インド映画夜話

Escape from Uganda 2013年 114分
主演 ヴィジャイ・バブー & リーマ・カリンガル & パーティバン
監督/原案 ラジェーシュ・ナーイル
"なにがあった?"
"人が殺された…だけど、彼女は無実だ"






 その夜、ファッションデザイナーのシカ・サミュエルは、遅くまで自分の店で仕事に追われ夜中になって帰路についたが、自宅前まで来た時にすぐ近くで突然の銃声が…!!

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 ジャヤクリシュナン(通称ジェイまたは JK)とシカが、ウガンダの首都カンパラへやって来たのは、結婚して幸せな夫婦生活を送るため。
 そこで、地元カンパラのマラヤーリー・コミュニティ(マラヤーラム語を母語とする在外インド人たち)の協力を得て、ジェイはエンジニアの仕事に就き、シカは自分のデザイナーズショップを立ち上げる。夫婦には、娘ミーナクシー(通称ミーヌー)も生まれて平和な暮らしが続いていた…。
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 銃声に振り返ったシカは、仕事仲間で親友のケーララ人エンジェル・マシュウが殺される現場を目撃! あまりの出来事にパニックになる彼女は、翌朝まで事態を飲み込めないまま、突如現れた警察によって家族の目の前で連行され、エンジェルと市長の娘オルドラ2人の殺人罪をかけられて収監されてしまう…!!


ED Ea Sundari (ねえ、綺麗なひと)

*本編の出来はともかく、このシーンの音楽と映像の積み上げ方、サビに向かう盛り上げ方の手法は勉強になることばっか詰まってまっせぇぇぇぇ!!!!!
 作曲&コンポーズは、本作と同年公開・同じ監督作の「Annum Innum Ennum(あの頃も、今も、これからも)」で映画音楽デビューしたヴァルン・ウンニ。本作劇中歌のウガンダ・リメイクヴァージョンも製作したとか。



 マラヤーラム語(*1)映画界初のアフリカロケとなる、オールウガンダロケのマラヤーラム語+英語映画。インドとウガンダで同時公開されたそう。
 インド人とともに、ウガンダ人俳優も多数キャスティングされ、俳優たちに混じって2013年度ミス・ウガンダとなるアニータ・キャリンパ(市長の娘オルドラ役)の映画デビュー作ともなった。
 そのプロットは、2010年のハリウッド映画「スリーデイズ(The Next Three Days)」と酷似していると言う指摘がある(*2)。

 物語は、ウガンダの首都カンパラを舞台に、(おそらく異教徒同士の駆落ちカップルによる)幸せな夫婦の日常生活が崩れ行く前半、悪名高いウガンダの刑務所の腐敗っぷりにさらされるシカの危機と妻の脱走計画に奔走するジェイと、彼に助力する人々の活躍を描く中盤、その脱出計画が始動し敵味方が二転三転するアクションメインの後半で構成されている。
 明らかに指摘されているハリウッド映画の影響下にある映画構成ながら、ウガンダの風景の目新しさとそこで生活するインド人たちのふてぶてしさだけで、新鮮な絵面になっている映画ではある。インド人ですら、慣れないウガンダでは窃盗や暴行にさらされて戸惑う描写が微笑ましくもあり、「トンデもないとこだなあ」とビビる所でもあり。物語が進むにつれ、そんな油断できないウガンダの中でうごめくインド人たち同士の丁々発止の信用できなさも浮き彫りになっていって、余計にサスペンス度を高めていく。
 タミル語映画「Jil Jung Juk(ジル・ジャン・ジャク)」でも、主要悪役にウガンダ人キャラが出て来たり「じゃあ、ウガンダの首都はどこだ?」とか言われて登場人物が戸惑うシーンとかあったけど、インド人にとってのウガンダってどのくらいの馴染み度なんでしょうねえ…?(*3)

 監督を務めたラジェーシュ・ナーイルは1972年生まれ。
 07年のヒンディー語映画「Dhan Dhana Dhan Goal(ゴールを目指せ)」でプロデューサー補を務めて映画界入りした人のようで、数本のヒンディー語映画製作の後、08年のマレーシア映画「Susuk(守護針)」で脚本デビュー。13年のマラヤーラム語映画「Annum Innum Ennum(あの頃も、今も、これからも)」で監督デビューする。同年公開の本作が2本目の監督作で、その後15年に3本目の監督作「Salt Mango Tree」も公開されている。

