インド映画夜話

Hum Tum 2004年 143分
主演 サイーフ・アリ・カーン & ラーニー・ムケルジー
監督 クナール・コーリー
"君と僕。1度の出会いで十分な人もいれば、なんど出会っても気づかない人もいる…"






 "その昔、神は世界を創り、そして休息した。
神は男を創り、そして休息した。
神は女を創り、そして…
その時から、世界は誰も休息できなくなってしまった!!"

 大ベストセラーとなった恋愛風刺マンガ「ハム・トゥム(僕と君)」。
 その作者カラン・カプールは、出版講演会でマスコミから「貴方の恋愛経験をお聞かせ下さい」と言われ、マンガを描く原動力となった9年前からの思い出を語り始める…。

 学生時代のカランは、アメリカ留学のために乗った飛行機で、隣にいた少女リアー・プラカーシュと知り合う。中継地のアムステルダムで、乗り継ぎの間の時間にリアーとのデートに成功するカランだったが、皮肉屋でお調子者のカランと神経質なリアーとでは衝突が激しく、ついには勢いでキスしてきたカランにリアーは大激怒! そのままNYの空港で別れてしまった。

 しかし、2人はその後も偶然の出会いを繰り返す。
 NYではデート中のカランを見つけたリアーが、カランの相手にアムステルダムでの一件を暴露。インドに戻ってみれば、結婚式業者の母親の手伝いをしているカランの前に現れたのは、花嫁のリアーだった!
 出会うたびに周りで騒ぎが起きる2人は、ケンカし合いながらもなんだかんだと友情を深めて行く…。

 そんなリアーとの奇妙な友情をヒントに、マンガ「ハム・トゥム」で漫画家の道に進むことになったカランだったが、別居中の父を訪ねにパリへと向かう列車の中で、またもリアーと再会する。
 しかし、リアーはこれまでの明るさがなく、暗く沈んだままカランの前から去るのだった…。


挿入歌 Gore Gore (チョコレート・ヒーロー[男は恋が怖い怖い])

*「世の中のラブストーリーなんて、悲恋で終わるか結婚式で終わるかだろ? それはつまり、結婚した後は愛がなくなるからさ」
 …とうそぶくカランへ、花嫁リアーが反撃。
「皇帝シャー・ジャハーンが、奥さんのムムターズマハルに送った愛の形はなに? (国宝の)タージマハルよ!」
 ラーニー姉様、チョーカッコええー!



 原題の意味は「僕と君」。ラブコメ映画の傑作「恋人たちの予感」にインスパイアされた作品。

 大ヒットマンガ(comicと言うよりcartoonの方ね)の裏に隠されたラブストーリー…と言うことで、偶然の出会いを繰り返す男女の「友情」が、だんだんと「愛情」に変わるさまを描く…と言う意味では、ロマンス映画の王道。

 お調子者で恋愛そのものを小馬鹿にしてるカランと、お嬢様然としていて潔癖性気味のリアーと言う対極のキャラクター同士の、時にコミカルで時にシニカル、時に哲学的な会話劇が、テンポよくダダダダっと映画全編に渡って展開されるお洒落映画。
 そう言う意味ではたしかに「恋人たちの予感」と構造が似ている。あれは「男女の友情はありかなしか」談義を延々語って行くことで、話が進んでいたけども(*1)。

 合間合間に、マンガ「ハム・トゥム」の登場キャラ ハム(男の子)とトゥム(女の子)とのカリカチュアされた恋愛談義(罵り合い?)のシーンが、アニメーションで入ってくるのも目新しい。それなりに劇中の主役たちとシンクロしてるような…してないようなエピソードが語られるけども、アニメ技術的にはまぁ…インド頑張れ。
 映画公開とタイアップして、ネット上でマンガ「ハム・トゥム」が掲載されたそうだけど、表情や演技の付け方ではマンガの方がいいんだよねぇ…。

 カラン役のサイーフは、かなり生き生きと軽快に演技してる。最初はわがままで幼稚なカランが、後半には結構いいヤツに見えて来るから不思議。ま、さすがに学生時代を演じるには、顔はともかく筋肉がつきすぎてる気もするけどもももも…。

 リアー演じるラーニーは、もうさすが大女優! なにやらせても様になるわカッコいいわ可愛いわ、多彩な人だよねぇ。学生時代のボブカット(…だよね?)が目新しかったけど、大人になった途端にいつもの超ロングヘアに変わってもーた。インドじゃ、成人女性はストレートロングにする不文律でもあるんかいな(*2)。後半に、より複雑なキャラとなるリアーをしっかり演じ分けているのもさすがである。

 リアーの母親役には、いつものインドのおかんキーラン・ケール。リアーの結婚相手にはアビシェーク・バッチャン。後半にカランの友達役でイーシャ・コッピカルがゲスト出演。
 さらにはカランの父親役にリシ・カプールが登場!(*3)。なんか、パリの風景とリシって似合って見えてくるのが不思議…。


挿入歌 Ladki Kyun (君は知ろうとしない[女の子は、男の子が気に入らないことを])


受賞歴
2005 National Film Awards 主演男優賞
2005 Filmfare Awards 監督賞・主演女優賞・コメディ演技賞(サイーフ)・女性プレイバックシンガー賞(Saanso Ko Saanso Mein)・シーン・オブ・ジ・イヤー賞
*この年のFilmfareでは、ラーニーは本作で主演女優賞を受賞した他、「Yuva」で助演女優賞も受賞していたりする!
2005 IIFAインド国際批評家協会賞 主演女優賞
2005 Star Screen Awards 主演女優賞・監督賞・作詞賞(Hum Tum)・特殊効果賞
2005 Zee Cine Awards 主演女優賞・歌曲(録音)賞
2005 Bollywood Movie Award 主演女優賞
2005 Golden Indian Film 主演女優賞・台詞賞



2010.10.8.

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*1 今作でも、そんな話題も出て来るけど、あまり突っ込んで男女の友情を語らないで、匂わせる形で描かれるのがインドらし…い?

*2 ま、さりげなく、未亡人になったことでインドから逃げ出してきたことが描かれてるんだけど…。

*3 この後、同じ主演&監督作の「Thoda Pyaar Thoda Magic」にも神様役で出ておりましたっけ。