インド映画夜話

Happy New Year 2014年 180分
主演 ディーピカ・パドゥコーン & シャー・ルク・カーン(製作も兼任)
監督/脚本/原案/振付 ファラー・カーン
"世の中には勝者と敗者しかいない。…しかし人生は、敗者にも第2のチャンスをくれるものさ"






 ついに、第10回ダンスW杯選手権(WDC)ドバイ大会決勝が迫る!!
 そこに出場するはずのインド代表メンバーはしかし、出番を前に突如姿を消してしまった…。

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 事の発端は、このWDC開催ニュースを見たチャーリー(本名チャンドラモーハン・マノハール・シャルマー)から。
 彼は、この選手権を主催し、大会期間中に会場に設置される30億ルピー相当の9個のダイヤモンド所有者である、富豪チャラン・グローヴァーへの復讐を計画していた。なぜなら8年前、そのダイヤを貯蔵する最新鋭金庫"シャーリマー"を開発した父親が、卑怯にも顧客チャランの計略にかかってダイヤ強奪の罪を着せられた上に金庫システムの全てを奪われ投獄させられたのだから…。
 以降、エリート人生から転落して"盗人の息子"と罵られながら生きて来たチャーリーは、復讐の機会をずっと待っていたのだ。彼はまず、同じくチャランによって人生を狂わされた友人たちを招集する。
 兄弟同然の軍隊時代の友人で、爆破処理の専門家ジャグ(本名ジャグモーハン・プラカーシュ)。
 父の親友で仕事仲間だった金庫設計技術者、"太った電灯"のタミィ(本名テームトン・イラーニー)。
 ジャグの親戚で孤独な天才ハッカー少年、ローハン・シン。
 チャランの息子ヴィッキーと瓜二つの天涯孤独な街の兄貴ナンドゥ・ビデー。

 彼らと共に"チーム・ダイヤモンズ"を結成し、年末開催のWDC本戦に参加しながらその会場地下に設置されると言う金庫"シャーリマー"ヘ忍び込み、ダイヤを強奪してチャランの人生を破滅させようと盛り上がる5人だったが……問題が1つ。チームの誰も、ただの一度もダンス経験なぞ持っていなかったのだ!!

挿入歌 India Waale ([さあ皆叫べ! 歌え]インド人よ!!)



 07年の大傑作「恋する輪廻(Om Shanti Om)」以来のディーピカ&シャールク&ファラー監督が再結集し、大々的なドバイロケを敢行したヒンディー語(*1)映画登場!

 インド本国では、ヒンドゥー教の正月にあたるディワリ(*2)に、タミル語吹替版とテルグ語吹替版が同時公開。批評家からはウケが悪かったらしいけども、観客からは大絶賛されて様々な記録を破る世界的大ヒットとなった。
 ファラー監督のツイートによれば、米国の映画芸術科学アカデミー図書館が本作の脚本を収蔵したとか。

 前半は、復讐に燃えるチャーリーがそれぞれのチームメンバーを迎え入れて始まる人生上の敗者復活戦と、ダンス未経験者が巻き起こす軽快なドタバタコメディ&モーヒニー登場によるラブコメ劇。
 ドバイに舞台を移して始まるWDC本戦の後半は、スパイ大作戦ばりなダイヤ強奪計画の準備と発動によるハラハラし通しサスペンスアクションと、インド代表と言う国旗と国民の期待を背負ってのW杯での"チーム・ダイヤモンズ"の活躍を描く愛国心あふれるスポ根ものが、表裏一体の同時進行で展開して行く。
 わりと緻密なダイヤ強奪計画の様子と、WDC(*3)に燃えるインド人を初めとする世界中の人々のダンスに対する熱気・人情・愛国心が爆発するダンスパフォーマーたちの舞台裏が、それぞれ違和感なく1つの映画にまとまって描かれて行く演出術・脚本術は見事。怒濤のラストへ突き進む緊張感とド迫力映像の洪水、そのテンションマックスな全ての感情を歓喜させる数々の演出術は、まさに一見の価値あり!!