 主役ジェイを演じたヴィジャイ・バブーは、ケーララ州コッラム生まれ。
 83年(82年とも)のマラヤーラム語映画「Sooryan」に子役出演した後、長じてムンバイにある21世紀フォックス傘下のTV局スター・インディアに就職。02年度ベスト・スタッフとして表彰され、ドバイで独自にベンチャー企業を起こして仕事を広げていき、09年にケーララ州のスーリヤTV副社長に就任する。
 TVドラマやマラヤーラム語映画の端役出演を経て、12年に「22 Female Kottayam」他2本の映画に出演後、13年から本格的に俳優業へ転身。本作で主演デビューとなるよう。同年には「Honey Bee」でプロデューサーデビューもしている。
 友人サンドラ・トーマスとともに映画製作会社フライデー・フィルム・ハウスを立ち上げ、共同CEOにも就任。以降、役者兼プロデューサーとしてマラヤーラム語映画界で活躍している。

 ヒロイン シカを演じたリーマ・カリンガルは、ケーララ州トリシュール生まれ。
 3才頃からダンスを習い、国内外数々の舞台に立って来たと言う。ベンガルールの大学でジャーナリズムの学士号を取得しつつ、テコンドー、チャオ(*4)、カラリ(*5)などの格闘技も修得。
 モデル業を通して評判を呼んで映画監督ラル・ジョセに見出されてタミル語映画出演を決めるも、その企画が頓挫した後、別監督による09年のマラヤーラム語映画「Ritu(季節)」で映画&主演デビュー。ヴァニタ映画賞の新人賞を受賞する。その後もマラヤーラム語映画界で活躍し続け「Indian Rupee」「22 Female Kottayam」などで数々の映画賞を獲得している他、11年の「Ko(王)」のゲスト出演でタミル語映画にもデビューもしている。
 本作公開の直前13年11月1日に映画監督アーシク・アブーと結婚。その披露宴には、ダウリー(*6)反対を表明するために金製品を身につけずに出席し、結婚費用の一部を病院に寄付したとか。

 極悪な刑務所の描写や、ウガンダの人々の信用出来なさが不穏な空気をより濃厚にしていくとは言え、殺人事件を目撃したシカが一晩現場をほったらかしにしてなにもしなかったり、自宅の目の前で事件が起こっていながら警察の自宅乱入までジェイが事件の事も警察の取り調べも気づいていなかったりと「なんでやねん」ってツッコミが入れられてしまう要素が多いのが、サスペンスとして惜しい所か。
 脱出計画も、入念に準備してるわりには結構雑な計画だし、それぞれのシークエンスが冗長だし、シカの身体的負担がトンデもない事になってないですかねえとかつい思ってしまいますが、演じるリーマ・カリンガルのお美しさで全部許しまする。うん。
 物語的には、色々と二転三転するサスペンス劇や登場人物同士の丁々発止や逆転劇がいい感じに盛り上げてくれるし、味方になってくれるウガンダ人のいいひと具合も救いになってくれて、ウガンダが「ただ恐い所」にならないバランス感覚はさすが。
 ま、脱出計画や追いつ追われつの劇進行に、もういくつかアイディアが欲しかったかなあと言う佳作でありまする。劇中歌はとても印象的でヘビロテするくらいよく出来てるので、ストーリーもそれにタメをはれるレベルを要求したくなっちゃうわけでネ!!


挿入歌 Thenalle







「EFU」を一言で斬る!
・なにはなくとも、脱出時にいきなりカラリを披露して俄然強くなるシカがカッコEEEEEー!!

2017.4.21.

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*1 南インド ケーララ州の公用語。
*2 このハリウッド映画自体、2008年のフランス映画「すべては彼女のために(Pour Elle)」のリメイク作。
*3 本作劇中台詞でも、ウガンダ在住のインド人は少ない、とか言われてたけど。
*4 インド北東部マニプリの武道。
*5 またはカラリパヤット。ケーララの伝統武道。
*6 新婦が新郎一家に支払う結婚持参金。さまざまな社会問題の原因の1つでもあり、法的には禁止されているインドの習慣。