローイ・カプール & ヴィール・ダース
監督 アビナイ・デーオ
"ゲロッちまえ"




 その日、デリー空港にて、友人の頼みでロシア人客から荷物を預かった客室乗務員ソニア・メヘラーは、迫る結婚式準備を理由に、中身もよく知らない荷物の配送を彼氏のジャーナリスト タシ・ドルジー・ラートーに丸投げする。

 タシはタシで、仕事仲間の編集者メーナカー・ヴァシシュトからの仕事依頼を理由に同居人のカメラマン ニティン・ベリーにその任を預け、ニティンは丁度腹を下した事で、荷物をさらなる同居人のイラストレーター アループに預けるとともに、自分の便検査を頼む。仕方なくアループは、荷物の送り先の手工芸店と病院を回ることになるが、つい2つの荷物を間違えて置いてってしまったから…!!


プロモ映像 Bhaag D.K. Bose (逃げろ、D・K・ボース)

*UKロックあたりのトリビュート臭い映像も合わせて、サイコー!


 原題の意味は、英語でそのまま「デリー腹」。外国人旅行者が、デリーに降り立った数日後に発症すると言われる強烈な下痢症状のこと。
 一般に「旅行者下痢」とか「渡航者下痢」とも言われる、水や食物摂取による食あたりのインド版ではあるけれど、インドではかなりの確率で外国人が苦しめられる病気ということで有名な現象でもある。劇中では、外国人ではなく生粋のデリー人ニティンが、終始このデリー腹に苦しめられている。

 UTVモーション・ピクチャーズとアーミル・カーン・プロダクションズ製作になる、ブラックコメディ英語+一部ヒンディー語(*1)映画。
 同時公開で全編ヒンディー語吹替版も公開。のちにタミル語(*2)リメイク作「Settai(悪戯)」も公開された。諸外国ではインド本国より1日早くクウェートで、インドと同日公開でフランス、英国、アイルランド、米国などでも公開。ネパールでは、一度政府命令で公開禁止措置がとられたものの、後に一部カットされたバージョンでの劇場公開となったそう。
 日本では、2018年(17年?)にNetflixにて日本語字幕版が配信。

 なんと言うか、全編に渡って気だるい空気に満ちたトボけた映画ながら、その語り口のテンポの良さ、そこここに取り入れられた毒のあるシークエンスと相まって、ハリウッド的な空気とインド的な雰囲気が奇妙に融合する妙にインパクトの強い映画になっている。
 タイトルから想像される、排泄物ネタもそこここに登場するのが注意点ながら、思ったよりはそっち系ネタばかりと言うことでもなかった(*3)。まあ、主人公たち男3人が同居する安アパートの汚さは、そんな雰囲気を助長させてはいましたけども。

 元々、ロサンゼルスで活動していたインド人脚本家アクシャト・ヴェルマーが書き上げた脚本を方々に売り込んだ挙句に、偶然アーミル・カーン・プロダクションで企画として取り上げられたことで始まったと言う本作は(ホンマ?)、そんな経緯故にか、英語映画+客層の絞り込み故にか、下ネタ系も含めてわりと映倫に引っかかりかねないネタをぶっ込みつつ「プププ」と笑えるシーンに仕立ててくる映画になっている。デリーを舞台にした「ザ・インド」の雰囲気を前面に出しつつ、軽快でブラックで人を食ったような小洒落た語り口が小気味良い一本。

 主人公タシを演じるイムラーン・カーンは、本作プロデューサーを務めるアーミル・カーンの甥で、本作と同じ年には「Mere Brother Ki Dulhan(我が弟の結婚式)」でも主演している。
 タシの親友ニティン・ベリー役には、映画一族ローイ・カプール家出身のクナール・ローイ・カプール。日本公開・上映作では、この2年後に「茶番野郎(Nautanki Saala)」で主役級、「若さは向こう見ず(Yeh Jawaani Hai Deewani)」でも脇役で出演している。
 もう1人の同居人アループを演じるのは、13年公開作「インド・オブ・ザ・デッド(Go Goa Gone)」でも主役級で出演しているヴィール・ダース。本作出演には、9回ものオーディションが費やされたそうな。劇中、アループが失恋をきっかけに丸坊主になっているのは、プロデューサーのアーミルの経験談がネタ元と言う。

 実質ヒロインの位置にいる、タシの仕事仲間メーナカーを演じるのは、チュニジアはチュニス生まれの女優ポールナー・ジャガンナータン。
 インド外交官の父について、パキスタン、インド、アイルランド、ブラジル、アルゼンチンで生活してその国の言語を習得。ブラジルと米国の大学でジャーナリズムを修了しながら、NYのアクターズ・スタジオで演技を学ぶ。04年に、米国TVシリーズ「ロー&オーダー(Law & Order)」で女優デビューし、同年公開のハリウッド映画「セレブの種(She Hate Me)」に端役出演して映画デビュー。本作でインド映画&主役級デビューとなる。
 本作公開の翌年に起こった2012年インド集団強姦事件に対し、これを題材とした舞台演劇「Nirbhaya(*4)」を企画制作して13年のエジンバラフリンジフェスティバルにて上演。大きな反響を呼び多数の演劇賞を獲得。インドを含む世界各国で上演されることになる。
 以降、米国TVドラマを中心に活躍。米印それぞれのファッション誌他で「インドを代表する女性」の1人として選出されていたりする。

 トボけた物語を彩る、ラーム・サンパート作のさまざまな様式の音楽も要チェック。時にジャズっぽく、UKロックっぽく、ブルースっぽい音楽の越境具合が、物語の悪ノリ度も跳ねあげているようで、密輸品をめぐるドタバタをコミカルに、アイロニカルに、気だるく盛り上げてくれる。マフィアたちの尋問を受けている時に合わせるように、上階のインド古典音楽が意味ありげに流れてくる所もナイス。

ED I Hate You (Like I Love You)

*このシーンにだけ、プロデューサーを務めるアーミル・カーンがゲスト出演!(なにやってんすか、貴方w)


受賞歴
2012 Filmfare Awards 脚本賞(アクシャト・ヴェルマー)・編集賞(フゼファ・ローカンドワーラー)・デザイン賞(シャーシャンク・テーレー)
2012 Colors Screen Awards 脚本賞(アクシャト・ヴェルマー)・原案賞(アクシャト・ヴェルマー)・編集賞(フゼファ・ローカンドワーラー)・デザイン賞(シャーシャンク・テーレー)
2012 Mirchi Music Awards BGM・オブ・ジ・イヤー賞(ラーム・サンパート)


「デリー・ベリー」を一言で斬る!
・尻にダイナマイト突っ込まれて、よく知らない相手の電話番号を教えろって脅されたら、ワタスだったら思い出せる自信ないですわ〜(数字に弱い人発言)。

2019.2.9.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 「トレインスポッティング」並みに来るかなあ、とか思ってたもんで。
*4 報道時に犠牲者に与えられた仮名。"勇敢"の意。