インド映画夜話

Ek Niranjan 2009年 150分(155分とも)
主演 プラバース & カンガナー・ラーナーウト & ソヌー・スード
監督/脚本/台詞/原案 プーリ・ジャガンナート
"帰ってくるまでに、本当の両親を見つけて来てくれ"




 孤児チョットゥは、赤ん坊の頃に誘拐魔チダンバラムにさらわれてから、彼のために物乞いでお金を稼ぐ子供達の集団の中で育てられた。
 しかしある時、警察に追われるチダンバラムを差し出して逮捕させた彼は、わずかとは言え報奨金を警察が支払ってくれる事を知り、以降警察に請われて犯罪者を捕まえる賞金稼ぎを生業とするように…。

 15年後。成長したチョットゥはその日も警察から賞金首一覧をもらい、凶悪犯マノージ捕獲に彼の家まで押しかけていた。そこで、マノージを彼の妹サミーラの目の前でブッ飛ばして警察へ連行したチョットゥは、以後サミーラの復讐の的となり、彼女の運営する子供ギター教室の生徒たちの悪戯の標的に晒される。が、そんな日々の中でチョットゥはサミーラに惹かれていき、なにかとちょっかいを出しては彼女に「愛してる」と言わせようとする日々が続いていた。
 その裏で、マノージの懇願からチョットゥの様子を探るマフィアボス ジョニー・バーイの脅威と、ジョニーの地位を狙うマフィアたちの内部抗争が近づいているのを知らないチョットゥは、サミーラとの仲直りの方法を探るとともに、刑期を終えて出所するチダンバラムの保護者を名乗り出て、なんとしてでも実の親の所在を聞き出そうとしていた…。


挿入歌 Ek Niranjan


 テルグ語(*1)・マサーラー映画の名匠プーリ・ジャガンナート監督の、18本目となる監督作。プラバースを主演に迎えたのは、08年の「Bujjigadu(ブッジガードゥ)」に続く2本目。

 後の2010年には、ヒンディー語(*2)吹替版「Ek Hi Raasta: The Power」、マラヤーラム語(*3)吹替版「Game」、タミル語(*4)吹替版「Police Dada」も公開。

 どこまでも、プーリ・ジャガンナート監督の得意とするマフィア抗争映画で突き進む映画ながら、ツンデレカップルのツンデレロマンスから、生き別れ家族のすれ違いドラマ、育ての親チダンバラムの孤独とチョットゥのチダンバラムへの義理の家族愛のあり方なんかが重層的に語られていく高密度な内容。ただまあ、それぞれのエピソードの噛み合わせが必ずしもきちんと噛み合ってるわけではなく、画面的に派手なアクションを主体にしてまとめたがために、色々風呂敷がたためてないまま「あとは見た人が想像してね」で放り投げてる感も強い。それがために、お話はスピーディーに展開する爽快感も生まれてるわけだけど。
 「Bujjigadu」から続いて各エピソードのつながりが噛み合ってないように見えるのは、あるいはこの時期のジャガンナート監督作の意図的な作り方…か? 「Bujjigadu」を踏襲したような主演プラバースの下町兄ちゃん演技や画面構成も見えてくるのは同じマサーラー演出映画だからだろって事でしょか。マニ・シャルマーの音楽は、相変わらずノリノリでキャッチーでいい起伏として機能してるしね!

 本作がテルグ語映画デビューとなる、ヒロイン サミーラ演じるカンガナーはわりと凡庸なツンデレヒロイン役で、綺麗所以外にはあんま出番がなかった感じ(*5)。06年のデビュー作「Gangster(ギャングスター)」以降、メインで活躍するヒンディー語映画界ではダウナー系キャラを演じることが多い感じのカンガナーだけども、特にこれという特徴のないツンデレヒロインを演じるのもそれはそれで新鮮…?(*6)
 悪役俳優としても大活躍しているジョニー・バーイ役のソヌー・スード(*7)や、重要な脇役としていつも登場するブラフマジー役のブラフマジー(*8)、わりとギリギリな不倫コメディを担当するブラフマナンダムはじめ人気コメディアンたちもそれなりに見せ場を確保していたものの、いまいち印象に残らず。映画見終わって一番印象に残っているのは、主人公を物乞いに仕立てながら主人公に捨てられるのを恐れる育ての親チダンバラム演じるマクランド・デーシュパーンデーなんだよなあ…。
 どうしようもない小悪党ながら、実の親の情報を知りたいチッティになにくれと世話され、チッティを脅しすかししながら優位に立とうと必死に虚勢を張り、それでいながらチッティから「あなたを本当の親と同じく自分の親だと思っている」と言われて涙する小心者っぷりが、やってることの極悪さとのアンビバレンツを生む複雑な愛嬌を呼ぶ。「血のつながらない義理の家族愛」がメインテーマだったら、この2人の関係性がよりクローズアップされた感動作になっただろうなあ…もったいないなあ…と思わんでもない。まあ、本作は観客を全力でノセるためにあえてそういう作り方を避けているんだろうけどさ。
 あととりあえず、大げさな芝居を見せる子役たちがやたら可愛い。将来に期待したいデスネ!

挿入歌 Mahamari

*その、背景の漢文もどきはなんでしょうか…?



「EN」を一言で斬る!
・廃工場の中のトラックから集団で水平飛びで発砲するバンコクマフィア…。そんな絵面初めて見たわ!

2022.3.5.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*3 南インド ケーララ州の公用語。
*4 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*5 のために、カンガナー自身も不満たらたらだったよう…。
*6 探せば、ヒンディー語映画でもそういう役を演じてるでしょうけど。
*7 いちいち胸筋と二の腕を見せつける着こなしとポージングの嵐!
*8 役名が芸名とまったく同じ!