 監督デビュー作から、一貫してハリウッド化して行くボリウッドに対するアンチと言うか「現代インド映画的なもの」にこだわった演出を施すファラー監督作よろしく、3時間と言うインドの生活文化に根ざしたタイムスパン(*4)や、感情表現や妄想表現を多用したダンスシーン初め、コメディやサスペンスの作り方自体にもボリウッド文法を意図的に多数とり込み、かつハリウッド的な印象も加味された本作は、ワールドワイドとインドローカルが絶妙にミックスされた一級娯楽作になっている。まさに劇中にモディ首相のそっくりさんに言わせてるが如く、インドと言う国もインド映画界も「新時代が来た」ことを証明すると共に、その波を自分たちが作っているのだと言う自負に彩られた映画である。
 さらに、今作も今までのファラー監督作同様、さまざまな過去のボリウッドネタや業界人たちのゲスト出演(かなりギリギリな)ネタ多数。ボリウッド業界を知れば知るほどドンドン面白くなって行く常習性の高い映画ですが、そこに加えて香港映画やハリウッド映画ネタも入れて来る所はサービス精神か?
 劇中、前回WDC優勝と言うチーム・コリアが、北朝鮮旗を背負って踊るのに会場入場時には観客が太極旗振ってたり、格闘ゲームよろしくチーム・コリアのリーダーとチャーリーがケンカする所に「あのブルース・リーがオレたちのリーダーをやりやがった!」「オレたちのジャッキー・チェンを信じな」とツッコんでいるのはご愛嬌(*5)。ま、チャーリーがチーム・コリアと話していた言葉が、ハングルっぽくは聞こえるような聞こえないようなって感じなのがアレだけどもw

 監督を務めたファラー・カーンは、1965年ムンバイ生まれの振付師兼映画監督。
 親戚に脚本家ホーニー・イラーニーや女優デイジィー・イラーニー(*6)、映画監督のゾーヤー・アクタルとファルハーン・アクタル姉弟がいる。ファラーの弟サジード・カーンも俳優兼監督で活躍中(*6)。
 両親の離婚後、弟と離ればなれになりつつムンバイの大学で社会学を学ぶ中、マイケル・ジャクソンの"スリラー"に衝撃を受け独学でダンスを修得。ダンスグループを結成して81年に「Kahan Kahan Se Guzar Gaya」でダンサーを務め映画デビュー。以降、映画、TV、PVのダンスメンバーとして参加しながら、92年の「Jo Jeeta Wohi Sikandar(勝利した彼こそが、アレキサンダー大王)」で振付師サロージ・カーンが急遽降板した事でその仕事を引き受け、それ以後振付師として大活躍。100本以上の映画に参加し数々の映画賞を獲得していく。
 04年には、親友シャールク・カーンの協力のもと「俺がここにいるから(Main Hoon Na)」を世に送り出して監督&脚本家デビュー。数々の映画賞を獲得して一躍人気監督に登り詰めた。その後、この映画で編集を務めていたシリーシュ・クンデールと結婚。07年には新鋭ディーピカ・パドゥコーンのボリウッドデビューを飾った「恋する輪廻(Om Shanti Om)」を、一時期シャールクと不仲になっていたと言う10年にはアクシェイ・クマールを主演に迎えた「Tees Maar Khan(30人殺しのカーン / 別意:大ボラ吹き)」を監督。12年には主演女優を務めた「Shirin Farhad Ki Toh Nikal Padi」、プロデューサーを務めた、夫シリーシュ監督作「Joker(ジョーカー)」を挟んで、14年公開の本作が4本目の監督作となる。

