インド映画夜話

Devi 2016年 130分(126分とも)
主演 プラブー・デーヴァ(製作&振付も兼任) & タマンナー
監督/脚本/原案 (A・L・)ヴィジャイ
"その名で、名声で、万雷の拍手を受ける…映画がその夢を叶えてくれる"




 その日、病院で心配そうな顔で病室を見守る男たち…クリシュナ・クマールとラージ・カンナは、搬送された女性が安静を取り戻したと聞いて安堵する。「彼女とはご結婚されているんですよね?」と医者から聞かれて「はい」と答えるラージを見て、クリシュナは複雑な表情で在りし日を思い返す……
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 6ヶ月前。
 コインバートル(*1)から理想の結婚相手を探しにムンバイに上京してきたクリシュナ・クマールだったが、急遽祖母危篤の知らせを受けて故郷の村へ帰ってみれば、呼吸器装備の祖母たっての望みとかでクリシュナの見合いが始まってしまう。
 そこで近所の田舎娘ムタンパティ(通称デヴィ)と結婚させられたクリシュナは、祖母の命令でいやいや彼女と共にムンバイに帰宅。田舎者の存在を周囲に見られるのを嫌った彼は、安アパートの廃墟同然の部屋にデヴィと一緒に引っ越してきて、あの手この手で彼女に嫌がらせを始めて追い出そうとする。そんな彼の態度を軽くいなすデヴィに近所の人々は打ち解けていくのだが、夫婦があのアパートの205号室に住んでいると聞くと、一様に複雑な顔をするのだった…。

 その日、会社主催の映画祭の入場券を持ち帰ったクリシュナは、「是非行ってみたい」と珍しく懇願するデヴィを連れて会場入りする羽目に。
 田舎者の彼女と距離をとって会社の同僚と過ごしていたクリシュナだったが、突如壇上で扇情的なダンスを披露して会場全員を虜にするデヴィの姿に圧倒! その場にいた主演男優賞を獲得した映画スター ラージ・カンナもまた、彼女の虜となってマネージャーをクリシュナの部屋までよこすのだが、そこから田舎者のデヴィと映画スターを名乗る都会人のデヴィが交互にクリシュナの前に現れるようになり…!!


挿入歌 Chalmaar

*ゲスト出演で登場は、南北インド映画界で活躍するイギリス人女優エイミー・ジャクソン(と、最後の方に振付師兼男優兼映画監督のラジュー・スンダラムもいる)。このシーン以降、一切劇中に登場しませんw


 タイトルは、ヒロインの名前ながら、その語義は「女神」の意。
 「神様がくれた娘(Deiva Thirumagal)」のA・L・ヴィジャイ監督の、10本目の監督作となる3言語同時制作コメディホラー映画。
 1960年の同名ベンガル語(*2)映画他、多数の同名映画があるけれども、全て別物。

 3言語同時制作されて、物語は一緒ながら言語ごとに微妙に脇役の配役、劇中の地名や人名が異なる。タミル語(*3)版タイトルが「Devi」。テルグ語(*4)版タイトルが「Abhinetri(女優)」。ヒンディー語(*5)版タイトルが「Tutak Tutak Tutiya」として公開されている。
 その大ヒットによって、2019年に続編「Devi 2 / Abhinetry 2」も公開。

 引越し先の部屋にいた幽霊に取り憑かれて豹変するヒロインと、そのヒロインに翻弄されまくる夫主人公のドタバタぶりがやたらと楽しい1本。
 コメディホラーと言ってもコメディ要素が強く、特に怖いシーンはない。激変するヒロインの起こす超常現象が奇妙な空間を作り出すくらいで、お話としてはコメディロマンスに分類される内容。
 主役プラブー・デーヴァの知名度よろしく贅沢なゲスト出演やダンサーたちの登場などもあって画面的にも賑やか。良妻賢母なデヴィとタカピーなモデル美女ルビーという対極キャラを演じるタマンナーの楽しそうな演技の存在感も楽しい楽しい。女を口説く事ばかりやってきた主人公が、無理やり結婚させられた美女の変身ぶりに四苦八苦させられ、無理矢理に芸能界に関わっていく困惑ぶりを、表情豊かに魅せてくれるプラブー・デーヴァ&タマンナーのノリノリの芝居とダンスで彩るんだから、それだけでも一級品映画の貫禄ですよって。

 映画スターの夢半ばで自殺したルビー(*6)が新婦デヴィに取り憑いてやったことが、クリシュナをマネージャーに仕立てて映画関係者にアピールしまくって映画出演することってのも、幽霊にしてはやることが微笑ましいし(*7)、激変する妻にビビりまくる主人公クリシュナがその変身ぶりでルビーだけでなく、元のデヴィにも圧倒されて態度を軟化させていく様も楽しいかぎり。デヴィの、ルビーへの変身は扉を抜ける時に起こるという条件めいたものもあったけど、基本的にはいつでもルビーに変身可能みたいで、それがためにクリシュナが、いつデヴィとルビーが入れ替わってるのか戦々恐々する姿が恐妻家的になっていく姿も笑える。心なしか、プラブー・デーヴァの目もいつも以上に表情多彩でキラキラしてる気がしてきますことよ。見方を変えれば、新婚生活にストレスを抱えた男の自問自答コメディとも見れるんじゃ…ないのかどうなのか。妙な深読みもしてしまいそうになりますわ。
 画面的に楽しいルビーの能力、自宅のアパートの部屋の扉を自在にスライドさせることでクリシュナの行動をコントロールして部屋から出られないように/部屋から追い出すように仕向けるVFXも漫画的なコミカルさで「楽しい幽霊じゃん」とか思ってしまう騒がしさもステキ(*8)。

 恋敵ラージ・カンナ役のソヌー・スードその他ゲスト出演の有名人の無駄使いっぷりも小気味いい感じ。エイミー・ジャクソンや本人役のファラー・カーンの突然の登場も楽しいけれど、タミル語版、ヒンディー語版に出てくる霊媒師役のパンクなナーサルの登場も今まで見たことない姿で衝撃的。見たことないといえば、幽霊に恐れおののき、自分の妻にまで恐怖を感じまくる情けなくも騒がしい小心者を演じるプラブー・デーヴァの姿もあんま見たことない。カッコつけ兄貴演じるよりも似合ってる感じが強いので、こっち方面のプラブー・デーヴァももっと見てみたい。2面性持つタマンナー共々、このコンビでお話を無限に作れそうな微笑ましい主役タッグでありましたわ。

 それにつけても劇中のムンバイ人たち、お上りさんにやたら厳しい(人たちもいる)。ムンバイは怖いところでおま!



挿入歌 Kokka Makka




受賞歴
2017 Asianet Film Awards タミル語映画人気女優賞(タマンナー )


「Devi」を一言で斬る!
・映画スターに変身したデヴィへのマネージャーの賛辞が『明日のディーピカですよ!』ってのがなんとも(*9)

2025.6.6.

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*1 現タミル・ナードゥ州コーヤンブットゥール県コーヤンブットゥール。






*2 北インドの西ベンガル州、トリプラ州、アッサム州、連邦直轄領アンダマン・ニコバル諸島の公用語。バングラデシュの国語でもある。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある。
*4 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*5 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*6 ヒンディー語版だと、エンディングで登場するルビーの生前の姿役を、ゲスト出演のイーシャ・グプタが演じている!
*7 テレキネスで契約書にサインしちゃう便利さがステキ!
*8 その能力、血気術かザ・ワールドか!






*9 タマンナーは、公式情報ではディーピカより年下ながら、映画デビューは2005年で、ディーピカより1年早かったりする。