インド映画夜話

Gabbar Singh 2012年 152分
主演 パワン・カリヤーン & シュルティ・ハーサン
監督 ハリシュ・シャンカル
"無法地帯、悪のはびこるこの街に……ヤツは来た!"






 無法地帯コンダヴィードゥに住む少年ヴェンカタラトナムは、映画「炎(Sholay)」の大ファン。しかし、母と再婚した義理の父とその息子に差別され続け、ついには義父に反抗して家出してしまう。「ここでは弟が主役、オレは悪役だ。どうせ悪役ならガッバル・シン(映画「炎」に出てくる伝説的悪役)を目指してやるさ!」

 その21年後。
 コンダヴィードゥの銀行を荒らし回った強盗団を、たった一人で一網打尽にした男…かつてのヴェンカタラトナムは今、天下無敵の警察官"ガッバル・シン"に成長していた。
 コンダヴィードゥ警察署を"ガッバル・シン警察署"に塗り替え、盗難金をガメり、部下たちを顎で使い回し、自らギャングたちを粉砕する。街の人気者となった彼の望みは、年老いた母と新居で暮らす事。しかし、母は我が子が家に戻って、一家が仲直りする事を望んでいる。

 ガッバルと義父ナイドゥの対立が収まらない中、彼に粉砕された強盗団の首領シダッパ・ナイドゥはガッバルを仲間に率いれようとするも拒絶されてしまい、あろう事か、現首相を追い落として自身がその地位に着こうとする計画を、当のガッバルに潰され怒り心頭。
 その頃、義理の弟がのめり込む違法賭博の一斉捜査を始めたガッバルは、その現場で出会った小物売りの美女バーギヤラクシュミーに一目惚れ! 母の応援もあって彼女に結婚を申し込もうとするも、彼女は「アル中の父が生きているうちは、その世話をしないといけないから結婚はしない」と彼を拒絶する。失意の彼が実家の母を訪ねていけば、すでにその時母親は他界してしまっていた…。
 突然の母の死に落ち込むガッバルに対し、シダッパ・ナイドゥ一党の本格的な襲撃が始まる…!!


挿入歌 Dekho Dekho Gabbar Singh (さあ見ろ、ガッバル・シンだ!!)

*これですよこれ! 強盗団から強奪金取り返して被害者の前で演説かましてる時に、自己紹介のためだけでこの派手派手さ!! テルグスターはこうでなくっちゃ!!!w


 タイトルは、主人公の自称名。伝説的大ヒットボリウッド(*1)西部劇「炎(Sholay)」に出てきた、これまた伝説的な悪役の名前がその由来。

 ディリープ・シュクラ&アビナヴ・カシャプの大ヒットボリウッド映画「ダバング(Dabangg)」コンビが脚本に参加した、「ダバング」のテルグ語(*2)映画版リメイク登場!(*3)
 公開後、ヒンディー語吹替版「Policewala Gunda」も公開。さらに、主演パワンの発表によれば、続編「Gabbar Singh 2」の企画が動いてると言う!!(*4)

 これまでNRI(在外インド人)や富裕層の物語が多かったボリウッドで、「Ghajini(ガジニー)」に始まる南インド風演出ブームの、その到達点(の1つ?)となった「ダバング」。本作は、これを当の南インド…特に庶民ヒーローによるド派手アクションを得意とするタミル・テルグ映画界がリメイクするとどうなるのか!!…ってことはまあ、気にしなくても楽しめる痛快娯楽作でした。ハイ。

 "パワー・スター"の肩書きと共に登場する主役パワン・カリヤーン(*5)は、テルグのメガスター チランジーヴィーの弟(!!)となる役者兼映画監督兼脚本家兼プレイバックシンガー(政治家もやってたことあり)。その身のこなし、目の表情なんかは、活躍中のチラン兄貴の息子ラームチャランと似てる感じ。
 ヒロイン バーギヤラクシュミー演じるのは、タミルの"ユニバーサル・ヒーロー"カマル・ハーサンの娘(!!)の、女優兼歌手兼音楽家シュルティ・ハーサン。子役から映画界入りして、2009年のヒンディー語映画「Luck」以降主にテルグ語、タミル語、ヒンディー語映画界で(女優の他、作曲、歌手などでも)活躍している。
 敵役のギャングボス シダッパ・ナイドゥを演じたのは、主にボリウッドで活躍するアビマニュ・シン。眼力で言えば、本作ナンバー1の迫力を持ってましたわ。その眼力と迫力オーラ、チラン兄貴に一番近いキャストと違うかいおっちゃん? ブランコに乗りながら睨んでくる姿があんなに凄みがある人はなかなかいないでっせ。

