インド映画夜話

さよならは言わないで(Kabhi Alvida Naa Kehna) 2006年 215分
主演 シャー・ルク・カーン & ラーニー・ムケルジー
監督/脚本 カラン・ジョーハル
"「さよなら」は言わないで。それは再会の機会をなくしてしまいそう。代わりに言って「また会いましょう」と…"






 その日、NY在住の小学校教師マーヤーは、育ての親サムの息子リシ・タルワールと結婚式を迎えるも、直前になって自分はこの結婚を本当に望んでいるのか悩みだしていた。
 そこに通りかかったプロサッカー選手デーヴ・サランは、彼女の状況を聞き出すと「愛は結婚後に探すものだよ」と助言。去り際の彼の「さよなら」の言葉にマーヤーは「さよならは悲しいわ。『また会いましょう』と言うべきよ」と言って別れていく。
 その直後、マーヤーが無事に挙式する一方で、デーヴは交通事故に遭って選手生命を断ち切られてしまう…!

 それから4年。
 少年サッカーのコーチをしつつ、ファッション雑誌編集長の妻リヤーの収入に頼りきりのデーヴは、自暴自棄気味になり次第に家族とギクシャクした生活を送るようになっていた。
 ある日、駅で息子アルジュンと口論してる所を幼児誘拐犯と間違えられたデーヴは、その場で息子を連れ出そうとする女性をサッカーボールでノックアウトしてみると、なんとその女性は懐かしのマーヤー!
 2組の夫婦はこれをきっかけに親交を深めるが、デーヴもマーヤーもお互いの夫婦間がうまく言っていない事にすぐ感づき始める。2人は、頻繁に会っては夫婦生活の改善を話し合うようになり、次第にその距離を縮めていく。人生の目標を見失い、リヤーや息子との価値観のズレに悩むデーヴ。子供も出来ずセレブなタルワール父子との生活が苦痛になっていたマーヤー。2人のお互いの家族との溝は広がる一方となり、そうなればなるほどデーヴとマーヤーの間に愛情が芽生えていく…。


挿入歌 Mitwa



 通称"KANK"。日本では、2006年に東京国際映画祭にて上映。
 全編アメリカロケが敢行され、インドではタブー視されている既婚者同士の不倫劇を主題にしたハリウッド色の強い映画。…のためにインドでは賛否両論渦巻き、話題作であると同時に問題作ともなったそうな。

 本作に先立つ03年のシャールク&プリティー主演映画「たとえ明日が来なくとも(Kal Ho Naa Ho)」とほぼ同じNYロケで作られていて(*1)、カラン監督のハリウッド嗜好が全面に現れた映画……かもしれない(*2)。

 主演男優は、カラン監督作「クチホタ」「K3G」でもおなじみのシャー・ルク・カーン。主演女優には、この2作でセカンドヒロインを勤めていたラーニー・ムケルジーがついにカラン映画で主演を勤める事に。前2作のアンジェリがいないラーフルとティナの恋物語…と強引に楽しんでも面白かったり?(あぁ輪廻は回り巡る…)
 主演女優にカージョルを呼ばなかったのは、それなりに意味があるのかな?…と思ってたら、単にスケジュールがあわなかっただけで元々はカージョルで行くはずだったと言う噂も。

 脇を固めるのは、タルワール親子役にアミターブとアビシェークのバッチャン父子、リヤー役にプリティ・ズィンダー、デーブの母親カマルジート役にキーロン・ケールがいい味出していて、特別出演でアルジュン・ランパールも(一瞬だけカージョルやジョン・エイブラハム、カラン監督自身も)出てくる。とにかく、派手派手なミュージカルとトップスターたちの共演によるオーラ全開、そして雨に煙るニューヨークの景色の湿りけが美しい。
 にしても、主要人物だけで並ぶと、バッチャン父子とプリティーの背の高さが際立ちますな。シャールクはともかくラーニーがちっこいからかもしれないけど…。

 画面は美しいし、細かな心理描写や人間関係の推移は見事なものなんだけど……やはり不倫劇だからなのか、いちいちドロドロした展開が多くて「うー…む」と困ってしまう。
 冒頭いきなり、ボリウッドには珍しく大観衆で埋まるサッカースタジアムから始まるけど、アメリカってそんなサッカー人気あったっけか。編集のせいかアングルのせいか、シャールクのボールコントロール具合はいまいちカッコ良くない…。
 とは言え、偶然でありかつ出会うべくして出会った(既婚者同士の)男と女が、再会と別れを繰り返す中で、運命の男女へと変化していく人生模様は文句なく美しく、脚本と演出のハイレベルさに唸るだけでもある。既婚者同士の恋愛を、インド映画の中で成立させていくための細心の注意とバランス感覚で舞台設定・心理描写・物語構成を組み上げてるあたり、やはりハリウッドと言うよりはばっちりボリウッド映画構造で作られている映画ではある。

 ヒンディー語で「さよなら」を言う時は、挨拶と同じ「ナマステ」か「また会いましょう」と再会を約す「フィル・ミレンゲ」と言うそうで、劇中で指摘される別離の文句「アルビダー」はアラビア語由来の単語なんだそうな。ヒンディー世界では、"別れ"と言うものは意識されないから適当な単語を用意しなかったって事かいな?
 マーヤーに指摘されて「グッバイ、サヨナラ、グッバ〜イ」と英語と日本語でにこやかに返すデーヴが微笑ましい(*3)。

 どーでもいいけど、バレエを見るときはイチャつかないで舞台に集中して鑑賞してくれー!


挿入歌 Rock N Roll Soniye





受賞歴
2006 Global Indian Film 助演男優賞(アビシェーク・バッチャン)・女性プレイバックシンガー賞(Kabhi Alvida Naa Kehna)
2007 Filmfare Award 助演男優賞(アビシェーク・バッチャン)
2007 IIFAインド国際映画批評家協会賞 主演女優賞
2007 Stardust Award 助演男優賞(アビシェーク・バッチャン)
2007 Star Screen Award No.1コンビ賞(シャールク&ラーニー)

2012.8.3.

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*1 この映画は、カラン・ジョハールがプロデューサーで参加してたりする!
*2 その完成系が2010年の「マイ・ネーム・イズ・ハーン」か?
*3 60年代のボリウッド映画「Love In Tokyo」のミュージカルによって、いまだにインドで最も有名な日本語は「Sayonara」!