インド映画夜話

Ek Main Aur Ekk Tu 2012年 110分
主演 イムラーン・カーン & カリーナ・カプール
監督/脚本 シャクン・バトラ
"大袈裟な褒め言葉はいらないわよ…ただのプレゼントだし"
"君って本当に…なんて人なんだ"
"新しい友達よ"




 世界では、毎分225人の赤ん坊が生まれていると言う。僕の理科の先生曰く、赤ん坊の98.3%は3つに分類できるとか。
 1:良い子。親と同じものを愛し、順調に幸福を与えてくれる子。
 2:反逆者。革命家ではない。彼らの敵は英国じゃなくて親だからね…。
 3:仮面良い子。一見親に従ってるようで、家の外では別人になる子。
 僕は第4の子供だった。飛び立ちたいのに、翼の使い方を知らない…そんな子供。

 ラフール・カプール。25歳。親の勧めに倣い、ラスベガスの建築会社マーシャル&フォックスに勤める建築士になった彼だったが、クリスマスの日、両親が訪ねて来たその日に解雇通知を受け取っていた。
 何事も完璧を求める両親に解雇された事実を隠したまま、親をインドに帰して就活の準備をようやく始めるラフールはその日、スーパーでインド系のヘアスタイリスト リアーナー・ブラガンザと知り合ってしまう。自由奔放で押しの強い彼女につきまとわれてクリスマスパーティーに付き合いことになり、なんだかんだでそのまま泥酔して一夜を共にしてしまって…。
 気付いた時には次の朝になっていて、夜のうちに勢いで入った教会で簡易結婚証明書まで作ってしまった2人は、さっさと証明書の取り消しに行こうとする中で喧嘩し始め、そのまま別れていってしまう…。


挿入歌 Ek Main Aur Ekk Tu (1つを私に、1つを君に)


 タイトルは、ヒンディー語(*1)で「1つは私に、もう1つを貴方に」。
 プロデューサーには、ダルマ・プロダクションからカラン・ジョハールとヒロー・ヤーシュ・ジョハール、UTVモーション・ピクチャーからロニー・スクリューワーラーが参加。シャクン・バトラの初監督作となる、バレンタインデー直前公開のラブコメ映画。

 インドに先駆けて、クウェート、シンガポールで公開が始まり、インドと同日公開でオーストラリア、英国、アイルランド、オランダ、ノルウェー、ニュージーランド、パキスタン、ロシアでも一般公開されたよう。

 カラン・ジョハールがプロデュースしてるからなのか、思いきりアメリカンスタイルな匂い濃厚な、肩の力の抜けた軽快な都会派ラブコメの一本。
 企画当初からウディ・アレン映画を意識して作られていたみたいで、内気で流され系な男主人公のモノローグではじまり、強気で勝気で破天荒な姉さん女房的ヒロインとのドタバタな口喧嘩が物語を牽引する様は、まさにカラン・ジョハールの好きそうなハリウッド的スタイリッシュさを前面に押し出している。ハリウッドを見ていながら「インド映画は、クセが強すぎて…」とか言う人は、こう言う映画を見てればいいんでないかね。うん(*2)。

 前半のラスベガスを舞台とした話もそうだし、後半にムンバイに舞台が移っても出て来る家族たちの生活スタイルは基本欧米流そのもので、ほとんど「インドらしさ」が排除されている。画面レイアウトも落ち着いたトーンでゆったりめだし、物語の語り口もどこかトボけた雰囲気。少女漫画的な王道ラブコメなストーリーラインながら、「これは運命的な愛!」みたいな力みようは全くないまま、「人生ってクソだよねー」と酒飲んでクダ巻いてるニューヨーカー同士で作っても違和感ない画面作りになっている。
 まあ、後半に主人公の人生の再建の障壁となる両親や親戚、ヒロインの家族たちが主人公の生活に口出して積極的に関わろうとして来る人間関係の濃さはインド的(アジア的?)な面も強いし、ナイフとフォークの欧米スタイルの食事風景が主人公と家族の距離感を表していて「手食でいいじゃん!」ってなる結論はハッキリとインド万歳が出てきてはいるんだけど、アメリカ生まれアメリカ育ちのイムラーンのラスベガスでの馴染みまくった無気力系な演技もいい感じだし、ヒロイン演じるカリーナ・カプールも他のインド映画に比べてキュートさが増してるようにも見える。見る前は、この2人でラブコメって大丈夫かいな、と思わなくもなかったけど実際に見てるとまあ楽しい。身振り手振りのジェスチャーも、かなりアメリカ風を意識した演出が施されてるようだけど、それを器用にこなす役者たちの演技力も天晴かな。これがインドでもそれなりにヒットしたらしい、って聞くと、やっぱインドの観客層の幅の広さはかなりのもんよね、とも思えてしまう(*3)。

 キャスト面で「へえ」と驚いたのは、派手好きな主人公のセレブ母役にラトナ・パタックが配役されてることで、子煩悩ながら結構な俗物演技をなんの違和感もなく演じてて「そんな役もできるのね! さすが名優とされるわけよねー」と感心しきりですよ。

 婚姻や離婚手続きが簡単に短時間でできると言う、ラスベガスのあるネバタ州の制度と生活スタイルを「ネタとして使ってやろうか」って魂胆が見える脚本とラスベガスロケだけども、登場するインド人たちの喋る英語もかなり聞き取りやすいアメリカン・イングリッシュになってるし(*4)、アメリカ的自由を謳歌する若者たちの姿を見たいと言う需要に徹底的に答えようととでもしてるかのようで、それに反応する観客がそれなりにいるインドの様子も興味深いっちゃ興味深い。こう言う、脱力系ラブコメのサラッと流すようなテンポの気楽な映画も、インド映画的密度の中で見てると、いろいろな発見もあったりするもんですネ。

 まあ、欧米スタイルのインド人を相手に「気に入らん」と棒台詞を言い放つラスベガスの日系企業とジャパニーズスパはなんだったんだろう…? と言う疑問もありますけどw

挿入歌 Aunty Ji (おばさま [さあ踊りましょうよ])


受賞歴
2013 Cosmopolitan Fun Fearless Awards 主演女優賞(カリーナ・カプール)


「EMAET」を一言で斬る!
・ラスベガスの日系企業"ヤマモト"の面接官、「気に入らん」の一言で面接終わらせるし「必要ないんだけどね」と日本語で言い放つし、「Are you sure?」と聞いた英語を「この馬鹿になにを言っても…」と通訳が面接官に語り出すし、恐ろしい会社だなや…w

2023.1.7.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 ミュージカルシーンの歌と踊りも、そこそこアメリカン風にアレンジされてる感じも…する。
*3 と同時に、日本のインド映画評でよく目にする「外国の目を意識した作り方が〜」とか言う文句の的外れ感もかなり感じてしまいますわ。
*4 と思うけど、ワタスの耳がいつものインド英語に慣れきってしまってるからそう聞こえるのかしらん?
*5 結婚時のダウリー始め結納品の有無とか。
*6 屋内で靴を脱ぐのか脱がないのか等。
*7 多少メルヘン的なニュアンスも匂う?