インド映画夜話

ウソは結婚のはじまり?! (Eedo Rakam Aado Rakam) 2016年 129分
主演 ヴィシュヌ・マンチュー & ソーナーリカ・バードリア & ラージ・タルン & ヘバー・パテール
監督/脚本 G・ナーゲーシュワラ・レッディ
"さあさお立ち会い! ちょっとの誤解と大きなウソが、混乱混乱の大混乱!!"




 その土地は、ダットゥ家とガージャー家の争いの元であった。
 長年争い続ける2つの家に対し、コテスワーラー・ラーオ警視正は法の名において土地争いを止めるよう勧告する…。
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 ナラヤーナー弁護士の息子アルジュン。コテスワーラー警視正の息子アシュウィン。2人は学校を出ても就職もせずに遊び暮らす親友同士。共に親から「さっさと仕事を見つけて働け」と言われながら、まったく意に介さないダメダメさ。

 ある日、共通の友人キショーレの結婚式に出向くと、アルジュンはそこに来ていた美女ニーラヴェニに一目惚れし、一方のアシュウィンは美女スプリヤーから一目惚れされる!
 ニーラヴェニが「結婚するなら、家族の面倒がない孤児がいい」と言うのを聞いたアルジュンは、さっそく孤児のふりで彼女の気をひいて、なんだかんだでゴールイン! 有頂天の彼に、ダットゥ家とその一団を率いる恐ろしいギャングボスの兄を紹介がてら、さっさと結婚手続きを済ませて「新居を見つけてきたわ」と言うニーラヴェニに驚くアルジュンが連れてかれた先は、よりにもよって部屋の貸し主を募集していた自分の家だった!!

挿入歌 O Neelaveni (ああ、ニーラヴェニ)

 原題は、テルグ語(*1)で「この人はタイプ、あの人もタイプ」。
 本作は、2012年のパンジャーブ語(*2)映画「Carry On Jatta」と、1989年のマラヤーラム語(*3)映画「Chakkikotha Chankaran」にインスパイアされている映画だそう。
 日本では、2017年に南インド映画祭にて上映。

 なんとなく、新人俳優&ノリノリの歌曲お披露目用のドタバタ話芸コメディな感じの1本。
 ヒンディー語映画「Housefull (ハウスフル)」シリーズとかでよく見る、1つのお屋敷を舞台に複数の恋人たちが起こすウソがウソを呼ぶハチャメチャさが、バカバカしくもテンポの良いノリ重視なお気楽エンタメ映画。
 行儀のいい映画構成術とか、脚本の妙とか編集マジックなんかを気にしてはいけない、テルグ語による数々の言葉遊び・テルグ映画やテルグエンタメのオマージュネタやらが頻出してくるあたり、その辺への理解も必須な感じではあるけれど、そもそもそんなシリアスな展開もない全編サービス精神てんこもり映画なので、例えて言えば「小説を読む」ような楽しみ方よりは、「漫才を見る」「落語を見る」感じで楽しみたい映画デスネ。

 主役アルジュンを演じるのは、1981年タミル・ナードゥ州チェンナイ生まれでアーンドラ・プラデーシュ州ハイデラバード(*4)育ちのヴィシュヌ・マンチュー(別名マンチュー・ヴィシュヌ・ヴァルダーン・ナイドゥ)。父親はテルグ語映画界の大スター (マンチュー・)モーハン・バーブ。姉に女優兼プロデューサーのラクシュミー・マンチュー(*5)が、弟に男優マンチュー・マノージ(・クマール)がいる映画一家出身。
 85年のテルグ語映画「Ragile Gundelu」で子役出演した後、工大のコンピューターサイエンス&ITコースを修了し、学生時代はクリケットとバスケで活躍して州代表選手にもなっていたとか。
 ハリウッドの「マトリックス・リローデッド」のセット装飾に参加していた事で映画界への興味を強くし、帰国後03年の「Vishnu」で本格的に俳優デビューしてフィルムフェア・サウス新人男優賞を獲得。自社プロとなる映画製作プロダクション24フレームズ・ファクトリーを設立して、翌04年に父親と共演した「Suryam」で主演デビュー、05年には「Sree」でプロデューサーデビューする。映画会社シンクスマート社長にも就任してポスプロ映画となる「Athanokkade」で、シネゴアーズ賞のVFX賞を獲得。TVドラマ「Happy Days.」の1エピソードで監督デビューもしている。

