インド映画夜話

Ghajini (2008年ヒンディー語版) 2008年 183分
主演 アーミル・カーン & アシン & ジヤー・カーン
監督/脚本 AR・ムルガダース
"ガジニーを殺せ! 彼女はヤツに殺された! 復讐を!! …復讐を!!!"







 その日、医学生スニーターは脳医学研究の一環として、特異症例のサンジャイ・シンガーニヤーの調査を始めていた。治療データによると、彼は頭部負傷により15分間だけしか記憶を維持できなくなっていると言う…。

 そのサンジャイは、毎朝自分の部屋にある無数のメモから記憶を再構成し、記憶障害発症の原因となったある殺人事件の犯人を捜す日々を続けていた。
 彼は、身体中の入れ墨メモ・写真メモとインスタントカメラを駆使して記憶障害と戦いながら、犯人と目される"ガジニー"の部下を次々と殺害して、彼らの私物から"ガジニー"の所在と、記憶から欠落したその顔を突き止めようとする。
 サンジャイが起こす殺人事件を調べていたアルジュン警視は、強行捜査でサンジャイの自宅ビルで彼を捕縛することに成功するが、サンジャイの日記から彼の過去を知ることに…。

******
 サンジャイ・シンガーニヤーは、インド最大の携帯電話会社エア・ボイス社長。
 ある日、自分の恋人だと騙って芸能ニュースを飾ったCMプロダクション所属の女優の卵カルパナの嘘に抗議しに行って、逆に彼女の快活さ・お人好しさ・困った人を見捨てない素直さを目撃して恋に落ち、正体を隠しつつ彼女と付き合うように。
 携帯会社との立ち退き交渉を誤解した同僚たちが、サンジャイの名声に惹かれて彼女を持ち上げたために、カルパナもその気になって嘘を演じていたわけだったが、会社の新年会にゲストとして招待されたサンジャイは、その帰り道に彼女に正式に結婚を申し込む…。
******

 彼の2006年の日記はここで終わっている。アルジュンが続きを探す間もなく、気絶から回復したサンジャイは彼に襲いかかる…!!


プロモPV版 Latoo (狂気)

*踊ってるのは、スニーター演じるジヤー・カーン。
 医大の学園祭での出し物と言うシーンなんだけど……なにこのプロ顔負けのPV。



 本作は、2000年のハリウッド映画「メメント」を翻案した2005年のタミル語映画「Ghajini」の、ボリウッド版リメイク(あぁ長い)。
 スタッフとキャストのほとんどは、元のタミル版「Ghajini」を引き継いでいるそうな。コリウッド(=タミル語映画)版とボリウッド版で同じヒロインを演じたアシンは、これ1本でヒンディー語圏の新人女優賞を総なめにして、ヒンディー映画界で一躍有名人になった作品で(*1)、08年末に公開されるや一躍大ヒットしその年の話題をさらっていった大傑作!
 ある程度の変更はあるものの、かなりコリウッド色の強いボリウッド作品。

 ボリウッドの劇的変化は90年代末期に起こったわけだけど、グローバル人気に乗ってより絢爛豪華に・より欧米(非インド)的に変化し続けて10年もすると、さらに新たな変化の波がやってくる。
 1つは、「マイ・ネーム・イズ・ハーン」や「カイト」のようなボリウッドの急速なハリウッド化。もう1つは本作のような、タミル映画界を代表とする南インドテイストとボリウッドの合流である。

 前者は、マーケットの拡大とともに国外の観客を想定した、世界映画界への挑戦と言う意味合いもあるだろうけど、それと呼応するかのように、対極にあるナショナルコミューン的な南インド独特の激しさやインド文化激賛をおおらかに歌い上げる映画の登場とその大ヒットは、国内向け映画だからこそだろうけれど、ボリウッド業界そのものがかなり自覚的にその進路を模索してる感じではある。まさに、インド映画界の層の厚さを見せつけられる感じ。
 こうした潮流の筆頭に立ったのが、「ラガーン」以降次々と新機軸映画を製作するアーミル主演作の「Ghajini」である!(…と思う)

 前年に監督としてもデビューしたアーミルだけれども、この映画のサンジャイを演じるにあたり数ヶ月に渡る猛特訓でたぷんたぷんに緩んだ身体を鍛えに鍛え、自らマッスルボディを作り上げてしまったからもう大変。復讐の鬼と化すサンジャイは、まさに鬼神の如くスクリーン上を暴れ回り、その肉体美を惜しげもなく披露してくれる。…と言うか、よくもまぁここまで短期間で鍛えたよなぁ。変な後遺症とかないのかなぁ…と逆に心配になりますゼ、アーミル兄ぃ。

 お話は、現代のサンジャイの復讐劇を主軸に、アルジュン警視やスニーターの調査で浮かび上がるサンジャイとカルパナの過去の記憶が合間合間に差し挟まれる構成。
 「メメント」みたいな映像的パズルとかサイコサスペンス的なものは薄く、記憶障害に何度も苦しめられる中でなかなか達成できないガジニーへの復讐を、ハラハラしながら追いつつ、なにがサンジャイをそこまで追いつめたのかの真実が徐々に浮かび上がっていく構成。
 過去の記憶が、華やかに幸せそうであればあるほどに、現代の鬼気迫るサンジャイの悲哀が強まっていく。その辺の感情的なギャップの強さが印象的で、「これは必見!」とインドで話題を独占したと言うのもよくわかる。
 まぁ、15分ごとに来る記憶喪失が、結構ご都合的とか言えば言えるけど。

 ヒロインは、サンジャイの過去編ではアシン演じるカルパナ。現代編ではジヤー・カーン(これが映画出演2本目!)演じるスニーター。音楽を担当するのは大御所A・R・ラフマーンと言う所も要チェック!


挿入歌 Aye Bachchoo (ねえ君 [聞きなさい])

*売れっ子女優を夢見るカルパナの妄想全開映像!


受賞歴
2009 Star Screen Award 新人女優賞(アシン)
2009 Stardust Award 明日のスーパースター女優賞(アシン)・新人監督賞・新作賞
2009 Filmfare Award 新人女優賞(アシン)・アクション賞
2009 IIFAインド国際映画批評家協会賞 女優デビュー賞(アシン)・アクション賞・録音賞・特殊効果賞
2010 Apsara Film & Television Producers Guild Awards 作品賞・監督賞

2012.1.21.


戻る

*1 もともと、テルグ・タミル映画界で主演女優賞歴もある人気女優だけど。