インド映画夜話

まばたかない瞳 バンガロール連続誘拐殺人 (Imaikkaa Nodigal) 2018年 170分
主演 ナヤンターラー & アタルヴァー & アヌラーグ・カシュヤプ
監督/脚本/原案 R・アジャイ・グナナムトゥ
"止められるものなら、止めてみろ"




 ベンガルールで多発する誘拐殺人事件解決のため、CBI (Central Bureau of Investigation=中央捜査局)所属のアンジャリ・ヴィクラマディティヤン率いる捜査班は、新たな誘拐事件の現金引渡し現場の張り込みを開始していた。
 だが、用意周到な包囲網にも関わらず犯人は人質を殺害し、正体不明なまま身代金を持ち去り消えてしまう…!!

 翌朝、娘シャリーニー(愛称シャールー)を小学校へ送っていたアンジャリの元に捜査局から電話が入る…「早く、早くTVをつけてください。緊急事態です!」
 TVニュースはその時、誘拐殺人犯その人からの電話での宣戦布告を放送していた…「5年前に世間を騒がせた連続殺人犯の"ルドラ"を覚えているか? そう、"ルドラ"はまだ生きている。犯人とされたヴィネーシュ医師は身代わりだ。CBIのアンジャリ捜査官によってでっち上げられた事さ。"ルドラ"はこの俺…事件はまだ続く。次の日曜日、新たなターゲットを狙うぞ。止められるなら止めてみろ、アンジャリ…」!!


挿入歌 Vilambara Idaoveli (それは、まるで午後のCM休憩)

*主役級のアルジュン演じるアタルヴァーとともにメインを張るのは、アルジュンの恋人クリティ演じる女優兼モデル兼歌手のラーシー・カンナ。


 原題は、タミル語(*1)で「瞬きもしない一瞬の時間」の意とか。
 タミルのスマッシュヒット・ホラー映画「デモンテの館(Demonte Colony)」で監督デビューしたR・アジャイ・グナナムトゥが、ボリウッドのヒットメーカー アヌラーグ・カシュヤプを迎えて贈るサイコスリラーのヒット作。
 インド本国より1日早く米国で公開が始まり、インドの他クウェート、フランスでも公開。テルグ語(南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語)吹替版「Anjali C.B.I」も公開された。
 日本では、2021年のIMWタミル・クライム映画特集にて「まばたかない瞳 バンガロール連続誘拐殺人」の邦題で公開。同年に、IMO(インディアン・ムービー・オンライン)にて配信。

 連続殺人犯が起こす騒ぎを中心に、二転三転していく捜査と逃亡劇、それに巻き込まれた一般人も含めて視点や善悪のどんでん返しが連続する、サスペンス映画の傑作。まあ、そのハッタリ具合は多少暴走気味ではあるけれど…。

 当初の主人公、シングルマザーの有能捜査官アンジャリの奮闘劇って点では15年のヒンディー語映画「Jazbaa(激怒せよ)」的な映画かなあ…と言うイメージで見ていた出だしだったけど、物語の進行とともに主人公が変わり始め、"ルドラ"を名乗る殺人犯側の視点や、一見本筋と関わりないように見えていたアンジャリの弟アルジュン医師のロマンスが事件に関わっていく群集劇的展開は、後半見えて来始める"ルドラ"事件の真相の衝撃をより鮮やかに印象的に彩る映画構成となっている。
 さりげなく撒かれる伏線が効果を発揮する、ラスト近くの映画的密度のパワフルさは毎度のことながら見事。3人の主人公がそれぞれに追い続けるルドラ像の恐怖が、それぞれに別の形で主人公たちに影響を与え、三者三様の"ルドラ"との対峙を見せてくれる物語構造に、色んな意味が重ねられてるような…でないような所も深読みしてしまいたくなる粋な展開ですことよ。

 ライオンヘアな主役演じるナヤンターラーや、その弟役のアタルヴァーも終始カッコええですが、なんと言っても これがタミル語映画デビューとなるルドラを名乗る快楽殺人狂の犯人を演じるアヌラーグ・カシュヤプの強烈なインパクトが全編に渡って発揮される映画でもある。
 主人公アンジャリを追い詰めるために、誘拐事件のみならず、アンジャリの一般生活の隣でひっそりと様子を伺うアヌラーグ・カシュヤプって絵面だけで「怪しさプンプンじゃねーか!」って悪役オーラだだ漏れですわ。一人でアイスクリームショップで聞き見立てながらアイスにがっついてるシーンの異様さったらもうw
 さらに、出番は少ないながら反抗期に入るか入らないかのアンジャリの娘シャリーニー演じる子役マーナスヴィー・コッタチの啖呵セリフもカッコかわいくてイチオシ。うん。

 次々とアンジャリたちが犯人に出し抜かれる前半、アタルヴァー演じるアルジュンのロマンスとそれが事件に巻き込まれていく悲劇を描く中盤、事件の意外な真相を突き止めた三者三様の顛末を描いていく後半と、映像的ハッタリ重視の絵作りに緩急のついた緊張感を持続させ、グイグイとこちらの興味を鷲掴みにしていく。
 その分、サスペンス劇としてのトリックその他は多少ゆるい部分もあるけれど、画面的緊張感の作り方が巧みなため、あまり気にはならない…と言うか、アンジャリ側のドラマとアルジュン側のドラマが交互に区別なく展開する情報量によって、その辺を気にしているヒマがなくなる意図的演出ってやつでしょか(考えすぎ?)。画面の影から急に現れる"ルドラ"の恐怖は、まさに神出鬼没、八面六臂な活躍ってもんでオソロシィィィィィ…!!!

 それにつけても、相変わらずこの手のインド映画は色んな意味で人命が軽すぎんよ。ホント。

プロモ映像 Imaikkaa Nodiyil



「IN」を一言で斬る!
・タミル語で『赤ちゃん』とか『愛しい子』は『パッパー』。覚えました。

2020.2.7.
2021.4.4.追記

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。