 アルジュンと結婚するニーラヴェニ役には、1993年マハラーシュトラ州ムンバイ生まれのソーナーリカ・バードリア。
 TVドラマ「Tum Dena Saath Mera」でメジャーデビューし(*6)、以降、TVドラマの主役や女神役で人気を博す。15年のテルグ語映画「Jadoogadu(魔術師)」で映画&主演デビュー。本作が3作目の映画出演作で、同年には「Saansein: The Last Breath」でヒンディー語映画デビューもしている。

 アシュウィン役を担当するのは、男優兼脚本家のラージ・タルン。
 工学を修了した後、短編映画を通して映画監督を志し、13年のテルグ語映画「Uyyala Jampala」で主演&脚本&台詞デビュー。国際南インド映画賞の新人賞を受賞し、その後はテルグ語映画界の主演男優として活躍。本作と同じ16年には「Seethamma Andalu Ramayya Sitralu」に主演、「Majnu」にカメオ出演している。

 アシュウィンを追いかけるスプリヤーを演じるのは、モデル兼ダンサーのヘバー・パテール。
 14年のカンナダ語映画「Adyaksha」で映画&主演デビュー。同じ年に、この映画より先に作られていながら公開延期になっていた「Thirumanam Enum Nikkah」でタミル語映画デビュー、さらに「Ala Ela」でテルグ語映画にもデビューする。
 その後はテルグ語映画で活躍していて、本作と同じ16年には「Ekkadiki Pothavu Chinnavada」「Naanna Nenu Naa Boyfriends(父さんと私と、私のボーイフレンドと)」の2本にも主演している。

 冒頭の2つの家の土地争いで「あなたがいてこそ(Maryada Ramanna)」のような展開が待っているかと思いきや、ラスト近辺までそれぞれの家族同士のドタバタが中心の展開となり、忘れた頃にギャング率いる2つの家の争いが本格的に主人公カップルたちに襲いかかる所なんかは、オマージュと考えて良いやら悪いやら。
 しょーもないギャグの数々が、どんどんそのしょーもなさ度を高めて「それはどうだろう?」と日本では受け止められかねない、手段を選ばないネタの数々についニヤニヤしてしまうから困ったモンダイ。「死んだ母さんサウンダリヤーの遺影」と言って、名女優の故サウンダリヤーの写真なんか出してきて、大丈夫だったのぉぉぉー!!!(*7)
 その辺の笑ったもん勝ちな勢い勝負は、うかうかしていられないボリュームの映画ですわ。

挿入歌 Ko Ko Kodi (雄鶏が壁を飛び越えた)


「ウソは結婚のはじまり?!」を一言で斬る!
・重婚や不貞疑惑の時に祈る神は、クリシュナ神(*8)ではなく、ラーマ神(*9)。憶えましたネ?

2017.7.14.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 北西インド パンジャーブ州の公用語でデリーの第2公用語。その周辺域でも使用される他、パキスタンでも言語人口は多い。
*3 南インド ケーララ州の公用語。
*4 現在はテランガーナー州との共同州都。
*5 別名マンチュー・ラクシュミー・プラサンナ。
*6 それ以前に別のTVドラマの主演も演じていたそうだけど、結局放送されなかったと言う。
*7 クスクス笑ってもーたけどw


*8 モテモテの牧夫神。豊饒を司り、多数の女性との恋物語で有名。
*9 古代コーサラ国の王子で叙事詩ラーマーヤナの主人公。羅刹から妻シーターを救った英雄。