インド映画夜話

野獣一匹 (Ek Villain) 2014年 129分
主演 シッダールト・マルホートラ & シャラッダー・カプール(歌も兼任) & リテーシュ・デーシュムク
監督 モーヒト・スーリー
"貴方は法でなく、神に罰せられる。…いつか、目の前で愛する人が死ぬのを見る事になるんだ"






 「蝶と遊ぶ」「海中世界を見る」「雪と戯れる」「誰かの人生を助ける」…ムンバイに住むアイーシャ・ヴァルマーは、手帳を確認しつつお祭り用の神像を積み込み家路につく。だが彼女は、帰宅して夫グル・プローヒトとの電話中、突如何者かに襲撃され殺されてしまう…!!

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 グルとアイーシャの出会いは2年前のゴア。
 当時、ゴアを支配していたギャングのボス シーザーの元で殺し屋をしていたグルは、刑務所で尋問を受けていた所をアイーシャに発見され、彼女の興味の的にされて追い回され「あんたみたいな人に、手伝ってほしい仕事があるの」と半ば強制的に彼女の社会活動の様子を見せられる事に。その過程で、グルはアイーシャのある秘密を知ってしまう…
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 アイーシャの葬儀が終わり、グルはアイーシャを殺した犯人への復讐を誓う。警察が追う、連続女性殺害事件を独自に調査するグルは、やがて…


挿入歌 Galliyan ([君は] 我が家)



 「愛するがゆえに(Aashiqui 2)」のモーヒト・スーリー監督による、愛する人を殺された男の復讐の因果を描く悲恋ものリベンジムービー。本作は、2010年の韓国映画「悪魔を見た」のボリウッド・リメイクである他、03年の「オールド・ボーイ」、04年の「僕の彼女を紹介します」と言う2つの韓国映画の影響も指摘されている。
 日本では、2015年にIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。

 冒頭、アイーシャの殺害と言うショッキングなシーンから始まっての、前半はアイーシャとグルの静かなロマンスの回想。中盤から、もう一人の悪役(=Villain)リケーシュの歪んだ愛の現れとしてのシリアルキラーっぷりが描かれて、元殺し屋のグルと現在進行形で連続殺人犯のリケーシュと言う2人の対決と、愛の達成が描かれていく。
 「愛するがゆえに」の監督と、そのヒロイン シャラッダーの映画なので、そりゃもう、ベタな少女マンガ展開の映画だろうなあ…とか思ってたわけですが、公開以後聞こえてくるのは「リテーシュがスゴい!」の声ばかり。どう言う事じゃろな、と見てみればそれはそれは「リテーシュがコワい!」映画でございました。今までコメディ系の役ばっか見てたけど、確かにこの人ちょっと悪役顔…と言うか異常な眼力のある顔してるよねえ…。

 「愛するがゆえに」があんまりピンと来なかった身では、前半のシャラッダー演じるアイーシャが、妙に信用できないウソ臭いヤツに見えてしまったために、いまいちロマンス劇にはノレなかったんですが、リテーシュ演じるラケーシュが出て来てから俄然お話に厚みと広がりが出て来て2部作映画を一気に見せられたような、重厚な人情心理劇になっていきました。
 暴力の世界からは足を洗いたいのに、愛する人を殺された怒りと悲しみにつき動かされないではいられないグル。
 妻を喜ばせたいために、自分がヒーローになる事を邪魔する世の女性たちに復讐し続ける倒錯的で歪んだ愛に身を浸すラケーシュ。
 それぞれに、自分を支えてくれる家族への思いと、自分の中の葛藤を持ち、それがために不条理な感情の渦を抑える事が出来ない2人を表裏に描きながら、物語はそうした愛する人への思いの重さがより事態を深刻にさせ、その上で運命が1つの方向へと転がっていく様を描いていく。

 主役グル役のシッダールト・マルホートラは、12年の「スチューデント・オブ・ザ・イヤー(Student of the Year)」で鮮烈主演デビューした大型新人。続いて14年には、本作と共に「Hasee Toh Phasee(彼女は笑って、誘惑する)」で主演を演じ、BIGスター・エンターテインメント・アワードのエンターテイナー・オブ・ジ・イヤーをアーリア・バットと共に受賞している。

 もう一人の悪役でもあるラケーシュを演じたリテーシュ・デーシュムクは、1978年マハラーシュトラ州ラトゥール生まれ。父親は2度の州首相を務めた国民会議派議員のヴィラスラーオ・ダガドジラーオ・デーシュムク。
 建築学の学位を取得後、1年間米国ニューヨークにある建築会社で働きながら、リー・ストラスバーグ・シアター研究所で演技を特訓。インド帰国後に建築デザイン会社Evolutionsのオーナーに就任する一方で、03年にヒンディー語映画「Tujhe Meri Kasam(君との約束)」でジェネリア・デスーザと共に映画&主役デビューし、04年の「Masti(悪ガキ)」で各映画賞のコメディ演技賞を獲得。その後も多くの映画賞を獲得しヒンディー語映画界で活躍している。12年には、同期デビューのジャネリア・デスーザと結婚。
 13年に自身の映画プロダクション"ムンバイ・フィルム・カンパニー"を起ち上げ、プロデューサー業も始め、クリケットチーム"ヴィール・マラーティー"のキャプテン兼オーナーにも就任してそのクリケット技術も賞賛されているとか。

 元が情念映画を得意とする韓国映画だからなのか、モーヒト監督作の流儀なのか、登場人物たちがイライラギスギスしてる攻撃的な都会人ばかりなのが、なんか誰も幸福な人がいないように見えてしまって映画見てて辛いんだよね…。劇中で描かれる、1人幸福を振りまく役のヒロイン アイーシャの存在感による「幸福の中にいる時に、突然不幸が襲ってくる」寓意的精神ダメージが結構な重みなんですよ。あたしゃ、できれば平坦なのんびりした生活をしたい人間でございますから、こう言う不幸度が行くとこまで行っちゃう話ってのは、現代生活のイヤな部分を増幅される感じで、後を引いちゃってさあ…。


ED Galliyan (Unplugged)

*多少、ネタバレ気味注意。
 歌うは、本作に主演するシャラッダーと、元のGalliyanの作曲&歌を担当したアンキット・ティワーリー。




受賞歴
2014 Stardust Awards 男性プレイバックシンガー賞(アンキット・ティワーリー / Galliyan)
2015 Filmfare Awards 男性プレイバックシンガー賞(アンキット・ティワーリー / Galliyan)
2015 Apsara Film Producers Guild Awards 殿堂栄誉賞
2015 Star Guild Awards 悪役賞(リテ−シュ)
2015 IIFA(International Indian Film Academy Awards) 助演男優賞(リテーシュ)

2015 Bollywood Hungama Surfers' Choice Music Awards サウンドトラック賞(アンキット・ティワーリー & ミトゥン・シャルマー)・男性プレイバックシンガー賞(アンキット・ティワーリー / Galliyan)・作詞賞(マノージ・ムンタシール / Galliyan)・歌曲賞(アンキット・ティワーリー & ミトゥン・シャルマー & マノージ・ムンタシール / Galliyan)・女性プレイバックシンガー銅賞(シャラッダー・カプール / Galliyan)
2015 Global Indian Music Academy Awards 有名シンガー・オブ・ジ・イヤー賞




「野獣一匹」を一言で斬る!
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2016.5.27.

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