インド映画夜話

フェラーリの運ぶ夢 (Ferrari Ki Sawaari) 2012年 140分
主演 シャルマン・ジョーシー & ボーマン・イラーニー & リトヴィク・サホール
監督/脚本 ラジェーシュ・マプスカール
"小さな男が望んだのは、フェラーリが運ぶ大きな夢!"






 ムンバイの正直者な交通局長ルーシー(本名ルスタム・ベーラム・デーブー)の関心事は、クリケット選手を目指す息子カヨ(本名カヨゼ・ルスタム・デーブー)のことばかり。
 早くに母を亡くしたカヨに精一杯の愛情を注ぐルーシーは、地元少年チームのキャプテンになったカヨを誇りにしている。しかし、かつてプロのクリケット選手だったルーシーの父親ベーラム・アルデーシル・デーブーは、孫のクリケット狂ぶりに不満タラタラ。毎日2人に当たり散らすばかり…。

 そんな中カヨは、クリケットの本場イギリスでの強化合宿メンバー選抜試験に誘われる! …だが、交通費その他は自己負担で15万ルピーかかると言われて落ち込むカヨに、ルーシーは「大丈夫だ。お父さんがなんとかする」と断言する。

 その頃、違法廃車回収業で潤うムンバイ近郊ウォルリィ村の、名士タティヤ・マンドケの息子パクヤの結婚式を請け負ったウエディングプランナー バッブー・チャンチャルがやって来た。彼女は、結婚式を挙げるバカ息子が「フェラーリで参加できなきゃヤダ」とゴネたばかりに大弱り。ルーシーの職場でその話題で盛り上がってると、
「クリケット選手サチン・テンドールカルさんの家にフェラーリが置いてあるってことは、ルーシーは親父さんが同じクリケット選手なんだから、頼めば貸してくれるさ!」
 …とムチャな提案を持ちかけてくる!!
 フェラーリを持って来てくれれば、強化合宿にかかる経費を負担すると提案されたルーシーは、ダメもとでテンドールカル家へと出発するが…。


プロモ映像 Ferrari Ki Sawaari (フェラーリに乗ろう)



  タイトルは「フェラーリに乗って」。
 監督・脚本を務めるラジェーシュ・マプスカールの初監督作であり、日本でも大ヒットした傑作「きっと、うまくいく(3 Idiots)」のプロデューサー ヴィドゥー・ヴィノード・チョープラの製作・脚本で、彼のプロダクション製作作品、ラージクマール・ヒラーニーが台詞を担当。同作に出演していたシャルマン・ジョーシーとボーマン・イラーニーを迎えた、これまた心温まる傑作映画登場!
 日本では、2013年IFFJ(インド・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。'13年度のIFFJでは一番の注目作! ちょうど、IFFJ上映直前に、本作でも言及されるインドを代表するクリケット選手サチン・テンドールカルの引退が発表されて、話題を集めておりました(一部で)。

 「きっと、うまくいく」とはまた違い、家族をテーマに、クリケットを巡る3代に渡る家族の結びつき、しがない庶民が大金をつかむためにコソコソと奔走するさまを、可笑しくも美しく切なく描くハートフルコメディ映画。良き父ルーシーと良き息子カヨとの両方を尊敬しあう親子関係が、ホロリときながら朗らかに笑える感動ものですよ! 祖父・父・息子と、名前を継承していくデーブー家の男3代の、それぞれのシーンでの関係性が見事ですわ。

 ルーシーを演じるシャルマン・ジョーシーは、ムンバイ出身のグジャラート映画一族にうまれた映画俳優兼TV司会者。父親はグジャラート演劇界の名優アルヴィンド・ジョーシー。姉は映画女優のマンシー・ジョーシー。1999年にTVドラマ「Gubbare」に出演し、同年「Godmather」で映画デビュー。ロングランシリーズとなるコメディ映画第1作「Golmaal(06年公開)」でフィルムフェアのコメディ演技賞にノミネート。2009年には「きっと、うまくいく(3 Idiots)」にて、以前に「Rang De basanti(サフラン色に染めろ 06年公開)」で共演していたアーミル・カーン、R・マーダヴァンと再度共演してIIFA助演男優賞を獲得した。
 ルーシーの父親ベーラムを演じたのは名優ボーマン・イラーニー。ムンバイ出身のパールシー(=ゾロアスター)教徒の家族に生まれた映画俳優で、大学で工芸を学んだ後ウェイターとして働き、母親と共にパン屋を経営しながらプロのカメラマンとして活動していた人。40代にして大学時代の友人を通して演劇に参加。演劇や広告モデルなどもこなしながら2001年に「Everybody Says I'm Fine!」で映画デビュー。2003年の「Munnabhai M.B.B.S.(ムンナー兄貴と医療免許)」、翌年の「俺がここにいるから(Main Hoon Na)」でフィルムフェアコメディ演技賞に2年連続ノミネートされて名脇役男優の地位を確保。09年の「きっと、うまくいく(3 Idiots)」でフィルムフェア助演男優賞を初獲得した。
 カヨを演じたリトヴィク・サホールは、これが映画デビューとなる子役。ホント、最近のインド映画界の子役は次々とスゴい人たちが出てきまする。彼の将来に超期待!
 本作が初監督作となるラジェーシュ・マプスカールは、「Lage Raho Munna Bhai(やっちまいな、ムンナー兄貴)」や「きっと、うまくいく(3 Idiots)」で助監督やっていた人。それ以前の2004年「Sau Jhooth Ek Sach」で出演&美術デザインを担当してたそうな。

 ほがらかキャラの似合うシャルマン映画そのままに、全編で悪役らしい悪役は出てこない(*1)みんな良い人爽やかコメディ映画に仕上がっている感動作。
 七三分けに黒ぶちメガネ(*2)と言うしがないサラリーマンスタイルの、ルーシーの人の良すぎる父親っぷりが、なんとも可笑しく愛らしく、頼りなくも美しい(*3)。交通局員だからと全車種データを暗記してたり、人のフェラーリに乗り込む時にわざわざ靴底を磨いて汚れがつかないようにしたり、超目立つ高級車に乗りながら交差点で手を上げて進行方向を示したりする生真面目シーンがなんとも楽し。
 過渡にバイオレンスなシーンやセクシーなシーンとかもないし、サチン・テンドールカル邸のガードマン マーマとモーハンのコメディアンぶりも楽しい。そういう意味では、やっぱ家族そろって見るべき映画?

 後半徐々に高まって行くデーブー家の危機も、それまでの伏線を見事に回収しつつ登場人物それぞれが、家族のために一念発起する様は美しく印象的。クリケットを通して人生を翻弄されるデーブー3世代の人生のありようが、それぞれに精一杯フォローされてラストへの大団円へと向かって行く。この清々しい家族模様は必見ですゼ!


挿入歌 Mala Jau De (さあ早く来て)

*ゲスト出演のダンサー女優として、演技派女優ヴィディヤー・バーラン登場!!


「フェラーリの運ぶ夢」を一言で斬る!
・インドも、貯金箱って子豚なのネ!(やたら重そうだったけど…)

2013.12.6.

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*1 ま、デーブー家とは親子関係が対極のマンドケ一家はアレですが…。

*2 視力は父親譲りってことかいな?

*3 わりに結構筋肉質だけどw