インド映画夜話

弁護士ジョリー (Jolly LL.B 2) 2017年 137分
主演 アクシャイ・クマール & フマー・クレーシー & サウラブ・シュクラー
監督/脚本/原案 スバーシュ・カプール
"誰かが、立ち上がらなくては"




 弁護士ジョリー(本名ジャグディシュワール・ミシュラー)は、父の跡を継いでラクノウでは1番有名なリズヴィ弁護士の事務所に就職していた。
 しかし、助手として働いていた父同様、職場では弁護士としての仕事は一切任されないままでその助手業ばかりをこなす毎日のため、早く自分の事務所を持とうとあの手この手で資金を貯める今日このごろ。

 そのリズヴィ氏を頼りにやって来た身重の寡婦ヒナ・カシムに請われて、訴訟のためにリズヴィ氏の協力取り付けを口約束したジョリーだったが、事務所資金の頭金目的に彼女が用立てた訴訟費用20万ルピーを横領してしまう。
 事務所設立後にお金を返そうとしていたジョリーだったが、騙されたと知ったヒナは彼を罵倒し、そのまま自殺してしまう…!! 以後、事務所から追い出され、父親から縁を切られ、罪の意識に苛まれ続けるジョリーは、自分の行為を反省するためヒナが訴えようとした彼女の夫の不審死に関する再捜査を要求するPIL(Public Interest Litigation = 公益訴訟)を起こすことを決意するのだが…。


挿入歌 Go Pagal(バカになれ!)

*春迎祭であり「新たな出会いを祝福する祭」でもあるホーリー祭の喧騒に仮託された、主人公たちの幸せの絶頂感を表現するパリピソング!
 …はしかし、「新たな出会い」の予兆でもある続く展開の伏線でもある。


 別題「The State vs Jolly LL.B 2 (国 vs 弁護士ジョリー 2)」。
 同じくスバーシュ・カプール監督による、2013年のヒンディー語(*1)映画「Jolly LLB (弁護士ジョリー)」の続編。
 裁判長役のサウラブ・シュクラーとバラナシのグル・ジー演じるサンジャイ・ミシュラーのみ続投で、その他の登場人物は全て一新されて、前作との物語的つながりはない(*2)。その大ヒットにのって、シリーズ3作目の企画もあるとかないとか。

 インドより1日早くクウェートで公開。インドと同日公開で英国、パキスタン(ホンマ?)、米国でも公開されている。
 日本では、2017年にインド映画同好会にて「ジョリー法学士2」のタイトルで上映。2019年にはIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)でも「弁護士ジョリー2 ~真実を白日のもとに」のタイトルで上映されて、2021年には映画配信サイトJAIHOにて「弁護士ジョリー」のタイトルで配信。 その邦題で、2022年にCS放送されている。

 いやはや、これは痛快!
 前から「これ面白いから見た方がいい!」とお勧めされつつ手が出てなかった映画なんだけど、めっちゃオモシロいじゃないですかー!!(*3)

 独立のために手段を選ばないダメ弁護士ジョリーの、ハチャメチャな活動から始まる映画は、コメディ的に描かれるカンニング指導やら裁判官への侮辱演技なんかで主人公の強引な性格を描いていく事が以降の伏線になっていくんだけど、「ロボット(Enthiran the ROBOT)」とかでもテストのカンニング行為で笑いを取ってたけなあ…と、つかみはOK的なその定番コメディ要素がニントモカントモ。
 そんな常識破れな主人公が、自身の行為によって起こる取り返しのつかない顛末を悔い、そこから始まる原告不在の公益訴訟を通して、インドの公権力にはびこる不正・人命軽視・腐敗の有様を露わにしていく。自身の欲望に忠実な庶民な凡人が、一念発起して社会を変えていく様は、その重すぎる業ゆえの目覚めではあるものの、そのまま正義に目覚められてもなあ…と思っていれば、相手はより以上の極悪人が勢ぞろいだし、最終的にいいとこ持っていくのはサウラブ・シュクラー演じる裁判長の演説だったりする所も、心得た演出すぎてニクい。
 事件の背景にある公権力腐敗・寡婦問題・カシミール問題も交えて、警察も政治も頼りにならないインドの現状に対し「裁判所だけは皆が頼りにして来る場所である」と断言するインドという社会の持つ「法治主義」への信頼とそれを裏切るまいとする心情が、映画のように社会を良き方向へと変えていってほしい…と願わずにはいられないインパクトある一本となっている(*4)。