 監督のハリシュ・シャンカルは、アーンドラ・プラデーシュ州カリームナガル(*6)出身の映画監督兼脚本家。十代の頃から劇団に所属して州内全域で活躍して周り、その経験(特に州内の各方言の体験)を生かして2003年公開作「Veede」のADとして映画界入り。脚本補佐や助監督を経て2006年「Shock」で監督デビューして、本作が3本目の監督作となる。

 お話の大枠は「ダバング」と一緒ながら、伝説的映画悪役"ガッバル・シン"と言うネーミングをクッションにして、リメイク元より話が色々整理されて見やすくなり、そこにテルグ特有のネタシーンがドカドカ入って来る感じ。大枠は元映画に従いつつ、台詞や小道具モチーフなんかをシンクロさせながらも全く別側面の映像効果を出してるあたり、職人的なこだわりも満載。
 ムサいおっさんヤクザが次々歴代アイテムソングでしりとりする所なんか、元ネタ知らなくても大爆笑だし(*7)、インド発祥のスポーツ カバディのアクションシーンなんてインド映画で初めて見たよ!
 「ダバング」より暴走してる楽しいシーンもあり、おとなしくなっちゃったシーンもありで、比較するとそれぞれの映画界の特色がすごーくよくわかるんではなかろか。

 それは役者それぞれにも言える事で、ヒロイン演じるシュルティ・ハーサンなんて美人度ではソーナクシーとタメをはれる(*8)ほどだし、演技力なら「ダバング」の頃のソーナクシーより断然高いから、色んなシーンで多種多様な表情を魅せてくれて嬉しい。んが、インパクトと言う意味では仏頂面しか出来なかったソーナクシーの方が遥かに上。演技力があるが故に、器用貧乏になってしまってると言う皮肉な感じになってしまっている(まあ、もともと役柄が仏頂面キャラを期待されての役だしねぇ)。あぁ、でもやっぱシュルティさんは寝顔もお美しくてスンバラしぃー(どっちやねん)


挿入歌 Akasam Ammayaithe (ねえ、青空が少女になったなら [きっとそれは君のよう])




受賞歴
2012 Hyderabad Times Film Awards 主演男優賞・音楽監督賞(デヴィ・スリー・プラサード)
2012 TSR-TV9 National Film Awards 男性プレイバックシンガー賞(ヴァッデパリー・スリニヴァス/Ey Pillaa)
2012 Mirchi Music Awards South 審査員選出ベストアルバム・オブ・ジ・イヤー賞・リスナー選出ベストアルバム・オブ・ジ・イヤー賞・批評家選出ベストソング・オブ・ジ・イヤー賞(Akasam Ammayaithe)・リスナー選出ベストソング・オブ・ジ・イヤー賞(Kevvu Keka)・ベストコンポーザー・オブ・ジ・イヤー賞(デヴィ・スリー・プラサード)
2013 South Indian International Movie Awards 監督賞・主演男優賞・主演女優賞・コメディアン賞(スリーヌ)・音楽監督賞(デヴィ・スリー・プラサード)・振付賞(ラーム・ラクシュマン)
2013 CineMAA Awards 主演男優賞・コメディアン賞(アンチャクシャリー・チーム)・監督賞・作品賞・振付賞(ガネーシュ)・編集賞(ゴウタム・ラージュー)
2013 Filmfare Awards South 主演男優賞・音楽監督賞(デヴィ・スリー・プラサード)・男性プレイバックシンガー賞(ヴァッデパリー・スリニヴァス/Pillaa)
2013 Santosham Film Awards 編集賞(ゴウタム・ラージュー)




「GS」を一言で斬る!
・今回憶えたテルグ語(「ダバング」にも出てくるってことはヒンディーとの共通単語?)。カモーシュ(黙れ)!!!!!

2014.8.15.

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*1 ヒンディー語娯楽映画の俗称。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 この前年の2011年には、タミル語映画リメイク「Osthe(頂点)」が作られていて、この映画でもアビナヴ・カシャプは脚本で参加している。
*4 「Dabangg 2」とは違うってことだよね!?
*5 本名 パワン・カリヤーン・コニダーラー。
*6 現テランガーナー州カリームナガル。テランガーナーは、2014年6月にアーンドラ・プラデーシュ州から分割され、インド29番目の州となった。
*7 知ってるとなお笑える。マードゥリーのMaar Dalaのマネなんて超注目!
*8 種類が違う美人なわけだけど…。