インド映画夜話

Gentleman  016年 144分
主演 ナーニ & ニヴェーダ・トーマス & スーラビー・プラニク
監督/脚本/台詞/原案 モーハンクリシュナ・インドラガンティ
"嘘か真か、善か悪か、被害者なのか加害者なのか…あの人はいったい誰なの?"




 米国からハイデラバードへと飛ぶ飛行機の中で、隣同士となったキャサリンとアイシュワリヤー(通称アイシュ)は意気投合し、暇つぶしにお互いの恋バナを語り始める…。

**********
 映像デザイナーのキャサリンには恋人ガウタムがいる。
 友人の結婚式で知り合ったこの男は、強引すぎる所はあるもののいつもキャサリンを見守るために行動し、彼女を恐喝してくる叔父ディヴィッド一党を鉄拳制裁して諦めさせてしまった。そこから次第に仲良くなっていく2人はガウタムの親への挨拶もすませ、キャサリンのロンドン研修に出発するその日、空港にてキスを交わして再会を約束して別れていったのだ…。

 一方のアイシュには、近日中に結婚予定のジャイラーム・ムンラプーリ(通称ジェイ)という婚約者がいる。
 有名な青年実業家であるジェイは、その名声からアイシュの父親の紹介で見合いが始まって、彼女の提案でタミル・ナードゥ州コダイカナルへ荷物なしのサバイバル・デートに出発した。様々な困難を協力して解決する2人はこの旅で本気で愛し合うようになり、真剣に結婚を約束したのだった…。
**********

 空の旅も終わり、2人が再会を約束しながら空港出口へと向かうと、迎えの男1人が2人に手を振ってきた。アイシュは語る…「キャシー、紹介するわ。彼が私の婚約者ジェイよ」しかしその時、その男を見て手を振り返してしまったキャサリンは驚きを隠そうと必死だった……なぜならアイシュを迎えに来たその男は、自分の恋人ガウタムと瓜二つの姿をしていたのだから!!
 疑惑を晴らそうと、すぐにガウタムの家へと向かうキャサリンだったが、今度はガウタムの訃報を知らされて…!!


挿入歌 Dintaka Dintaka


 別題「Nani Gentleman(ナーニのジェントルマン)」。
 「マッキー(Eega)」のナーニが1人2役を演じる、テルグ語(*1)サスペンス映画。
 2017年公開のヒンディー語映画「ジェントルマン(A Gentleman)」を始め、似た名前の映画は多数あるけれど、全て別物、のはず。

 「Grahanam(蝕)」で監督デビューした、モーハンクリシュナ・インドラガンティの7本目の監督であり、これまでタミル語(*2)やマラヤーラム語(*3)映画界で活躍していた女優ニヴェーダ・トーマスの、テルグ語映画デビュー作となった映画。
 インドと同日公開で、オーストラリア、米国などでも公開。
 2018年には、ベンガル語(*4)リメイク作「Villain(悪役)」も公開。

 インド映画お得意の1人2役による、瓜二つな人物の謎の行動によって盛り上がるドキドキのサスペンス劇なんだけど、見せ方というか映画構成が見事で終始目が離せない傑作になっている。
 お話としては、前半はヒロイン2人の恋バナ。中盤からキャサリンを主人公に恋人の死の真相追求のためにジェイの周辺を探るスパイ劇に変わり、そこに隠されていた真相が暴かれていく後半のどんでん返しによって、登場人物たちの感情の起伏を最大限に揺り動かしていく演出も見事。

 下町庶民の調子のいいロマンスストーカー男ガウタムと、セレブビジネスマンで何事も余裕な態度を見せる万能マンのジェイと言う、対照的なキャラを演じるナーニの演技力の軽快さも映画の魅力ながら、恋人の死を知らされて同時に現れた恋人そっくりの友人の婚約者の正体を突き止めようと動くキャサリンのハラハラ感も、ずっと目が離せない魅力満載。最初の恋バナの時のよくある「強気な都会娘」ヒロイン像をドンドン更新してよりパワフルなキャラへと変わっていく様は爽快でもありますわ!

