インド映画夜話

Highway 2014年 133分
主演 アーリア・バット & ランディープ・フーダー
監督/製作/脚本 イムティアーズ・アリー
"連れ出された所も、これから連れて行かれる所も、どちらにも行きたくない"
"でも、この道だけは素晴らしいの。出来ればこの道が、ずっと終わらないでほしい…"






 デリーの有名な実業家の箱入り娘ヴィーラ・トリパティの結婚式前夜、彼女は家を抜け出し婚約者ヴィナイと夜のドライブを楽しんでいた。
 「このまま駆け落ちしよう!」と興奮するヴィーラに呆れるヴィナイが、さっさと彼女を家に帰そうとするその時、突如強盗グループがヴィーラを人質にとり、そのまま彼女と車を強奪してしまう!!

 ヴィーラをアジトまで連れて来た強盗犯マハビール・バティは、政界や法曹界ともつながるトリパティ家の名前に恐れをなす仲間たちを尻目に「連れて来ちまったんだからしょうがないだろ! オレがなんとかする!!」と人知れず彼女を隠せる場所を探して移動を開始。
 当初は、強盗団への恐怖からパニックになっていたヴィーラだったが、マハビールとその仲間たちとの交流の中、徐々に今まで体験した事もない生活と見た事もない風景の中で、ずっと自分が求めていた"なにか"を感じ始めていく…。
「なんで、さっきの検問中に逃げなかった? あんたが逃げられる最高のチャンスだったのに!!」
「分からないわ……分からないものは分からないんだもの」


挿入歌 Patakha Guddi ([蛍のように] 凧のように)



  誘拐された少女と誘拐犯の間に芽生える関係性の変化と、それに伴う両者の人生観・家族観の相違と共振、両者の抱える過去の傷と孤独の相剋をテーマにした映画で、本作と同じくイムティアーズ監督が手掛けたヒンディー語(*1)テレビドラマ「Rishtey(関係)」の同名タイトル回を元にリファインさせた映画。

 映画冒頭から何度か繰り返されるカシミール〜デリーまでの街道を進む風景の数々、1つ1つの舞台の切り取り方の美しさったら! そこで生活する人々の文化の違い、生活環境の違いを通して、画面と台詞と音楽で表現される珠玉の映像詩に酔いしれさせてくれる一作。

 イムティアーズ監督曰く構想15年と言う本作は、突如主人公ヴィーラに降り掛かった思いがけない旅を通して、流れ行く街道とそこを行き交う人々の暮らしが、人生の不確定さ、人の生きる力、人生の意味/無意味を問い続けていく物語を描いて行く。
 それは、次々変わる風景や、現代っ子ヴィーラの適応力の高さやトラウマから来る彼女の秘密、ヴィーラやマハビールの抱える家族に対する孤独、2人の関係性のゆらぎで構成され始める疑似家族関係(*2)、場所によって変わる街道の様子や流れ続ける河によって表現され、1つ1つの画面レイアウトの美しさも相まって、爽やかに、寡黙に、人生の儚さ・ままならなさを映しとって行く。その雄大な大地、A・R・ラフマーンの音楽とのシンクロ具合の素晴らしさは、まさに至高の映像美!!

 監督を務めたイムティアーズ・アリーは、1971年ビハール州ジャムシェードプル(*3)生まれ、ビハール州パトナ育ち。父親は灌漑業をしていたとか。弟に、やはり映画監督のアリフ・アリーがいる。
 少年時代から伯母のいるジャムシェードプルにたびたび滞在して、映画館の映写室に潜り込んで映写技師と仲良くなって入り浸っていたために、学校を落第してしまった事もあるとか。後にデリー大学に進学して演劇に参加し、ムンバイに移ってザビエル・コミュニケーション研究所を卒業。TVドラマ「Kurukshetra」「Imtehaan」の監督として働いた後、04年のヒンディー語+ウルドゥー語(*4)映画「Black Friday(ブラック・フライデイ)」ヘの出演を経て、翌05年にヒンディー語映画「Socha Na Tha(思いもかけない事)」で映画監督&脚本&編集デビュー。同年には「Ahista Ahista(ゆっくりと、ゆっくりと)」で脚本も担当している。
 07年の2本目の監督作「Jab We Met(私たちの遇う時)」が大ヒットしてフィルムフェアや国際インド映画協会(IIFA)の台詞賞他を獲得。その後も順調にヒット作を連発し、ボリウッド(*5)におけるロマンス映画の第一人者になっていく。本作は5本目の監督作で、自身で設立した映画製作プロダクション"ウィンドウ・シート・フィルムズ"製作第1作となる。この後、15年の監督作「Tamasha(スペクタクル)」で東京ロケを敢行し、17年現在製作中と言う「Love In Tokyo」リメイク版でも日本ロケを予定しているとか。

 撮影に入った段階で、まだ脚本が完成していなかったため、ロケーションと役者の演技のシンクロ具合によって話を変えて行ったと言うけども、まったくそう思えない映像シークエンスの流れるような一体感、繰り返される意味深なイメージの数々、終始一貫した詩情豊かな語り口と、まさにイムティアーズ・アリー始め映画製作のプロがしっかりきっかり持てる技術を投入して作っている余裕まで見えるかのような映画。
 不穏な出だしから爽やかな主人公の内的成長劇、思いもかけない急展開と、画面的にも物語的にも様々に変わりゆく人生模様の現れ具合。無駄なものが一切ないその映画構成力と、それを支えた各スタッフ&キャストの技術力には、ただただため息しかでませんわ!


プロモ映像 Maahi Ve ([貴方は私の影のよう] 大好きな人よ)




受賞歴
2014 Stardust Awards サーチライト主演男優賞(ランディープ)・サーチライト監督賞・審査員選出明日のスーパースター女優賞(アーリア)
2015 Film fare Awards 批評家選出主演女優賞(アーリア)
2015 Star Guild Awards 組合総裁賞
2015 Screen Awards 女性プレイバックシンガー賞(スルターナー&ジョティ・ノーラン / Patakha Guddi)
2015 GiMA(Global Indian Music Academy) Awards 映画アルバム賞(A・R・ラフマーン)
2015 PTC Punjabi Music Awards ヒンディー映画部門最優秀パンジャービー音楽賞(ジョティ&スルターナー・ノーラン / Patakha Guddi)




「Highway」を一言で斬る!
・ランディープ・フーダーってあんな老けた顔してたっけ…と2度見したら、しっかりランディープ・フーダーだった…。

2017.1.27.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 父と娘・母と息子・兄と妹・姉と弟…。
*3 現在はジェールカンド州に所属。
*4 ジャンムー・カシミール州の公用語でパキスタンの国語。主にイスラム教徒の間で使われる言語。
*5 製作拠点のムンバイ(旧称ボンベイ)+ハリウッドで、ヒンディー語娯楽映画の俗称。