インド映画夜話

JAWAN/ジャワーン (Jawan) 2023年 169分
主演 シャー・ルク・カーン & ナヤンターラー & ヴィジャイ・セートゥパティ
監督/脚本/原案/ゲスト出演 アトリ
"さあ、行くぞ?"




 インド北東部の国境付近にて、瀕死の男が部族民に助けられ治療されていた。
 ずっと昏睡状態だった男は、突如村が襲撃に晒された時に目覚めて敵を撃退。皆殺しにする。村人たちから「救世主」と讃えられた男はしかし、その時には過去の記憶を失っていた…。命を助けられた少年は男に語る。「僕が大人になった時、あなたが誰なのか調べます。ここに誓います…!!」

 それから30年後。
 ムンバイメトロ00381号ヴァルソヴァ発ガートコーパル行きが突如ハイジャックされる。6人の女性率いるハイジャック犯リーダーは、女性客1人を射殺すると監視カメラを通して管理室に要求する…「まともな交渉人を用意しろ。政府と交渉でき、話の通じる人物を…」
 警察は、フォース・ワン(マハーラーシュトラ州立の、対武装組織鎮圧を目的に結成されたムンバイ都市圏警察武装組織)代表ナルマダー・ラーイ・ラトールを交渉人に指名。犯人との交渉を進めるが、4万カロール(=4兆ルピー)もの身代金を要求する犯人は、人質に武器商人の富豪カリー・ガイクワドの娘がいると伝え、彼に身代金を払うよう命令。カリーは、連絡を受けるとすぐに莫大な身代金を即決で支払うのだった…「4万カロールの負債を、君の父親の銀行は即座に無視した。全国の農民が抱える同額の借金は自殺に追い込むほどに追求するにもかかわらず…これが、この国の現実だ」

 人質解放後、すぐに行方をくらませた犯人グループを追跡できないまま、捜査班はカリーを前に経緯を説明する…「70万人もの農民の借金返済にあてがわれた身代金目的だけなら、お嬢さん1人を誘拐すればよかったはず。これは、明確な意思表示です。まだゲームは継続中…次は、倍の仕掛けがあるはず」
 カリーはまた、再会した娘アーリアーから犯人の伝言を受け取ってもいた…「お父さんに伝えろって言ってた…『俺の名前は、ヴィクラム・ラトール』だって…」それを聞いたカリーは…!!


ED Not Ramaiya Vastavaiya (ラーマは必ず現れない)

*ある意味でネタバレ有り。注意。
 リリースされるや、24時間以内にYoutubeで5300万回を超える再生数を数え、国内最多再生数歌曲記録を樹立。ビルボード・インディア・ソングスを始め全てのビデオプラットフォームの全国チャートでトップに君臨した。


 原題は、ヒンディー語(*1)で「兵士」の意。
 2017年の同名テルグ語(*2)映画とは別物。

 タミル語(*3)映画界で活躍するアトリ監督と女優ナヤンターラーの、ヒンディー語映画界デビューとなったスパイアクション大作映画。
 タミル語吹替版、テルグ語吹替版も同時公開(*4)。タミル語吹替版制作のため、一部再撮影もされている。
 日本では、2024年に一般公開。

 大ヒット作「テリ(Theri)」や「ビギル(Bigil)」を手がけたアトリ監督をボリウッドに迎え、世直し系南インド風マサーラーヒーローが縦横無尽に活躍する南テイスト満載のアクション活劇大作登場!
 正体不明のテロリストを演じる主役シャー・ルクが丸坊主で登場する衝撃もさることながら、次々に展開するインド社会の混乱、そこに颯爽と登場する各登場人物たちのドラマチック・フレームな絵作りの強さ、そのどれもが印象的かつ爽快な映像を生み出して畳み掛けてくるんだから、最の高の2時間50分はあっという間ですわ!
 そりゃあ、「シャー・ルク・カーン」の名前も南インドスターよろしくド派手にクレジットされるってもんでね!!

 マサーラー映画の常道、インドに何人いるんだって世直し系テロリストが、当初は市民社会を恐怖に落とし込む悪として登場しながら、その実、インドの抱える数々の腐敗が生み出す非人道的な状況や環境を表沙汰にして国家を相手取ってその責任を追求する、その姿勢が次第に「悪」が「善」のヒーローへと変貌し「そうなったらどんなに良いか」という庶民の夢を体現する存在に成り代わっていくストーリーテリングに詰まった映画的願望、映画的希望、そのカタルシスが、様々なゲスト出演やノリノリのダンスソングと共に強烈な興奮を与えてくれる。