 そのキャサリンを演じたのは、1995年タミル・ナードゥ州マドラス(現チェンナイ)のケーララ系の家に生まれたニヴェーダ・トーマス。
 人気子役としてTVドラマなどで活躍し、08年のマラヤーラム語(*5)映画「Veruthe Oru Bharya(役立たずの妻)」、タミル語映画「Kuruvi(鳥男)」の2本に子役出演して映画デビュー。前者でケーララ州映画賞の子役賞を獲得する。
 11年に、マラヤーラム語映画「Pranayam(愛)」「Chaappa Kurish(頭目たち)」、タミル語映画「Poraali(戦士)」に出演して正式に女優デビュー。「Chaappa Kurish」では主役級デビューも果たしている。16年の本作でテルグ語映画デビューとなり、国際南インド映画賞のテルグ語映画新人女優賞他を獲得して、活躍の場をテルグ語映画界にシフトさせている。

 本作監督を務めるモーハンクリシュナ・インドラガンティ(*6)は、1972年アーンドラ・プラデーシュ州西ゴーダヴァリ県タヌク生まれで、クリシュナ県ヴィジャヤワーダ育ち。
 両親及び祖父母共に作家としてテルグ語圏で活躍する家で育ち、芸術と英語、哲学の修士号を取得。プネーの映画&テレビ研究所の受験に落選した後、アーンドラ地方の文化研究のドキュメンタリー制作で助監督兼ライターとして働き、それを元にカナダのトロント大学に留学。留学中に書き上げた脚本を元に、大学を中退してハイデラバードで脚本の売り込みを開始。3年間の苦労の末に自費制作に踏み切り、04年に「Grahanam」を公開させて映画監督&脚本デビュー。ナショナル・フィルム・アワード新人監督賞他多数の映画賞を獲得する。3本目の監督作となる08年の「Ashta Chamma」では、本作主演のナーニの映画デビューを飾りつつ、アッキネンニー注目家庭映画賞他も受賞している。
 以降、監督兼脚本家としてテルグ語映画界で活躍中。

 セカンドヒロインになってるアイシュ役には、本作の翌年公開作「Okka Kshanam(リア・ライフ)」に主演していたスーラビー・プラニク(*7)が配置され、自身の恋バナシーンではきっちりヒロインとしての存在感を発揮するものの、中盤以降はセレブ妻の枠内に留まってしまった感も強く、キャサリン役のニヴェーダにお株を取られてる感じ。
 その分、キャサリンとガウタム、ジェイの関係性の変化は濃密で、それぞれにガウタムのストーキングエピソードが伏線として機能する後半のどんでん返しの爽やかさがスンバラし。全てが明確になった瞬間の、「じゃあ今までの登場人物たちが抱えてきた思い・感情の裏側には、こんな側面があったって言うのか!」って驚きは、何度も本作を見返したくなる中毒性を発揮してくれますわ。

 瓜二つの恋人の男性、と言う対比を強調するためか自然とそうなってしまうのか、動と静のヒロインの態度の違いや、同じ都会人ながら庶民とセレブの生活格差もさりげなく描写されたりと、2組の恋人たちを軸にした対比構造が構築されているところも見どころ…でしょうか。意図的と言うか、この手の話を作り込んでいくとそうせざるを得ない、って感じもしないでもないけれど。

 それにしても、アイシュ&ジェイのコダイカナル旅行を見てると、テルグ人はタミル人をどんな奴らだと思ってるんやろか…と言いたくなったりならなかったり…w

挿入歌 Saturday Night Fever (サタデー・ナイト・フィーバー)


受賞歴
2017 Nandi Awards 審査員特別賞(ナーニ)
2017 SIIMA (South Indian International Movie Awards) テルグ語映画デビュー女優賞(ニヴェーダ・トーマス)


「Gentleman」を一言で斬る!
・上司の弱みを見つけて機密情報をコピーする、というときに取る手段が「上司がプライベートで作ったラブソングミュージカル動画を見つけてくる」ってさすが!

2021.11.5.

戻る

*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 南インド ケーララ州の公用語。
*4 北東インド 西ベンガル州とトリプラ州の公用語。
*5 南インド ケーララ州の公用語。
*6 別名モーハン・クリシュナ・インドラガンディ。またはインドラガンディ・モーハン・クリシュナ。
*7 映画によって、「スールビー」とか「スーラビー」ともクレジットされる。