インド映画夜話

ならず者たち (Gunday) 2014年 152分
主演 ランヴィール・シン & アルジュン・カプール & プリヤンカ・チョープラ
監督/脚本/原案/台詞 アリー・アッバス・ザファール
"彼女がどっちを選ぼうが、俺たちの友情は不滅だ"




 1971年12月16日。第三次印パ戦争が終結し、新たな国バングラデシュは独立を勝ち取った。
 数千の難民が行き場を失い、戦争の惨禍を諸外国が忘れ去る中、混乱のダッカにいた孤児…ビクラムとバーラ…のもとにも、戦後の暗雲が襲い始める…。

 2人の孤児は、凄惨なダッカの現実から逃げ出してカルカッタ(現コルカタ)へと落ち延びる。そこで、強奪した石炭で荒稼ぎしながら成長していくビクラムとバーラは、それを元手にカルカッタ有数のならず者に成長。貧困層に仕事を与え、病院や学校を建設する英雄と祭り上げられるものの、数々の違法行為を追求する警察は2人の逮捕のため、サタジット・サルカール警視正を招聘する。
 その頃、自分たちが資金援助したキャバレー”クラブ・カルカッタ”で出会ったダンサー ナンディタ・セーングプタと知り合った2人は、同時に彼女に夢中になってしまって…。


挿入歌 Jashn-E-Ishqa (愛の喜びを祝え)


 タイトルは、ヒンディー語(*1)で「やくざ者」「乱暴者」「まぬけ」の意味を持つ単語の複数形…だそう。
 アラブ首長国連邦ドバイでのプレミア公開の翌日、インド本国と同日公開でオランダ、パキスタンでも公開。インド国内では、ベンガル語(*2)吹替版も公開された。
 日本では、2015年のインド映画同好会 大映画祭にて「ならず者たち」のタイトルで上映。2018年には、ICW(インディアン・シネマ・ウィーク)でも同じタイトルで上映された。

 70年代〜80年代のコルカタ周辺のベンガル地方を舞台として、バングラデシュ独立戦争によって人生を狂わされた孤児たちの友情を描いていくクライムアクション映画。2014年度最高売上を記録したボリウッド(*3)映画となった。
 日本では、一瞬だけ「映画データベースサイトIMDbで"最も悪評を集めた映画"」としてニュース紹介されてましたけど、劇中で「バングラデシュ独立が、インド軍の介入によってなされた」とされていることへの抗議と、その被害状況が「インド側の視点で描かれすぎている」事に怒った政治団体の組織票による結果そうなったと言う……複雑な社会背景の一端が明るみに出ちゃったニュースでしたわ。ツイッター上でも"GundayHumiliatedHistoryOfBangladesh"のハッシュタグのもと、抗議のキャンペーンが展開していたと言う。
 製作会社のヤーシュ・ラージ・フィルムスは、この件に関して公式に謝罪声明を発表している。

 主人公の孤児2人の少年時代を演じる、ダルシャン・グルジャール(少年ビクラム役)とジャイェーシュ・ヴィジャイ・カルダク(少年バーラ役)のふてぶてしさと愛嬌の振りまき具合も素晴らしく、完全に映画を乗っ取ってる感じ(*4)。
 その少年時代の無邪気さをそのままに、体格だけ大人に成長した2人の友情が、1つの愛によって、社会状況の変化によって、法の定める正義によって小さなヒビを入れられ、そこから巻き起こる衝突の数々によって大きな傷へと成長して苦しめられていくさまの、まーーーーー儚く力強く、泥臭くもありながらなんとエネルギッシュなことか。
 前半のナンディタとの、積極的ながら不器用な恋愛模様も可笑しく楽しいし、それ自体が伏線となって後半の怒涛の展開へと流れていく、物語進行の巧みさも見事の一言。古き良き滅びの美学と言いますか、青春映画の王道的な展開をここまで突き詰めていく手法は、ただただ感心してしまいまする。

 本作の監督&脚本を務めるアリー・アッバス・ザファールは、1982年ウッタラーカンド州デヘラードゥーン生まれ。
 デリー大学で化学を修了したのち、04年から複数の映画の助監督や美術監督、資産管理などを務めていったのち、11年のヒンディー語映画「Mere Brother Ki Dulhan(我が弟の結婚式)」で監督&脚本デビューする。本作はこれに続く2作目の監督作で、どちらも大ヒットを飛ばしたことから、ヒットメーカーの仲間入りを果たし、続く「スルターン(Sultan)」、「Tiger Zinda Hai(タイガーは生きている)」ではサルマン・カーン主演映画の監督を手掛け、やはり大きな反響を呼んでいる。
 18年のテヘラン国際スポーツ映画&TV祭にて、「スルターン」で"語り継がれる名作監督賞"を獲得している。

 2人の親友の間に入ったことで友情を破壊する、魅惑の美女ナンディタを演じるプリヤンカなんて、この映画と同年公開の「メアリー・コム(Mary Kom)」でのアスリート体型と同一人物とは思えないモデルスタイルを維持していて、その変身ぶりの凄さを見せつけられるよう(*5)。
 炭鉱を舞台に繰り広げられるラストアクションなんかは、シャールク&サルマンの名作「カランとアルジュン(Karan Arjun)」を彷彿とさせつつ、より絡まり合った情念の対立具合が、余計に物語を劇的に変えていく。兄貴分のビクラムは、どこまでも弟分を信頼し保護し守り抜こうとするし、弟分のバーラは、自分の暴走する情念をしっかり兄貴分が手綱を占めてくれていると信頼し続けていく。世の中に裏切られ続けた孤児の義兄弟が互いに支え合う姿のたくましさと美しさ、それと対比されるサタジット・サルカール警視正率いる警察たちの陰謀とどんでん返しの計略が、一気にラブコメやマフィア映画的なお話をニューシネマ的なものへとひっくり返し、2人の男の青春劇へと昇華させる。その変幻自在なエモーショナル演出は、本当にお見事!

挿入歌 Tune Maari Entriyaan (君が、心に飛び込んできて [鐘を鳴らしている])


受賞歴
2014 BIG Star Entertainment Awards アクション映画主演男優賞(アルジュン)
2015 Filmfare Awards アクション賞(シャーム・カウシャル)
*シャーム・カウシャルは、2007年にチン・シウトンとともに【クリシュ(Krrish)】で同じアクション賞を受賞したのち、13年の【Gangs of Wasseypur】で単独受賞。15年の本作から17年まで3年連続でフィルムフェア・アクション賞を受賞している。


「ならず者たち」を一言で斬る!
・ボースとかバッタチャルヤーとかセーングプタとか、ベンガル映画界でよく聞く名前が登場人物に多用されてるのは…そういうネタかいな?(単によくある名前、ってだけかもですが)

2018.10.19.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 北東インドの西ベンガル州とトリプラ州の公用語。
*3 ヒンディー語娯楽映画界を指す俗語。
*4 本作以降も、映画やTVドラマで活躍中らしい。
*5 こっちの撮影の方が先?