インド映画夜話

デーヴァラ (Devara: Part 1) 2024年 178分
主演 NTR(N・T・ラーマ・ラオ) & サイーフ・アリー・カーン &ジャーンヴィー・カプール
監督/脚本 コラターラ・シヴァ
"熱い海鳴りに、魂が沸騰する"




 時に1996年。
 インドにてクリケットW杯開催が迫る中、大規模な武器密輸組織によるテロの気配を察知した警察は、その首謀者ダヤとヤティの消息を追って、密輸組織が潜伏すると言う州境沿いの"赤海の4村"捜査を開始。しかし、捜査指揮官シヴァムはそこで、海底に眠る無数の人骨…"海の恐怖"に出くわすことになる…。
 村の長老シンガッパは、恐れおののくシヴァムを前に、村はすでに密輸業から手を引いていること、かつて海を赤く染めた王国の末裔が如何にして密輸業の戦いを止めるに至ったかを、語って聞かせるのだったー
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 遡ること12年前。
 昔から王国を侵入者から守ってきたかつての戦士たちの子孫は、植民地時代には白人たちの船を奪って自主独立集団を維持し、インド独立以後その力を密輸業に使って貧しい漁村を支えていた。ヤティの片腕である密輸業者ムルガの依頼を受けて、4村の村長に率いられた男たちは、港に下ろす事のできない違法貨物を密かに奪取していく。偉大なる祖先の力を強盗のようなことに使っていることを恥じる村長の1人デーヴァラは、村人全員から敬われながら、仕事内容を村の子供達には語らぬままでいた。彼は、戦いだけを生活とする村人の生活を改善しようと内外に呼びかける人物だったが、ある日、自分が海を赤く染める夢を見て動揺する…「気をつけよ。もう吉日はないぞ息子よ。仲間の中に裏切り者がいる。よく目を光らせて備えよ…」

 その日、村人を送り出すバスが突如テロリストたちに襲撃され、無数の死者が村へ運ばれてきた。
 それでも続く密輸仕事の中、ついに沿岸警備隊に逮捕されたデーヴァラたちは、自分たちが奪取した違法武器がテロリストの手に渡ってバス襲撃事件を起こし、村の若者たちを殺していたことを知らされる。衝撃を受けるデーヴァラは、警備隊員たちを始末して逃亡しようとする仲間たちが戦いを始める中、ただ一人黙して動かず。…ついに、仲間たちを攻撃して武器を手放させ、警備隊員たちを救出しようと動き出したのだ…!!


挿入歌 Ayudha Pooja ([声をあげよ] 今日は武器祭礼だ)


 タイトルは、主人公の名前。その語義は、「神様」とか「我が主」みたいな意味だそう。
 ヒットメーカー コラターラ・シヴァ監督による6本目の監督作海洋アクション・テルグ語(*1)映画2部作の第1作。
 ラトビアにてプレミア上映されてから世界中で公開される中、日本では2025年に一般公開。

 インド映画では比較的珍しい(*2)ド派手な海洋アクション大作で、海賊行為で生計を立てている荒くれ者たちの中から、その暴力の連鎖を断ち切る英雄が誕生していく過程をじっっっっくり描いていく一大絵巻。
 テルグ語映画界が得意とする漫画的なドラマチックフレームの数々で登場人物たちをカッコ良く切り取る画面の圧の半端ない強さはいつも通り。海洋アクション全振り映画でもあるため、大量の水を用意した海上・海中での演技は準備から撮影から大変だったんだろうなあ…とその苦労がしのばれる画面の密度でありましたけど、忍者よろしく黒づくめの衣装で貨物船に乗り込んでいく赤海の海賊たちの集団のパワフルさ、その隠密行動になってるのか? と思わないでもない派手な貨物奪取、筋肉質な身体を見せつけるようなNTRとサイーフ演じる主人公デーヴァラとバイラ(*3)とのライバル関係の見せ方そのものも伏線となって後半の展開に生きてくる映画構成は、これぞコラターラ・シヴァ監督作とも言えるインパクトを生み出してくる。

 後半、世代交代した息子世代の物語でヒロイン タンガムを演じることになるジャーンヴィー・カプール(*4)は、1997年マハーラーシュトラ州都ムンバイ生まれ。
 父親は映画プロデューサーのボニー・カプール。母親はインドを代表する大女優シュリーデーヴィー。妹のクシ・カプール、異母兄アルジュン・カプールも映画俳優である映画一族カプール家の一員(*5)。
 米国のリー・ストラスバーグ演劇&映画研究所で演技を学び、2018年のヒンディー語(*6)映画「Dhadak(鼓動 / *7)」で映画&主演デビュー。賛否両論を受けつつもZeeシャイン新人女優賞他を受賞する。以降、浮き沈みを経験しながらヒンディー語映画界で活躍。いくつかの映画賞を獲得すると同時に数々のブランド・アワードのスタイリッシュ・アイコン賞に選出され、2024年の本作でテルグ語映画デビューとなった。

 2016年の「ジャナタ・ガレージ(Janatha Garage)」、2022年の「Acharya(アチャーリア)」と、ド派手なマサーラー演出に乗ってわりと説教臭い話を入れ込んでくるコラターラ・シヴァ監督作よろしく、本作も暴力渦巻く現実の中にあっての暴力否定の姿勢を暴力解決していくお話は、まさに「影の仕置人」化する主人公の演説そのものが説教くさいわけですが、隠すもののない海上での密輸業をやめさせるため「目に見えない恐怖」となる事で村人を更生させるという無茶ぶりを、自己犠牲と継承の物語に落とし込んでいく世代交代劇は、説教臭さをより劇的効果に落とし込んでいく見事な語り口。やりたいことは、本作でだいたいやっちまったんじゃないの? と思ってしまうのは「プシュパ(Pushpa: The Rise)」と同じ現象でしょか。あちらは3年後に2作目が公開されているので、その調子ならこちらは2027年くらいに後編公開なのかなあ…。ちゃんと完結させてくださいよ! たのんますよ!! 後編の語り手が、いきなりシンガッパの息子に交代しても怒んないから、しっかり作っておくんなましー!!!(*8)



挿入歌 Fear Song (海の恐怖)




受賞歴
2024 タイ Bangkok Movie Awards 物語注目作品賞・主演男優賞(NTR)・監督賞


「デーヴァラ」を一言で斬る!
・傷だらけで海に飛び込むの、メチャクチャ痛そ(あと、なんのガードもない中で海中で目を開けるのもメチャクチャ痛そ)。

2025.8.29.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 ないわけではないけど。
*3 声は、男優P・ラヴィ・シャンカルの吹替。
*4 声は、RJ・シュウェーターの吹替。ヒロインというほど出番はなかったけど…。
*5 シュリーデーヴィー主演作「マダム・イン・ニューヨーク(English Vinglish)」日本公開時に、母親、妹と一緒に来日してましたっけ。
*6 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*7 2016年のマラーティー語映画「君と一緒にいたくて(Sairat)」のヒンディー語リメイク作。
*8 それをやったのはK.G.F.。