 トップ・クレジットのわりには、そこまで出ずっぱりでもないモーヒニー・ジョーシー役のディーピカは、本作公開の14年にはタミル語3Dアニメ映画「Kochadaiiyaan(長鬣の王)」、英語映画「ファニーを探して(Finding Fanny)」にも主演。本作では、そこまで主演と言う位置づけではないもののダンスも演技も存分にその存在感を発揮。ただのヒロイン止まりかと思ってたら、最後にいいとこ持ってってくれたので世は満足じゃ。フォッフォッフォ。
 主役チャーリー役のシャールク・カーンは、14年は「Bhoothnath Returns(帰って来た亡霊王)」にカメオ出演しているくらいで、完全に本作1本に全力投球する年となった…のか? メッシュ入りボサ髪&髭は、スチルで見た時は「うーん?」って感じだったのに、いざ本編映像見たらもうそれ以外が考えられないカッコ良さだから困る。
 その他出演者は、ジャグ役にソヌー・スード。タミィ役のボーマン・イラーニー。ナンドゥ役のアビシェーク・バッチャン。
 ローハン・シン役のヴィヴァーン・シャーは1990年ムンバイ生まれ。父親は名優ナセールッディン・シャー。母親もまた名優のラトナ・パタック。兄に俳優兼ミュージシャンのイマード・シャー、異母姉に女優ヘーバ・シャーがいる。11年の「7 Khoon Maaf(許されし7つの罪)」で俳優デビューし本作が2本目の出演作。
 気になるチーム・コリアの面々を演じた俳優だけど、情報が出て来てるのは、NYの中国系家庭生まれでデリー育ちの振付師兼ダンサー兼俳優のジェイソン・タムと言う人だけ…ですな(*7)。いちおー「ノースコリアメンバーのチーム・コリア」と言ってたけど北朝鮮と韓国の区別がついてるんだかついてないんだかな劇中の扱いは、インドの南北融和を進めるボリウッド業界にあって、同じようにノースとサウスに別れるコリアの融和にインドの一体化を乗せてみました的な重いコンセプトを背負ってたんだったら……スゴいんだけどなあ(絶対違うw)。


挿入歌 Lovely (ラブリー)

*OPクレジットでは一番最初に表記されるディーピカ初登場シーンにして、映画のファーストナンバー! 劇中では開始50分過ぎにようやく突入するミュージカルシーンってことで、この辺もファラー・カーンの焦らし演出の冴えが光る見所シーン!!
 本作のディーピカの役名"モーヒニー"は、かつてのボリウッドの女王マードゥリー・ディークシトの代表作の1つ【Tezaab(酸)】のマードゥリーの役名に因んだもの。このシーンのディーピカ登場シーンも、【Tezaab(酸)】のマードゥリー登場シーンへのオマージュなんだそうな。





受賞歴
2014 Stardust Awards 批評家選出女性プレイバックシンガー賞(Lovely / 【Ragini MMS 2】のBaby Dollと共に)・読者選出フィルム・オブ・ジ・イヤー賞・読者選出夢の監督賞・読者選出男性スター・オブ・ジ・イヤー賞(シャールク)・読者選出女性スター・オブ・ジ・イヤー賞(ディーピカ / 【Finding Fanny】と共に)・読者選出スリラー/アクション男優賞(シャールク)
2015 Apsara Film Producers Guild Awards ホール・オブ・フェイム(表敬)賞・助演男優賞(アビシェーク・バッチャン)
2015 Bollywood Hungama Surfers' Choice Music Awards 歌曲銅賞(Manwa Laage / ヴィーシャル・ダッドラーニー & シェーカル・ラヴジアーニー & イルシャード・カミル & シュレーヤー・ゴーシャル & アリジット・シン)
2015 Screen Weekly Awards 読者選出主演男優賞・読者選出主演女優賞(【Finding Fanny】と共に)




「HNY」を一言で斬る!
・"チャーリー"と言う名前からして、『チャーリーズ・エンジェル』ヘの言及はあるだろうと予想できたけど、まさかさらに昔の映画オマージュに結びつけるトハ!!w

2015.12.30.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 10月後半〜11月の新月を始まりとする5日間続く秋の新年祭。その前後期間にも各地方や宗教・暦のお祭りが多数集中する。
 映画界ではイスラム暦のお祭りイード期間と共に毎年最注目大作が公開される時期。
*3 ルール的にどうなってるのかって言う疑問はあるも。
*4 実際には色々な事情で時間調整されてギリ3時間に届かない所まで調節されたんだそうな。
*5 このシーンのチャーリーが、ブルース・リーよろしく黒ラインの入ったイエロートレーナーパンツはいてるのがもう、ねw
*6 本作にも出演。
*7 シャールクと対決するリーダー役? ミスター・フイ・チュクとか呼ばれてたけど…。