インド映画夜話

インドの仕置人 (Hindustani) 1996年 185分
主演 カマル・ハーサン & マニーシャー・コイララ & ウルミラー・マートンガル
監督/原作/脚本 S・シャンカル
"ナマステ御免! 腐敗進むインド官僚の殺人事件! インド人が愛したインドはどこに!"




挿入歌 Kappaleri Poyaachu(オリジナル・タミル語版)


 腐敗し賄賂が横行するインドの官僚界…。
 その腐敗役人が次々と殺害される事件が発生。警察が捜査を開始するが、なかなか犯人を見つけることができない。

 チャンドゥは運輸省に勤める公務員候補。毎日毎日、免許申請に群がる人々と大量の書類を相手にしている。上司の娘の医大生スワプナや、恋人の青十字(動物愛護団体)メンバー イスワリャと付き合いながら、出世の道を目指して頑張っていた。
 ある日、イスワリャの飼犬クリシュナが、スワプナの車に轢き逃げされる。彼女はチャンドゥに犯人捜査を依頼するも、チャンドゥは取り合ってくれない…。

 同じ頃、警官隊のデモ鎮圧に巻き込まれて露天の修理屋が殺されてしまう。修理屋の妻グラボは、生活保護金を申請するために役所を訪れるが、証明書を発行するだけで多額の賄賂を要求され、長期間の滞在費と交通費もあって全財産を使い果たしながら、最後の役人に渡す賄賂がないばかりに全書類を破棄されてしまう! グラボは、あらん限りの叫びを上げて役所を呪うが、その叫びはむなしく響くだけだった…。

 こうした庶民の恨みを晴らし、役人を次々と殺害する犯人は、かつてのインド独立の闘士セナパティ。彼は、チャンドゥの実の父親だった!!
 長い血の闘争をくぐり抜けて勝ち取ったインドの独立にもかかわらず、インド人自身が英国に変わってインド人を苦しめる様に怒るセナパティは、"ヒンドゥスターニ(=インド民族)"を名乗り、テレビ局を占拠して全インド政治家を恐喝! かつて、重傷の娘を放置して賄賂を要求した医師を誘拐し、殺す様子を生中継させる!!
  セナパティの戦いの矛先は、やがて汚職に手を染め始めた息子のチャンドゥにも向けられて…。


挿入歌 Maaya Machindra



 タミル(南インドの公用語の1つ)映画界で1番の人気監督S・シャンカルがボリウッドに乗り込む「Jeans」の1つ前に作った作品。日本語版DVDで発売された本作品は、タミル映画「Indian」のヒンディー吹替版である。

 怪しい暗殺拳法を使う仕置き人の、なんだかよくわかんない派手な効果音とアクションが、訳の分からん迫力を醸し出しているけど、仕置き人セナパティとその息子チャンドゥを、南インドの名優カマル・ハーサンが1人2役で演じる(しわがれ声がちょっとざーとらしい)。最初、同一人物だなんて全く気づかなかったゼ。

 タミル映画と言えば、1995年制作の「ムトゥ」があり、日本で公開されるや大きな反響を呼んでインドブームを作り上げたわけだけど、ボリウッドとはまた微妙に雰囲気が変わる映画世界を作っている(*1)。
 その中で、監督作全部が大ヒットを飛ばしていると言う人気監督シャンカル映画の1つが、この「Indian(ヒンディー語に吹替えられたタイトルが"Hindustani")」である。

 なんとなく、ハリウッドの影響がチラホラ見えるように思えるけども(*2)。暴力シーンが派手と言われる南の映画にしては、アクションシーンはそんなでもない(ただ、変な効果音とカメラアングルで、妙な緊迫感はある)。

 前半は、伏線を貼りつつ汚職役人への悲痛な庶民の恨み節が叫ばれたり(*3)、チャンドゥをめぐるヒロイン同士のドタバタ、イスワリャの動物保護…など、詰め込むだけ詰め込んでいて、話のテーマがボケて見える…んだけど、中盤から雰囲気が大きく変わる。
 中盤はセナパティのインド独立の戦いの回想シーン。英国支配の元に苦汁をなめるインド人の様子と、そこから独立を果たして婚約の約束をしていたアミルサヴァリと再会するまでを描き、ものすごーく燃える展開! 画面も往年の名作映画よろしくモノクロで描かれ、インド独立のミュージカル"Kappaleri Poyaachu(ヒンディータイトル"Kashtiyan Bhi Ladh Gayi")"から一気にカラフルな画面になっていく所なんか秀逸!
 若い頃のセナパティが同じカマル・ハサンなのはわかるけど、若い頃のアミルサヴァリを演じてるのは同じ女優のスガンヤなのか? インドの役者は、役によってどんどん顔が変わるのがスゴいわぁ。インド独立が、インドにとってどんなに悲願であったのかをA・R・ラフマーンの音楽が十二分に語ってくれる。
 そして後半は、腐敗の度を強めていくインドの役人たちへの復讐劇となっていき、カマル・ハーサン同士の父子対決なんかも見られるあたり、大道芸的な多彩さをバンバン見せてくれて楽しい。

 ちなみに「ナマステ御免」と言う文句は、日本語版DVDの販促キャッチコピーに使われてる台詞なので、ご容赦!


挿入歌 Kashtiyan Bhi Ladh Gayi (愛する者よ、戦いは終わりを告げた)

 タミル語で歌われた「Kappaleri Poyaachu」のヒンディー吹き替え版の歌。
 映像は全く同じながら、タミルとヒンディーの語感の違いをお楽しみください。


受賞歴
1997 National Film Awards 銀蓮主演男優賞・銀蓮美術監督賞・銀蓮特殊効果賞
1997 Filmfare Awards South タミル映画主演男優賞

2010.5.1.

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*1 映画製作が、タミルナードゥ州チュンナイのコーダーンバーッカムに集中している事から、俗に"コリウッド"と呼ばれているそうな。

*2 冒頭のシーンは「ダイヤルM」かしらん…とよけいな邪推

*3 修理屋の妻グラボの嘆きのシーンはかなり長く、状況説明が詳細。その叫びに、観客が同調して合いの手を入れてくれ! …と言わんばかりである。