 監督を務めるスバーシュ・カプールはニューデリー出身。
 ヒンディー文学の修士号取得後、政治記者として働き出す中、00年代に入って短編映画、ドキュメンタリー、CM制作を手がけ、06年にムンバイに移住して本格的に映画制作に着手。07年のヒンディー語映画「Say Salaam India」で長編映画監督デビューを果たす。続く10年の「Phas Gaye Re Obama(オバマ、俺たちは閉じ込められたよ)」がそこそこのヒット作となった後、3本目の監督作である「Jolly LLB」が大ヒットを飛ばしてフィルムフェア原案賞と台詞賞を獲得。
 しかし、14年に女優ギーティカー・タイヤーギーが監督から直接の暴力と性暴力を受けたと告発され逮捕(ののち即保釈)。本作以降、映画界から一旦距離を置かれているよう(19年現在)。

 ジョリー役のアクシャイとともに映画の顔となっている裁判長スンデルラール・トリパティを演じているのは、1963年ウッタル・プラデーシュ州ゴーラクプルに生まれたサウラブ・シュクラー。
 母親はインド初の女性タブラ奏者ジョーガマーヤー・シュクラー。父親は歌手シャトルガン・シュクラーになる。
 2才の頃にデリーに家族で引っ越して、デリーの大学に進学する中で舞台演劇に参加。91年にはNSD(国立演劇学校)レパートリーカンパニーに籍を置き、94年のヒンディー語映画「女盗賊プーラン(Bandit Queen)」で映画デビュー。男優活動と並行して、98年のラーム・ゴーパル・ヴァルマー監督作「Satya(真実)」ではアヌラーグ・カシュヤプとともに脚本を担当して脚本家デビューし、スター・スクリーン脚本賞を獲得。以降、ヒンディー語映画を中心に男優兼脚本家として活躍し、00年の出演作「Hey Ram」タミル語(*5)版でタミル語映画デビューした他、05年の「Balu ABCDEFG」でテルグ語(*6)映画に、翌06年の「Care of Footpath」でカンナダ語(*7)映画に、08年の「スラムドッグ$ミリオネア(Slumdog Millionaire)」でイギリス映画にもデビューしている。

 ジョリーの妻プシュパー・パーンデーイを演じたのは、1986年ニューデリー生まれのフマー(・サリーム)・クレーシー。
 父親はレストラン・チェーン店経営者。弟に男優兼モデルのサクィブ・サリームがいる。
 デリーの大学で歴史学の学士号を取得。その大学時代に舞台演劇に参加して演技を学び、ドキュメンタリー映画制作にも参加している。その後ムンバイに移住してモデルとして働き出す中で、映画オーディションにも参加。いくつかの企画が流れた後、彼女に感銘を受けたアヌラーグ・カシュヤプの誘いを受けて12年のヒンディー語映画「Gangs of Wasseypur」2部作で映画デビューして、BIGスター・エンタテインメント他の新人女優賞を獲得。カンヌ国際映画祭で上映されたことで国際的な評判を勝ち取ることになった。同年公開の「Luv Shuv Tey Chicken Khurana」で主役級デビューとなり、以降ヒンディー語映画界やTV界で活躍。16年には「White」でマラヤーラム語(*8)映画に、17年には英印合作映画「英国総督 最後の家(Viceroy's House)」で英語映画に、18年には「カーラ(Kaala)」でタミル語映画にもそれぞれデビューしている。

 常識破りの弁護士キャラがわりと似合ってるアクシェイもいい味出してますが、やっぱり映画の顔として君臨してるのは、ひょうきんな裁判長演じるサウラブ・シュクラーのインパクト。
 その丸々としたシルエットだけでも、他の映画でも相当な存在感なわけだけど、弁護士たちを抑えようと四苦八苦する姿も、アーリア・バットのファンを公言する得意顔も、裁判を通しての法治の意味を問うスピーチの堂々さも、なんとも素晴らしいオーラ全開でありますことよ。裁判もの映画として、ギリギリの所で説教くさくなるセリフを劇中の自然なセリフに抑えつつ、法の番人としての「法治」の意味を問うそのプライドのありよう、そのインド社会における裁判業の重要性を高らかに謳う様のなんと小気味好いことでしょうか!

ED Jolly Good Fellow(ジョリーは良き隣人)


受賞歴
2017 Zee Cine Awards 視聴者選出主演男優賞(アクシャイ)


「弁護士ジョリー2」を一言で斬る!
・『裁判長スンデル』ってタイトルで、スピンオフ続編作ってもいいのよ…(というか見たいー!!)

2019.10.18.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 裁判長が、主人公に「同じ名前の弟いる?」って聞いてるシーンがあるので、いちおー世界はつながってはいるみたいだけど。
*3 盛大な手のひら返し…すいまそん。
*4 まあ、現実はどうなのよ、って話もあるでしょうが。
*5 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*6 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*7 南インド カルナータカ州の公用語。
*8 南インド ケーララ州の公用語。