 00年代中盤、ボリウッドの流れを大きく変えたサウスブームの嚆矢「Ghajini(ガジニー)」もまた、タミル語映画のリメイクとして南インド映画界のマサーラー文法を北インドに持ち込んで大人気を呼んだ映画であったけれども、その間にタミル・テルグマサーラーの中で醸成される世直し系仕置人ヒーローが、ここに来て本格的に北インド圏でも求められるヒーロー像として導入されたってことでもありましょか(*5)。
 さらに、映画前半で活躍するナヤンターラー演じる捜査官や、テロに加担する6人の女囚の活躍、その過去の悲劇などは、アトリ監督の過去作「ビギル」を彷彿とするウーマンパワーの表出を描いてるようであるし(*6)、南北インドどちらもが好きな1人2役による父子因縁劇もアトリ監督が3本続けて監督したヴィジャイ主演作だったらどうなってたのかな…と言う興味も刺激される。
 一方で、本作公開当時57歳の主演シャー・ルクの軽やかなアクション&ダンスもノリノリで、父親とその息子の2役をその実年齢も感じさせず、父親アピールもイケオジアピールも嫌味なくこなしてるのはさすが。ゲスト出演のディーピカ演じるアイシュワリヤーとのロマンスの顛末は、「恋する輪廻(Om Shanti Om)」のオマージュという人もいるみたいだけど、過去のヒンディー語映画ネタもバッチリ用意しての映画好き度を試すサービス精神も健在ということなのかどうなの…か?(*7)

 わりと直球な社会風刺を主軸としながら、無実の罪で社会的に抹殺された者たちの反撃というファンタジーを描いていく映画であるせいか、物語は爽快感に満たされて吐いても説教くさい部分はあまりな……あるかも? まあ、ラスト近くの演説はチャップリンの「独裁者」みたいだなあ…とかは思いましたけど。その庶民の反撃がファンタジーであるという事実自体がすでに、インド社会の暗い一面を映し出すわけだし、翻ってそういう映画がなんか日本ではありましたっけ? って思うと、物語としてのファンタジーの力というものが、日本とは全然違う現れ方をしているインドの「お話への希求力」というものが、本当に羨ましく感じられるところでもありますわ。



挿入歌 Chaleya (君の声が聞こえたら [すぐ駆けつける])

*この曲も、ネット上で公開されるや24時間以内に3500万回再生を達成し、2023年度のSpotifyやAmazon Musicでの最多再生歌曲記録を樹立。世界中の多くの言語圏でのカバー曲を生み出している。


受賞歴
2023 NDTV Indian of the Year 監督・オブ・ジ・イヤー賞(アトリ)
2023 Lions Gold Awards インパクトある演技・オブ・ジ・イヤー賞(スニル・グローヴァー)
2023 FOI Online Awards 視覚効果賞(ハレシュ・ヒンゴラーニ)・スタント監督賞(スピロ・ラザトス & ANL・アラス & クレイグ・マクラエ & ヤンニック・ベン & ケチャ・カーンパクデー & スニル・ロドリゲス)

2024 Filmfare Awards アクション賞(スピロ・ラザトス & ANL・アラス & クレイグ・マクラエ & ヤンニック・ベン & ケチャ・カーンパクデー & スニル・ロドリゲス)・特殊効果賞(レッド・チリースVFX)
2024 IIFA(International Indian Film Academy Awards) 主演男優賞(シャー・ルク・カーン)・女性プレイバックシンガー賞(シルパ・ラーオ / Chaleya)・振付賞(G・K・ヴィシュヌ)・音響ミキシング賞(サンパティ・アルワール & クリス・ジャコブソン & ロブ・マーシャル & マルティ・ハンプリィ)・特殊効果賞(レッド・チリースVFX)
2024 Zee Cine Awards 作品賞・台詞賞(スミット・アローラ)・BGM賞(アニルド・ラヴィチャンデル)・音楽監督賞(アニルド・ラヴィチャンデル)・監督賞(アトリ)・主演男優賞(シャー・ルク・カーン)・アクション賞(スピロ・ラザトス & ANL・アラス & クレイグ・マクラエ & ヤンニック・ベン & ケチャ・カーンパクデー & スニル・ロドリゲス)・特殊効果賞(レッド・チリースVFX)
2024 DPIFF(Dadasaheb Phalke International Film Festival) 主演男優賞(シャー・ルク・カーン)・作品賞・批評家選出監督賞(アトリ)・音楽監督賞(アニルド・ラヴィチャンデル)
2024 Pinkvilla Style Icons Awards 人気監督賞(アトリ)

2025 National Film Awards 主演男優賞(シャー・ルク・カーン)・女性プレイバックシンガー賞(シルパ・ラーオ / Chaleya)


「JAWAN/ジャワーン」を一言で斬る!
・ガッバル・シンを例に出すまでもなく、ベルトって手軽な武器なのね…(((;゚Д゚)))ガクガクブルブル

20256.8.1.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある。
*4 公開延期の余波で、マラヤーラム語吹替版、カンナダ語吹替版の製作が反故になったとか。
*5 これ以前にも、そういったヒーロー像はあったけれども。
*6 後半、その他大勢との共闘によって、やや存在感が薄くなるのがさみし。
*7 ちなみに、ディーピカの映画デビュー作が2006年のカンナダ語映画「Aishwarya(アイシュワリヤー)」だったりする!